第1話【オレと海月、オレとサブロー】 その9「サブローとの約束」
Q.どうして授業を抜け出したサブローは、カズノリに止められても止まらなかったんですか?
A.一緒に行動してたロムが止まりそうになかったからです。
サブローがその話をしてくれた時のことは、今でも鮮明に覚えている。いつも元気なアイツが、何かに怯えるようにして憔悴していたからだ。そう、あれはオレ達が小学3年生だった時のコトだ…。
『なあサブロー、何かあったのか?今日のお前、様子がヘンだぞ?』
『カズノリ…』
『何かあったならオレに話してくれよ、友だちだろ?』
『…前に、オレの名前がサブローなのにどうして兄ちゃんも姉ちゃんもいないのか、ってカズノリからきかれたコトあったよな?』
『ああ、あったねぇ』
『オレも気になってさ、母さんにきいてみたんだよ。その日は教えてくれなかったんだけど、きのう教えてくれたんだ。ちゃんと教えないとダメだ、って思ったんだってさ。それで知ったんだけど、昔はオレにも兄ちゃんが2人いたんだって』
『昔は…?』
『その兄ちゃん2人は、オレが0才の時に死んだんだってさ』
『え!?』
『兄ちゃん2人だけで、しんせきの車でドライブにつれてってもらった時に、後ろから車がスゴいスピードでツッコンできて、ペシャンコになったんだってさ…』
『うわあ…』
『オレはまだ0才だったから、そのことを知らなくて、で、母さんも今まで教えるのをシブってて…』
『ご、ごめん!オレがヘンなこときいたせいで…』
『いいよ。どうせいつか知ることになる話だったんだ…』
『………』
『…なあカズノリ、人ってそんなにカンタンに死んじゃうモノなのか?』
『サブロー?』
『オレは…オレはイヤだ!オレは死にたくない!死んで何も分からなくなっちゃうなんて、そんなのイヤなんだっ!!』
『落ち着けよサブロー!お前の兄ちゃんは、その…、運がワルかったんだよ!』
『そのワルい運が、いつかオレに来るかもしれないんだぞ!?』
『うぅ…』
『弱い人は生きてちゃいけないのか!?強い人じゃないと生きてちゃいけないのか!?オレは…オレは…』
『じゃあ強くなればいいじゃん!』
『…っ!』
『強くなればいいじゃん、サブロー!車にぶつかっても死なないような、強い人になればいいじゃん!』
『カズノリ…』
『オレもサブローに死んでほしくないんだ。だから強くなってよサブロー!』
『カズノリは?カズノリはどうするんだよ?オレだってお前に死んでほしくないぞ!』
『オレにはムリだよ。サブローみたいに強くなんてなれないよ。だから、お前が強くなってオレを守ってくれ!』
『オレがお前を、守る…?』
『マンガで言ってたよ!だれかを守るためなら人はドコまでも強くなれる、って!』
『そうか…。分かった!オレ、強くなるよ!そしてカズノリを守ってやる!考えてみたらお前、弱っちいモンな!』
『えへへ…。じゃあ、オレはお前を止めてあげるね!』
『はあ?強くなれって言ったの、お前じゃんか』
『そうじゃなくて、サブローが行きすぎた時に止めてあげるってコト!マンガであったんだ。強くなりたいと思ってオカシくなっちゃった友だちを主人公が止めるって話がさ。だから、お前がオカシくなっちゃった時は、オレが止めてあげる!オレはお前のブレーキだ!!』
『そっか、じゃあカズノリが止めに来た時はオレもちゃんと止まらなくちゃな』
『うん、ヤクソクだよ?』
『ああ、ヤクソクだ!』
『何々、何の話をしてるんです?』
『おおオノカズ!ちょうどよかった!お前のこともオレが守ってやるよ!お前も弱っちいもんな!!』
『な、何ですサブロー!?いきなり失礼な…』
あの時交わした約束…、今思えば大分オレに都合が良く、いかにも子供っぽい約束だが、その約束をまだ、サブローは覚えてくれているんだ。アイツがオレを守り、オレはアイツのブレーキになる。そんな約束を…。
そうだ、約束を覚えてくれているアイツのためにも、オレは「サブローのブレーキ」としての役割を果たさねばならないのだ!昨日のようにブレーキが遅れるようなことがあってはならない。
今の戦況を確認すると、サブローに蹴り続けられたインソムジャーは、あちこちがヒビ割れて呻き声すら発さなくなっていた。そろそろ止めなければ!
「おーい!サブロー!!ソコまでにして、後はフェアリーティアーズに任せろよ!!」
「…チッ!ストップが入っちまったか」
オレの予想通り、サブローは素直に攻撃を止めて此方に戻ってきた。
「おらよ、トドメ刺せや」
「うん!ありがとう、棚田君!」
サブローがトドメを促すと、ミラクルは素直に感謝を伝えてステッキに力を溜め始める。
「なあ、サブロー」
その横でオレはサブローに声をかける。素直に伝えた方が良いと考えたからだ。
「お前が強さに拘る理由、ドロップ達に話しちまったぞ」
「そうか」
「アイツら、お前が強さに拘ってるトコ、不気味に感じてたからな」
「好きにしろよ。コイツらが知った所でオレは何も変わらねえ」
そう返すサブローの横でミラクルが浄化技を放つ。瀕死だったインソムジャーが浄化され、空は元の色に戻った。
2年3組の連中がいつ起き上がってもおかしくないので、オレ達は急いで最初に来た歩道の場所まで戻る。ココなら皆にバレないハズだ。
「ふう、皆ありがとう!」
変身を解いた未来来が感謝の言葉を伝える。
「と言われても…、今日の私達は何もしていませんがね」
「そうそう。棚田君が殆ど戦ってたから三佳達は何もしてないよ?」
そう言いながら海月と有原も変身を解いた。
「おい、一応言っとくぞお前ら」
サブローが魔法少女3人を指差しながら口を開く。
「オレが死ぬことにビクビクしてたってのは昔の話だ。今のオレは違えからな!」
「…棚田君、別にソコを否定することは無いと思いますよ?」
海月が言葉を返した。
「死を恐れることは生物として普通の反応ですから、何も恥じることはありません」
「雪花ちゃんの言う通りだよ。三佳、棚田君にも人間らしい所があるんだなって、ちょっとホッとしたよ?」
「うるせえ!テメエらがそう言うなら、オレは普通の人間とかけ離れた存在になるだけだ」
「またそんなことを言って…」
「え~?三佳、棚田君のこと少し認めたつもりだったんだけどなぁ」
「ダメだなぁ君達」
ロムが首を横に振る。
「中二病の人に『普通』とか『人間らしい』とか言ったら逆効果でしょ?もっと中二病について勉強しなさい」
「うん、分かった!ロム君が言うなら三佳、中二病について勉強するね!」
「有原、別に中二病について知る必要は無いんだぞ」
黙ってられなくなり、オレは有原に忠告する。ロムのせいで彼女まで中二病に堕ちたら目も当てられない。
「え~?でもロム君が…」
「カズの言う通り!中二病について勉強したせいで中二病になったらどうするんです!?深淵を覗く時、深淵を覗いているのだ」
「えええぇぇぇ!?」
ロムの凄まじい手のひら返しに、有原が困惑の声をあげる。
「フリードリヒ・ニーチェですね…って、深淵を覗く時に深淵を覗いてるのは当たり前じゃないですか!?」
「プッ、ハハハハハハハハハハ!!」
海月の珍しい全力ツッコミに、オレは思わず大笑いしてしまう。
「ハハハハハハ!海月、お前も中々ツッコミがいけるクチじゃんよ!」
ロムが笑い出すと、
「「アハハハハハハハ」」
未来来と有原もつられて笑い出すので、
「フフ、フフフフ」
海月も終いには笑ってしまった。
「フッ、フフ…」
よく見るとサブローも静かに笑っている。いつの間にか、6人全員が笑っていたのだ。
「ちょっとちょっと、笑ってる場合じゃないポンよ!」
そんな空気を壊したのはポンイーソーだった。
「んだよポンイーソー、ノリ悪いなぁ」
「笑い声を聞きつけた人がコッチに来たらどうするポン?」
「そ、それもそうですね!早く教室に戻りましょう!」
こうしてオレ達6人は、再びポンイーソーのワープで学校へと戻った。
「す、すみませーん先生…」
オレは5人を引き連れて、国語の授業中の教室へと戻る。
「僕の勘違いで、皆ちゃんとトイレでした。ついでに僕もトイレに行ってきました」
「おぉそうかぁ。トイレは結構だがぁ、先生、教え直しはしないからなぁ?ちゃんとプリント見てぇ、自分で勉強しておくんだぞぉ。テストに出るからなぁ、故事成語ぉ」
先生はオレ達のことを怒らなかった。元々、授業中に寝られたりすることの多い先生だから、ボイコットの類いは慣れているのかもしれない。今のようにハッキリとテストに出る部分を教えてくれたのは、先生のサービスなのだろう。
オレ達は何事も無かったかのように自分の机に戻り、授業に集中する。
『さっきの6人全員で笑っていた瞬間、アレが普通になれば良いんだけどな…』
故事成語のプリントを見ながら、オレはそう思うのだった。
第二章の第1話【オレと海月、オレとサブロー】 これにて終了です。塔岡一典と海月雪花の関係、塔岡一典と棚田三郎の関係、この二つの関係にフォーカスを当てた話でした。
次回、第一章の第2話は未来来希の謎に迫る話になります。読者の皆さんが彼女に対して持ってる違和感もこの話で氷解する…と思います。お楽しみに!
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