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第1話【ピンクの魔法少女 ティアーミラクル】 その4「バケモノ!?」

 あり得ない光景を目にし、オレは腰を抜かす。赤いスーツを身につけたワインレッドの髪の男が、上空からゆっくりと下りてきたのだ。一体どうなっているんだ!?


「あー、ハータックパイセ~ン!」


 自分を「イナちゃん」と名乗る白髪の女性が、赤スーツの男に声をかける。


「リカちゃん、イナちゃん。君達は何をやってるんだい?」


「え~?パイセンの指示どーり『フェアリーティアーズ』探してんすけど~?」


「おいおいおいおい、だからってこんなイッパンピープルに尋ねたって、不審がられるだけじゃないかリカちゃん。見たまえよ、こんなに(おび)えちゃってマア」


「え~?それパイセンがフワフワ浮いてっからっしょ?」


「……」


イナちゃんの口答えに「パイセン」と呼ばれた男は黙り込んでしまう。一方のオレは、驚きのあまり言葉を出せず、腰を抜かしたままだった。


「何も言えなーい!イナちゃんの勝ち~!ハータックパイセンの負け~!」


「いやいや、どっちもどっちだとオレは思うが?」


「確かにそうかもぉ。ドッコイドッコ~イ」


「あ、あの、貴方方(あなたがた)は一体…?」


 3人組の会話があまりにユルユルだったため、オレは腰を抜かした状態から立ち直れつつあった。


「おっとっと、名乗るのを忘れていたな」


立ち上がったオレに対して「パイセン」が自己紹介を始める。


「オレの名はC・ハータック!『インソムニア』に所属してるんだぜ!この2人はリカーディアとイナーティ!『インソムニア』のオレの可愛い後輩さ!」


「い、『インソムニア』って何ですか?」


「おう、それはな…」


「パイセン、パイセン」


白髪の女性「イナーティ」が「ハータック」パイセンの服を引っ張る。


「コイツに『インソムニア』のコト教える必要あんすか?」


「………」


沈黙。


「そういや全然無いんだぜ!!」


「えぇ…」


あまりにもテキトーなパイセンに、オレは呆れてしまう。


「パイセーン、コイツどうするんすか?」


 青色の女性「リカーディア」がパイセンに尋ねた。


「どうするんすかって、コイツを巻き込んだのは君達なんだが?」


「でもでもー、カワイイ後輩のミスをフォローすんのもパイセンの仕事っしょ?」


「それにー、『インソムニア』のこと口走ったのパイセンだし」


後輩2人に反論されたパイセンは悩む素振りを見せる。


「そうだなぁ…。よし、眠っててもらうか!」


 そう言って「パイセン」もといハータックは、(ふところ)からスイッチを取り出した。土台が紫、押す部分が赤色で、形だけ見ればレストランで店員を呼ぶ時に使うスイッチにソックリだ。


「ネガーフィールド、起動!!」


 ハータックがスイッチを押すと、紫のモヤみたいなモノが勢いよく噴出した。モヤはあっという間に辺りに充満していく。気が付くと、空が紫色に染まっていた。


「え?え??え???」


もはや何が何やら…。オレは辺りをキョロキョロ見回すことしか出来ない。


「パイセン、コイツなんか無事じゃね?」


「ハァ~。適合者だったか…。君達本当に厄介な人間を巻き込んでくれたねぇ」


「「いや~、それほどでもぉ」」


「褒めてねえんだが!?」


 混乱するオレを尻目に、3人組は相変わらずユルユルの会話を続けている。


「あ、アンタ達!一体何したんだ!?毒ガスか?」


「お前に教える必要は無いなぁ。まぁでも毒ガスじゃねえから安心しな」


ユルいハータックだが、オレにはもう何も教えてくれないらしい。


「『ネガーフィールド』効かないならどうするんすかパイセン?」


「ま、方法変えるしか無いよなぁ」


 そう言ってハータックは懐からスイッチとは別の物を取り出した。先の丸まったトゲが沢山付いた紫のボールみたいな物体だ。祭りのスーパーボール(すく)いで似たようなヤツが浮かんでるのを見たことがあるが、それより一回り大きい。ミカンくらいはあるだろうか。


「カモン!インソムジャー!!」


 そう叫んでハータックはその物体を近くに立っていた「車両通行止め」の道路標識に押し当てる。物体は道路標識に吸い込まれていき、道路標識はみるみる肥大化していく。そして形が変わっていき…


「あ、あ、あ、あ、あ…」


高さ5メートルほどのバケモノに変化したではないか!!太くなったポールの部分から手足が生えており、標識の部分には醜悪(しゅうあく)な顔が張り付いている。


「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 もはや命の危険しか感じない!!オレは死に物狂いでその場から逃げ出した。後ろからヤツらが追ってくるのではないかと気になったが、振り向くことはせずに必死でバケモノから距離を取る。曲がり角を滅茶苦茶に曲がり、ヤツらの目が届かなくなる場所まで必死で逃げる!


「はぁっ!はぁっ!はぁっ!」


 どれくらい逃げただろう。恐らく1分も逃げてないが、10分以上走った感覚に囚われる。オレは近くにあった家の塀の裏に回り込み、恐る恐る後ろを確認する。ヤツらは追ってきていなかった。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


荒く呼吸をしながら空を見上げる。心臓がバクバク鳴っている。空は紫色のままだった。


「ふぅ…ふぅ…ふううぅぅ…」


呼吸も大分穏やかになり、思考回路が起動するだけの血液が脳に送られ、その分の余裕も生まれる。

 とりあえず「気絶せずにその場を逃げ出す」行動を取れた自分を褒め称える。逃げに徹してしまえばコッチのものだ。またもや自慢になるが、オレはとても足が速い。他の運動能力は一般的な中学生男子と比較しても壊滅的なのだが、こと足の速さに関してはロムやサブローにも負ける気は無い。とは言っても長距離を走ることは出来ない。短距離専門だ。


「ヤツら…、一体何者なんだ?インソムニアって言ってたけど…」


 そう自問するが、当然答えなど出てくるわけも無かった。あまりにも現実離れした事が起きすぎた。夢なのでは無いかとも思ったが、激しく高鳴る心臓や全身から吹き出す汗が、コレが現実なのだと告げていた。

 次にオレは、自分の現在地を確認する。逃走経路はメチャクチャだったが、この近辺は生徒会の見回り活動で幾度も訪れている。辺りを見回せばどこにいるのか把握するのは容易だった。現在地は怪物にされた道路標識から直線距離で300メートルほどか。逃げるときは角を曲がったりしたので300メートル以上走ったはずだが、ここまで逃げ切れたのは火事場のバカ(ぢから)というヤツだろう。


「あっ!」


 現在地を把握したオレの目に大変なモノが飛び込んでくる。塀の裏の敷地内にお爺さんが倒れているではないか!色々なことに必死で、今まで気が付かなかった。


「大丈夫ですか!?お爺さん!」


「………」


返事が無い。オレは急いでお爺さんの状態を確かめる。…良かった、息をしているぞ!脈も正常なようだ。じゃあ返事が無いのはなぜなのか。オレはお爺さんの様子を観察する。そして相手の現状に当たりを付ける。


「無気力状態ってヤツか?」


そう独り言つ。お盆休み中の父さんが、墓参りを終えた後こんな感じになっている。「今は何もしたくねぇ~」って状態だ。

 とは言え、これは医学に精通していないオレの見解だ。ひょっとしたら何か重大な病気の前触れかもしれない。怪物や3人組に見つかるのは怖かったが、オレは勇気を出して家の敷地内から飛び出した。助けを呼ぼうと思ったからだ。

 だが、そんなことは無駄なのだと思い知るハメになる。


「何だよ…これ……」


絶望的な状況に膝から崩れ落ちそうになる。通りのあちこちに人が倒れていたのだ。買い物帰りの主婦らしき人が、オレと同じ学校の制服を着た生徒が、皆一様に道路に倒れ込んでいた。目に付く人々の様子を確認して回ると、全員がお爺さんと同じ「無気力状態」に陥っていたことが分かった。


「動けるのは…オレ…だけ、なのか?」


 明らかな異常事態。混乱する頭で必死に原因を突き止めようと試みる。すると、思ったより早く解答が得られた。


『ネガーフィールド、起動!!』

『パイセン、コイツなんか無事じゃね?』

『ハァ~。適合者だったか…。君達本当に厄介な人間を巻き込んでくれたねぇ』

『「ネガーフィールド」効かないならどうするんすかパイセン?』


答えは3人組の会話にあった。ハータックがスイッチを押すことで起動させた「ネガーフィールド」がこの異常事態を引き起こしているのだ。この状況下では皆等しく無気力状態になるハズなのだが、「適合者」であるオレには通用しなかった。恐らくそういうことだろう。


「ということはつまり…」


この状況をなんとか出来るのはオレだけ…ってコト!?


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