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第2話【未来来希の謎】 その6「スペシャルパクチーバーガー」

 ロムの先導に従って歩みを続けてきたオレ達は、スタート地点である宜野ヶ丘台(ぎのがおかだい)公園まで戻ってきてしまった。


「ロム君、ココ、宜野ヶ丘台公園だけど…」


「おう、だから道を間違えちまったんだよ。コッチだぞ」


まるで意に(かい)さぬ口調でロムが答えた。

 正直な話、オレはロムの作戦に感心していた。もし彼が未来来(みらくる)に暴力を振るったり、持ち物を(うば)ったりといった(いじ)めに当たる行為をしたならば、(いく)ら実験と言われてもオレは()めていただろう。しかし、彼が未来来を怒らせる為に取った手段はいずれも「ただ空気が読めてないだけ」「道を間違っただけ」と言い逃れ出来る方法で、相手に直接危害を加える行動はしていないのである。


「ねえロム君、大丈夫…?」


 流石の未来来も不信感を(つの)らせたのか、心配そうな声でロムに呼びかける。だが、その表情から「怒り」の要素は見受けられず、心配が100%というカンジだった。先日のアパートでの説明会で聡明(そうめい)な面を見せていたロムが、こんな不自然な道間違いをすれば、そりゃ不安にもなるだろう。


「…、大丈夫だって、もうすぐだからよ」


 ロムは彼女の表情を観察しつつ、そう言葉を返した。コイツも、オレと同じ感想を抱いてるに違いない。


「んじゃ、説明に戻るぞ。さっき話した5種類の光札(ひかりふだ)の内、4枚を集めると本来『四光(しこう)』って役になるんだが、『(やなぎ)小野道風(おののみちかぜ)』が入ると『雨四光(あめしこう)』って役になって得点が下がっちまうんだ…」


 ロムは先程から始めた「こいこい」のルール説明を続け、未来来は前と変わらぬ様子でそれを聴いている。どうも、この方法で未来来を怒らせるのは不可能なようだ。ロムがそのことに気付いてないとは思えないが…。

 まあ良いか。オレはオレの謎解きに戻るとしよう。…とした所で、一つの気付きを得る。一旦別の事柄(ことがら)に気を(つか)ったお陰で、考えをリセット出来たからかもしれない。

 喜怒哀楽を2種類に分ける話で、「怒」と「哀」のどちらかを「喜・楽」のグループに入れれば良いのだろう、という所まで考えが及んでいた。しかし、真に問題となるのはグループ分けが済んだ後の話なのではないか?


『怒りの感情が無くとも、「怒り」の意味くらい知ってるだろ!』


元を辿(たど)れば、ロムが謎解きを提示したのは、オレのこの発言を受けてのことだった。彼はこの指摘に対して否定的な態度を取り、未来来への実験を強行している。…つまり未来来は「怒り」の概念自体を知らないってことなのか!?でも、そんなことってあり得るのか?喜怒哀楽のグループ分けと一体どんな関係性が?

 …待て!そもそも感情を2つのグループに分けるって話自体、どこかで聞いた覚えがあるぞ!

 この瞬間、オレの脳内に散らばっていた幾つかの記憶(ピース)が猛烈な速さで組み合わさり、一つの答えを形取ったのだ!


「そうか…分かったぞ」

「着いたぜ!ココだ!」


 それらしき答えに辿り着いたオレが発した(つぶや)きは、ロムの到着宣言にかき消された。。

 彼の言葉通り、オレ達の目の前には一軒のハンバーガーショップがあった。周囲の一軒家よりひとまわり大きい大きさ(サイズ)の店舗、緑色の看板に筆記体の英文字、日よけのパラソルが設置されたテラス席…。雑誌で見覚えのある外観だ、間違いない。

 …って言うか、宜野ヶ丘台公園から結構近いところにあるんじゃねえか!未来来を怒らせる実験に付き合ったせいで、大分無駄な歩数を(かせ)がされた…。


「やったー!私もうお腹ペコペコ~!」


 が、未来来はやはり怒ってはいないらしい。腹に手を当てて空腹をアピールする彼女の言葉に、怒ってるようなニュアンスは受け取れなかった。

 結局の所、ロムの予想通り、未来来は怒らなかったのである。(もっと)も、彼女が内心怒っていて、ソレを隠しているという可能性が無いとも言いきれないのかも知れないが、もしそうならば「道化師」の名をロムから襲名出来るほどの立ち振る舞いだったと言えよう。…喜べることなのかは分からんが。


「いらっしゃいませ~」


「店で食事!3人で!」


 挨拶をする店員にロムが告げる。


「ささ、オレの(おご)りだ。ありがたくいただけよ~」


「うーん、何にしようかなぁ…」


 未来来がメニュー表とにらめっこする。


「そりゃ当然、このスペシャルパクチーバーガーだろ!」


 ロムはそう言って、メニュー表で一番スペースを取っているハンバーガーの写真を指差す。

 ウゲッ、なんだこのバーガー!?バンズの間に(はさ)まってるのが緑色(パクチー)だけじゃねえか!!いや、よく見ると緑の合間に茶色(パティ)赤色(トマト)が見えるんだけど、こんなのパクチーの風味に消されて(ほとん)ど感じられないだろ!何だろ、パクチー好きってココまでタップリ詰め込まないと気が済まないのかな?よく分からん…。


「これがオススメなの…?」


「ああ!お前に教えてやるが、パクチーはこの世界で一大ブームを巻き起こした人気絶頂の野菜なんだぜ!」


 ロムが異世界出身の未来来に、ウソともホントとも言えない微妙なラインの知識を教え込んでいる。いや、確かに間違ったことは言ってないんだけど、パクチーを語る上で一番重要な「賛否両論」という言葉を省略してやがる。まあ、恐らくコレも「未来来を怒らせる実験」の一部なんだろう…。けど、まさかオレまで巻き込んだりしねぇよな?


「う~ん、どうしよう…」


いや、やっぱりココは先手必勝だ!

 オレは悩んでる未来来の横で注文を済ませる。


「すいません、チーズバーガーのセット、飲み物コーラで一つ」


「あ、カズ!空気読まねぇなぁ!」


 当然のようにロムが反応するが、オレも黙っちゃいられない。


「勘弁してくれロム、散々歩かされたんだぞ?昼飯まで付き合う義理は無ぇよ!」


「付き合うって…?」


 オレの言葉に、未来来が反応してきた。

 どうしよう?思えば未来来も十分被害者だよな?これ以上ロムの好き勝手にさせるのは良くないのでは?…あぁ、でもそうだ。さっき自分で思ったがパクチーは「賛否両論」なんだよなぁ。もしかしたら未来来の口に合うかもしれない。チャレンジする機会を失わせるのも、それはそれで彼女にとって良くないかもしれない…。


「あーまあ、気にするなよ未来来!」


 ロムが未来来を相手に誤魔化(ごまか)している。仕方ない、今日お前に付き合うのはこれで最後だぞ!


「自分で頼むモノは自分で決めなよ、オレはオレの頼みたいモノを注文しただけだから」


 悩んだ挙げ句、パクチーについての真実を隠した上で、未来来に言葉をかけた。これって別にイジメに荷担したとかにならんよな!?ホント、大目にみて下さい!


「良いコト言うじゃねえか、カズ!オレは当然、スペシャルパクチーバーガーのセット、飲み物はメロンソーダで!」


「緑色ばっかじゃねえか…」


 オレが軽くツッコミをいれる中、未来来も決心がついたらしい。


「じゃあ、私もロム君と同じモノをお願いします!!」


元気よく店員に注文をする。


「スペシャルパクチーバーガーのセット、飲み物メロンソーダで2つ。チーズバーガーのセット、飲み物コーラで1つですね。席までお運びいたします」


「カズ、テラスの方で席取っといてくれ!」


 ロムが会計をしつつ、オレにそう伝える。なるほど、店内にはボチボチ人がいるが、テラス席に座ってる先客はいないようだ。恐らくランチを食べつつ、実験の答え合わせをするに違いない。その際には魔法少女のコトとか平行世界のコトにも触れるだろうから、周囲の人が少ない場所を選んだのだろう。

 店の出入り口から一番遠いテラス席を選んで、未来来と腰掛ける。会計を済ませたロムも、程なくして席に着いた。


「ロム、もうそろそろ良いんじゃね?もう、満足する結果は得られただろ?」


 オレはロムに言葉をかけた。オレの良心をチクチク痛めつけていた罪悪感に、そろそろ耐えられなくなっていたからだ。


「まあまあ、もうそろフィニッシュの時間だとは思ってた所だから、早まるなよカズ!」


「フィニッシュって何が?」


 当然、未来来が反応してきた。


「未来来、お前に一つ教えてやるよ」


「…?」


 そう前置きして、ロムは真実を告げた。


「今日、道を間違えて逆走するハメになっただろ?アレ、実はワザとだったんだよな!」

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