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第2話【未来来希の謎】 その8「バーガー合戦」

「ホーッホッホッホ!今日の私はラッキーレディよ!」


 突然、E・トゥルシーが高笑いを始める。


「どうした?四つ葉のクローバーでも見つけたんか?」


「そんなガキ臭い趣味無いわよ!!」


 ロムの問いかけに憤慨(ふんがい)するE・トゥルシー。コイツ、ロムのオモチャにされてるな…。


「じゃあラッキーって何?」


 ミラクルがステッキを手にしながら改めて問いかける。


「一つはサブローだかって強い中学生が見当たらないこと。もう一つは…」


 そう言ってE・トゥルシーが(ふところ)から紫の物体を取り出す。


「インソムジャーの素体として最高のモノを見つけたからよ!セッサー!!」


「はい!E・トゥルシーさん」


 そう答えてセッサーは「ある物」を上司に手渡した。


「あ、ソレ私のバーガー!」


そう、「ある物」とはミラクルが食べかけの状態にしていたスペシャルパクチーバーガーだったのだ!


「私が手伝ってあげると言ったでしょう?カモン!インソムジャー!!」


 E・トゥルシーが食べかけのスペシャルパクチーバーガーに紫の物体を押しつける。


「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!!」


パクチーバーガーに手足と醜悪(しゅうあく)な顔の付いたインソムジャーが生まれてしまった!


「ああっ!私のバーガーが!」


「何よ、()らなかったんでしょう?貴女、コレを食べてものスゴい顔をしてたじゃない」


「それは…」


「とてつもない食べ物に違いないわ!インソムジャー、ティアーミラクルに攻撃なさい!!」


「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!」


 スペシャルパクチーバーガーを素体としたインソムジャーがミラクルにパンチを仕掛ける。


「フェアリーティアーズウェポン・チェンジ!」


 ミラクルはインソムジャーのパンチを(かわ)しつつステッキを変形させ、


「ミラクル・シャイニングアロー!!」


光の矢を相手に向けて放つ!


「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛…」


 矢が当たった所から黒いモヤが吹き出し、インソムジャーが苦痛の声を()らす。恐らく、あの黒いモヤがポンイーソーの言うネガバイタルなのだろう。


「ちょっと!何のために素体を選んだと思ってるのインソムジャー!バーガーらしい攻撃をしなさいな!!」


 いや、それならそうと最初から命令しろよ。つーか何だよ「バーガーらしい攻撃」って!


「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!」


 E・トゥルシーの無茶ぶりに応え、インソムジャーはバンズの上のゴマを飛ばし始めた。


「とおっ!!」


ミラクルが光の矢で応戦する。

 激しい飛び道具の応酬…は良いんだけど、あのパクチーバーガーの凶悪なトコロってバンズのゴマ(ソコ)じゃ無いんだよなぁ。


「頑張りなさいな、インソムジャー!ミラクル一人くらい、他のヤツらが来る前に倒しなさい!!」


 そう言えばそうだ!E・トゥルシーの言葉で思い出したが、今この場にいるフェアリーティアーズはミラクル一人だけなのだ。

 オレはさりげなく周囲を確認してみる。ポンイーソーの姿が見当たらない。恐らくアイツは今、モノクロトリオから身を隠しつつテレパシーで海月と有原にSOSを送っているのだろう。ココに近い場所にいれば良いのだが…。

 って、ロムはコソコソ何やってんだ?誰も注目してない隙を突いて、自分の昼食(ランチ)を回収しに行ってやがる。呑気(のんき)なモノだな…。


「ちょっと!何ボサボサしてるのセッサー!!」


 不意にE・トゥルシーの怒号が聞こえてきた。


「私の侵略に必要なモノは何!?」


「あ、えっと…」


「何考え込んでるんだセッサー!E・トゥルシーさんの侵略に必要なモノなんて人質しか無いだろう!?」


 同僚の情報担当(ヂョーサー)肉体労働担当(セッサー)に釘を刺す。


「あっ!スマン、ヂョーサ…」


「グズグズしない!トットと持ってくる!」


「はい!E・トゥルシーさん!!」


 返事をするや否や、ハンバーガーショップの入口に体を向けるセッサー。店内の客や店員を人質として持ってくるつもりか!


「…ぐへぇっ!?」


 その時、いきなりセッサーが苦痛の声をあげた。何かが頭に当たったらしい。


「な、何だぐほっ!?」


 再度モノが飛んできた方にオレは目を向ける。ロムだ!ロムがバーガーセットのポテト(太めのタイプのヤツ)を、昔の教師が生徒にチョークを投げつけるかの(ごと)く、敵に投擲(とうてき)したのだ。


「くそっ、やりやがったな…?」


「君に人質~を確保す~る能力~なんてな~い♪」


 相手を小バカにしつつ、ロムは次の投擲物(とうてきぶつ)を投げつけた!


「おっとっと!」


セッサーがソレを上手くキャッチする。

 …おかしい。ロムが本気でモノを投げたら、簡単に取れるワケがない。


「そう何度も食らうかよ!」


 得意げにキャッチしたモノを見せつけるセッサー。ソレを見てオレは確信する。やっぱりロムは手加減して投げてたんだな。


「オレにランチを(おご)ってくれるなんて太っ腹じゃねえか!こんなもん、ペロリだぜ?」


 そう言ってセッサーが、ソレに勢いよく(かじ)り付く!


「うっ、ウオエエエエ!な、なんじゃコリャアァァ…」


 はい、お察しの通り、ロムが手加減して投げつけたモノはスペシャルパクチーバーガーでした。ミラクルの分はインソムジャーと化してしまったが、ロムの分は手付かずで残っていたのだ。アイツ、昼飯を回収してたんじゃ無くて、投げるモノを調達しに行ってたのか。


「アーハッハッハッハッハ!!」


 苦しむ相手の姿を見て、ロムが爆笑する。いや、そもそもパクチーってこういうのに使うモンじゃねえからな!?人質回収の妨害についてはナイスだけど!


「何してるの!セッサー!!」


「何が起こったんだ、セッサー!」


 E・トゥルシーが怒号を浴びせ、ヂョーサーが心配の声を投げかける。


「わ、分からん…、この草、スゴい臭いでブゴォっ!!」


 コレまでとは比べ物にならないスピードで、セッサーの顔に何かが直撃した。


「あ、ちょ、ソレ…」


思わず、オレは落胆の声を漏らす。ロムが最後に投擲したのは、オレの昼食のチーズバーガーだったのだ…。


「「セッサー!!」」


 味方からの声かけも(むな)しく、セッサーはその場に倒れ込んでしまった。


「キャアアアアア!!」


「何てことだセッサー!血まみれじゃないか!!」


 E・トゥルシーとヂョーサーが悲鳴をあげる…ってソレ、血じゃねえから!ケチャップだから!オレのチーズバーガーの!!


「フッ、食べ物で遊ぶとバチが当たるって言うだろう?」


「いや、一番食べ物で遊んでんのはお前じゃい!!」


 とうとうガマン出来ず、オレは勢いよくツッコミをかましてしまう。


「あら…」


「ヤベッ!」


 良いところに人質が、と続けかねないE・トゥルシーから、オレは急いで距離を取る。


「あ、あのガキンチョ、意外とすばしっこいわね!」


「勘弁してくれよ、カズ?」


気が付くと、ロムがオレの近くに立っていた。逃げ足の速さには自信があるのだが、やはりロムも負けていない。


「ツッコミ入れてくれんのは嬉しいけど、お前に何かあったら、サブローがどんなバケモンに変身するか分からんぞ?」


「ああ…、そりゃまあ、そうだな…」


「フン、まあ良いわ。今はミラクルの始末を優先すれば良いんですもの」


 ロムという強力なボディガードを手にしたオレに、E・トゥルシーはアッサリと見切りを付ける。


「それに、セッサーは無能なりにキッチリと置き土産を(のこ)してくれたんですもの!」


 勝手に部下(セッサー)()き者扱いしつつ、E・トゥルシーはインソムジャーに指示を下す。


「インソムジャー!葉っぱの臭いを凝縮(ぎょうしゅく)させてミラクルに打ち込みなさい!」


な、何ぃ!?


「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛…」


 命令を受けたインソムジャーが、未来来(みらくる)の歯形が付いたパクチーの前に両手をかざす。見る見るうちに緑色の不穏なエナジーが(たま)っていき…


「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!」


インソムジャーがソレをミラクルに投げ飛ばした!


「うわぁ!!」


 ギリギリの所で、ミラクルはエナジーの直撃を回避出来た。しかし…


「う、うぅっ…」


腕で顔を(おお)い、ミラクルの動きが止まってしまう。

 無理も無い。パクチー独特の臭いを何倍にも濃縮させた強烈なヤツが、距離を取ったオレの所にまで流れ込んできやがった!オレは急いで(おのれ)の鼻をつまむ。


「うひゃあ、コイツァ勘弁して欲しいね…」


 そう愚痴(ぐち)ってロムまで鼻をつまむレベルだ。臭いの発生源に近いミラクルが(ひる)むのは当然だろう。


「今よ、インソムジャー!」


「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!」


 動きの止まった(ミラクル)にインソムジャーが襲いかかる!


「キャアア!!」


インソムジャーの強烈なパンチがミラクルに直撃してしまった!

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