第2話【未来来希の謎】 その7「実験の成果」
「………、え?」
ロムから真実を告げられた未来来は、困惑の表情を浮かべた。
「だから今日、宜野ヶ丘台公園からお前んアパート通り過ぎて、Uターンしてココまで来ただろ?アレ、全部ワザとだったんだよ!ホントは店がココにあるって知ってたんだよ!」
「…え?え?えぇ!?」
未だに混乱から抜け出せないでいる未来来を、ロムはニヤニヤ眺めている。
「ど、どうしてそんなコトを…?」
という未来来の当然の疑問に対しても、
「いや、お前を無意味に歩かせてやろうと思ってな!それ以外の理由なんてねぇよ」
とニヤニヤし続けながら答えた。
なるほど、ネタばらしまで含めて「未来来を怒らせる実験」だったのか!確かに今までの実験は、怒らなかったのが「大人数の方が嬉しいタイプの人だから」「トランプや花札に興味があったから」「好きな人と一緒に歩ける時間が増えたから」といった理由も考えられた。
だが今ココで「意味も無くお前をワザと歩かせた」とネタばらしされたら、相手のことがどれだけ好きだったとしても、多少なりとも怒って然るべきだろう。
「えー!?何ソレ??」
にも関わらず、未来来は全く怒る様子を見せなかった。
コレはもう、間違いあるまい。「未来来には『怒り』の感情が無いのではないか?」というロムの予想は正しかったのだ。
「どう?ここまでやられたらどう?普通、腹の底からこうふつふつと…?」
とうとうロムは殆ど答え合わせみたいな問いかけをし始めたのだが…、
「『ふつふつ』って何ぃ?今日のロム君はサッパリだよ~!」
と未来来は何かに気付く様子すら見せないのだった。この様子を見るに、彼女は「怒り」の概念自体を知らないらしい。これもロムの推理通りだ。
「おぉ~!!これは良いんじゃない?素晴らしいんじゃない?仮説の証明の完成なんじゃない?」
ロムが満面の笑みをオレに向けた。己が立てた仮説を己が実験で証明できたことが何よりも嬉しかったらしい。
「良かったじゃん、じゃあもう…」
「お待たせしました~」
未来来に実験のこと教えてやれよ、と言おうとした所で邪魔が入ってしまった。
「スペシャルパクチーバーガーのセット2つと、チーズバーガーのセットになりまーす」
店員がオレ達の席に注文の品を運んできた。未来来とロムの前に置かれた物体を目にし、オレは唖然とする。写真と寸分変わりない、スペシャルパクチーバーガーがソコにあった。写真はイメージです、のパターンじゃ無かったのか…。
「うわ~!すっごーい!!」
未来来が感銘を受けている。まあ、パクチー好きもパクチー嫌いも、初見は同じ反応になるでしょうね。
「さあ、この世界での未来来のパクチーデビューだな!思い切りガブって行けよ!」
「うん!」
ロムに言われるまま、未来来がバーガーを顔の前に運んだ。…が、ココで彼女の手が止まる。
「ねえ、ロム君?なんかこのバーガー、臭いが強くない?」
ああ、そうだよな。こんだけパクチーが詰められてたら、口に入れる前から臭いはするだろう。
「あー、パクチーってそういうモンよ。さささ、気にせずガブって行けよ、ガブって!!」
「う、うん…」
軽く受け流して実食を促すロムに困惑の視線を向けつつ、未来来がスペシャルパクチーバーガーにかぶりつく!
「う、うげぇ~…、な、何コレぇ~」
ハイ、ダメでした…。彼女はオレと同じく、パクチーダメ派だったようだ。
「アッハッハッハッハ!」
ロムが手を叩いて大笑いしている。まあ、これも「未来来を怒らせる実験」の一部なのだろう。パクチー好きだったら意味無かったけど。
「ロムくぅん…、これホントに大人気なのぉ?」
「おうよ!一大ブームを起こした食いモンってのに間違いはねえぞ!なあ、カズ?」
「あ、ああ…」
確かに、一大ブームを巻き起こしたのは紛れもない事実な為、否定は出来ない。
「えぇ、じゃあ、ロム君も塔岡君もコレ好きなの?」
「フッフッフ」
「あ、いや、その…、オレはそんな好きじゃないんだよね…、臭いが強くてさ…」
嘘をつくのも忍びないので、オレは正直な感想を伝えた。
「え?でも一大ブームを巻き起こしたって…」
「それは本当だよ。好きな人にとっては本当に堪らない野菜らしいんだ。未来来さんのチャレンジを邪魔するのも良くないかなと思ったんだけど…、申し訳ないっ!」
「そ、そんな謝らないでよ、塔岡君!頼んだのは私なんだから!」
ああ、この反応、サブロー事件の時と同じだな…。ここでロムやオレを責めない辺り、やはり未来来に怒りの感情は無いようだ。
「うーん…、このバーガーどうしよう…」
未来来が腕を組んでスペシャルパクチーバーガーの処理に悩み始めた時だった。
「私が手伝ってあげましょうか?」
突然、オレの背後から声が聞こえた!!
「あーっ!あなたはっ…!!」
未来来が声の主を指差し、大声をあげる。
「う、うわあああ!!!」
オレは背後を振り向き、驚きの声を上げた。
「い、E・トゥルシー!!」
「ハーイ、ボーイゼンガール」
声の主は「インソムニア」の侵略尖兵、モノクロトリオの頭領ことE・トゥルシーだったのだ!
「おぉ、これは謀らずともナイスタイミング」
オレと未来来が驚きの反応を示す中、ロムだけが飄々としてやがる。
「で、手伝うって何?インソムニアのオバハン、パクチー行けるクチか?」
「ちょっ…!誰がオバハンよ!!」
「お、お前!E・トゥルシーさんに失礼だぞ!!」
「E・トゥルシーさんはお姉さんだろう!?」
E・トゥルシーの背後で、部下2人が抗議の声を上げる。
「私をオバハン扱いしたこと、後悔させてあげるわ!ネガーフィールド、起動!!」
E・トゥルシーがネガーフィールドの起動スイッチを入れ、空が紫一色となる。
「希!変身するポン!」
今までぬいぐるみのフリをしていたポンイーソーが未来来に声をかけた時、不意にオレの体が後ろに引っ張られた!
「うわっ!セッサーか!?」
E・トゥルシーの部下の筋肉担当に背後を取られたのかと思っていたが、
「わしじゃよ、一典」
オレを引っ張った犯人はロムだった。オレのことを掴んだまま、後ずさりを始める。
「ろ、ロム!?」
「はいはい、幾ら何でも近くに寄りすぎよー。ある程度の節度は守りましょうねぇ」
「な、何の話を…」
一瞬ガチで何の話をしてるのか分からなかったが、
「オープンアイズ・メタモルフォーゼ!!」
未来来の発した変身呪文で、その意味を察した。ちょっと!誤解ですよ、誤解!…なぁんて言いつつ、変身シーンはシッカリ観察しちゃうんですけどね。
おぉ、良いねぇ、未来来の全裸!この膨らみかけの胸と、それと同等の小さい尻が良いよねぇ。出てくる女キャラ全員がボンキュッボンな漫画があるけど、やっぱそれだけじゃダメなんですよ。「こういうのが好きなんでしょ?」って言われて毎日揚げ物ばかりメシに出されてもダメなのと一緒なんだよ。世界は大中小で構成されてるんだからさ!
「来る!絶対来る!希望に満ちた未来を守り抜く笑顔の魔法少女!ティアーミラクル!!」
あずかり知らぬ所でロムの実験に付き合わせていた未来来希は、インソムニアと戦う魔法少女ティアーミラクルへと変身を遂げた。
「見るモンは見たな?行くぞ」
オレの背後からロムの小声が聞こえた。
「オレ達恒温動物~、無脊椎動物~♪和野宏武、見参!遠慮無く『ロム』と呼んでくれ!」
「いや、オレ達ゃ脊椎動物だろ!!人間なんだからさ!」
「…あ、オレら2人はソコのフェアリーティアーズとは一切関係ないんで、そこんとこよろしくお願いしまーす」
そう言ってロムはペコリと頭を下げた。ウソだろ!?今のツッコミをオレの名乗り口上にされたんか?もう一回やり直させてくれよ!…いや名乗る気は無いけども!!




