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第2話【未来来希の謎】 その5「喜怒哀楽の分類問題」

「おう!よく来てくれたな未来来(みらくる)!」


 いつもの調子でロムが未来来を出迎える。「未来来を怒らせる実験」を心中で(たくら)んでるコトなど、事前に知らされてなければ気付けないだろう。この辺の内心を隠す技量は流石(さすが)「サッカー部の道化師」と言った所か。


「エヘヘ、ロム君が美味しいランチ食べさせてくれるって言うから、喜んで来ちゃった」


 満面の笑みでそう言う未来来。そんな口実で呼び出されたのか、可哀想(かわいそう)に…。


「おう!カズと一緒に3人で行くぞ!」


 オレはココで、ロムの実験が(すで)に始まっていることに気が付いた。

 未来来がロムに好意を抱いてるのは明らかだ。そんな男子からランチのお誘い。ウキウキ気分で待ち合わせ場所に着いたら、()らない男が一人…。「ロム君と二人きりで行きたかったのに!」という怒りが()いても不思議じゃ無いだろう。

 オレに対して事前に実験内容を話した理由もハッキリした。何も知らされてなければ、オレは空気を読んで帰ってしまったに違いない。無論、今ココで帰ることも出来ないワケではないのだが、「これから未来来を怒らせるぞ」と宣言されてしまった以上、2人だけ残してこの場を去るワケにはいかない。ロムよ、お前ヒドいヤツだな!!


「そうなんだ!よろしくね、塔岡君!」


 しかし未来来は、そう言ってオレに笑顔を向ける。どうやらこの程度で彼女は怒らないようだ。まあ、この場合は個人差があるだろう。「人数が多ければその分楽しい!」って考える人も一定数いるだろうし、そもそも未来来とロムはまだ恋人同士ってワケじゃ無いし…。


「うん、よろしくね、未来来さん…」


 だが、このままロムに使われる立場でいるのも面白くない。少し反撃してやるか…。


「今日はロムの(おご)りなんだよな?全く、大した男だぜ!!」


「おうよ!オレってば(ふと)(ぱら)だろう!?ハッハッハ!!」


 軽く返されてしまった…。この程度の反撃はアイツの想定内だったか?まあ、奢りを約束させただけヨシとするか。実験に参加する報酬だ。


 そんなワケでオレ達三人は宜野ヶ丘台(ぎのがおかだい)公園を出発した。ロムの見つけた個人経営のハンバーガーショップが目的地で、パクチーたっぷりのハンバーガーが名物なのだそうだ。

 実はオレも、ロムの言うハンバーガーショップを知っている。雑誌か何かで紹介されていたのを覚えていたのだが、場所までは記憶していなかった。オレはパクチーが大の苦手なのだ。ブームになった時に一度試したのだが、入浴剤を食べているかのような香りが口いっぱいに広がり、危うく吐き出しそうになったのを覚えている。


「…んでもって、ハートとスペードがメジャースート、ダイヤとクローバーがマイナースートって呼ばれてるんだ」


 道中、ロムは休むヒマ無くトランプの知識を未来来に教え込んでいる。「この世界の娯楽を教えてやる!」という前置きで始まったトランプ談義だが、正直退屈でしか無い。

 彼は実物のトランプを(もち)いること無く、「トランプは4つのスートと1~13の数字、更にジョーカー1枚で構成された…」とか口頭(こうとう)で全てを説明しているのだ。実際にこれからトランプで遊ぶならまだしも、そんな予定も無いカードゲームの話を(それも全部口頭の説明で!)聞かされるのは苦痛でしか無い。「もうその話いらないよ!」と言いたくなること()け合いである。

 サブローを呼ばなかった理由も十分理解出来た。ロムの話が未来来を怒らせる目的でされていると知っていたとしても、アイツなら既に大噴火を起こしていたに違いない。


「ふーん」


 だが、未来来は嫌な顔を一切せず、ロムの話を真剣に聞いていた。この世界の遊びに興味を持っているのか、好きな人のする話なら何でも良いのか、はたまた単なるお人()しか…。オレには判断が付かなかった。


「それで、8を出すと『8切り』と言って強制的に流れを切って自分のターンに持ち込めるワケだな。後はジョーカーを出した後にスペードの3を出すと『スペ3返し』と言って…」


 ロムもめげずに「大富豪」のルールを口頭で説明している。未来来には怒りの感情が無い、という前提なのだから、これくらいは想定内なのだろうか。…でもソレに付き合わされてるオレへの配慮は一体どうなってるんだ!

 …と怒りが湧いてきた所で、オレはロムの言葉を思い出す。


『少しヒントをやろう。喜怒哀楽って四字熟語があるよな?あれを2つのカテゴリーに分けると…』


この言葉…。コレについて考えながら時間潰ししろって、そういうことなのか?真意は分からんが、このままロムのトランプ談義を聴いていても(みの)りは無い。少し考えてみるか…。

 喜・怒・哀・楽の4つの感情。これを2つのカテゴリーに分けるとどうなるか?単純に考えば喜と楽、怒と哀だろう。前者が正の感情、後者が負の感情といったトコロか。…だが、この答えを提示してロムから「大当たり~」という返しが来るとは思えない。何故(なぜ)ならそんなのは何の(ひね)りも無い、つまらない解答だからだ。アイツがそれを良しとするハズが無い。じゃあ他の分け方は…?


「あれ?ココ、私の家…」


 未来来の声でオレは自分の考えから引き戻される。彼女の言う通り、オレ達は例のボロアパートの前を通り過ぎる最中だった。


「ああ、ハンバーガーショップはこの先だ。行こうぜ」


 そう言ってロムは先に進む。なるほど、これも未来来を怒らせる手段の一つか。ハンバーガーショップがこの先にあるなら、わざわざ未来来を宜野ヶ丘台公園に呼び寄せる必要が無い。最初から彼女のアパートを集合場所にすれば済む話だ。


「うん!」


 だが、この件についても未来来は怒る素振(そぶ)りを見せない。まあ、好きな人と一緒の時間が増えてハッピー的な考えも出来ないワケでは無いが…。

 と、そんな風にして未来来のアパートを過ぎて5分ほど歩いた時だった。


「やっべ!道を間違えてたぜ!」


突然ロムが頭を抱える。


「そうなの?」


「ああ、コッチだったぜ」


 そう言ってロムはUターンし、歩いてきた道を引き返し始めた。無論、この間違いもわざとなのだろう。わざとなのだろうが…


「ロム、次こそ大丈夫なんだろうな?」


未来来に(さと)られないよう、オレはロムに(さぐ)りを入れる。この調子で無意味なウォーキングを続けられては(たま)ったモンじゃない!


「おう、次こそ大丈夫だカズ。さあ行くぞ!」


 そう返答してロムは歩き続ける。コイツの言葉を信用するしか無いか…。


「じゃあ、トランプの次は花札の説明をしてやるか!」


 ウゲッ!花札の説明だと!?好きな人には申し訳ないが、あんなモン、トランプの説明よりも退屈になるのは間違いない。トランプと違って花札は風物(ふうぶつ)絵柄(えがら)になってる分、頭に入りにくく覚えづらいからだ。


「まず花札は12の月から構成されててな…」


 ダメだ!48枚の説明を口頭でする気だぞコイツ!調べてみれば分かるが、実物を使わず口先だけで花札を説明するなんて、無謀(むぼう)にも程がある!

 こんな説明に耳を(かたむ)ける意味は無い。オレは再び、ロムから提示された謎解き(?)に考えを集中する。

 喜怒哀楽を2種類に分ける。それも「喜と楽」「怒と哀」以外で。オレは他の分類を試してみたが、どれもしっくり来ない。何だ?何が間違っているんだ?

 考えを何巡か(めぐ)らせたトコロで、一つの思い付きが生まれた。そうか、4を2・2で分けようとするからダメなのか。喜と楽は性質が似通(にかよ)っていて、この2つを無理に分けようとすると違和感が出てしまう。4を3・1で分けるのが正解なのか?だとすると、「喜と楽」のグループに「怒」もしくは「哀」のどちらかを入れるのが自然だが…。


「あれぇ!?」


 とココまで考えが(まと)まったところで、またしても未来来の声でオレは現実に引き戻された。

 彼女が声を上げたのも無理は無い。オレ達は今、スタート地点だったハズの宜野ヶ丘台公園の前に来ていたのだった。

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