第1話【オレと海月、オレとサブロー】 その4「何を話し合ってたの?」
この日の二時間目、理科の校外実習が行われた。オレ達は今、理科の授業で気象について学習している。三人一組で学校周辺の様々な場所を巡り、風向きや気温、湿度を調べる実習だったのだ。空は青く澄み切っており、北西から吹く風が心地良い。屋外での実習にはもってこいのコンディションだ。
オレ達が今いる場所は、グランドの体育用具置き場のちょうど日陰になっている場所で、周りには誰もいなかった。
「なあ、カズよ」
プリントに観測結果を記し終わったロムが、オレに声をかける。
「お前、朝ギリギリまで教室に来なかったけど、どこにいたんだ?お前に限って遅刻ってことはあるまい」
「あ、え~と…」
一瞬答えを迷ったが、別に隠す必要も無いと思い正直に返答する。
「海月と一緒に生徒会室にいたんだよ」
「なるほど、生徒会室で2人盛りあってたワケですか」
「違うわ!朝っぱらから校内で盛りあう生徒会役員がどこにいるんだよ?頭沸いてんのか」
「ほうほう、じゃあ放課後に盛りあってるってコトね」
「そういう意味じゃねえわ!」
こんな風に茶化されるから、一瞬答えるか迷ったんだよなぁ…。
「朝一で目安箱の中身を確認してたんだよ。そしたら海月が来てさ…」
「あ~、あの大喜利箱ね」
「だッ違う!アレお前のボケ解答を入れる箱じゃ無えのよ!もしかして、今日入ってたアニメキャラが描かれた紙の犯人もお前か!?」
「違うよ~。何でもかんでもオレのせいにされちゃ困るなぁ。つーか、オレ以外にもフザケた紙を入れてるヤツがいるってことは、やっぱり大喜利箱として見られてんじゃんか」
「た、確かにそう見られてるフシが無いとは言えないけど、アレは元々ウチの生徒が快適な…」
「オイ」
目安箱の役割を説明しようとした所で、サブローが割り込んでくる。
「話が逸れてんだろうが。海月と生徒会室で何を話してたんだ?」
「何だよサブロー、お前気にしてんのかぁ?」
からかうような口調でロムが尋ねる。
「うるせぇ。どうせカズノリのことだ。海月に改めて謝罪でもしたんだろ」
「ほ~う、よく分かってるじゃないかサブロー君」
オレは少し偉そうな口ぶりでサブローに言葉を返す。
「じゃあオレが誰のせいで謝ってるのかも当然知ってるワケだな?」
「ああ。全くご苦労なコトだ」
案の定、サブローは一切悪びれない。
「あのなぁ…」
「大体、謝る云々の話は昨日のアレで終わっただろうが。お前はマジメすぎんだよ」
「お前の口からしっかり謝罪の言葉が出ていれば、オレだって今日改めて謝罪しようとは思わなかったわ」
「だから、それ自体が要らない配慮だってんだよ。つーか、海月はオレに負けたことで『強くなりたい』と発破が掛かっただろうが。オレはアイツらの手伝いをしてやったんだよ。世界を救う魔法少女があの弱さじゃ話になんねえしな」
「モノは言い様だよ、ホント」
サブローがこんな調子なのはいつものことだ。だからオレもイラついたりはしない。もう慣れたモンよ。
「まあでも、海月がサブローに負けたことを反省点としてたのは本当だったよ」
「アイツ自身がそう言ってたのか?」
「ああ、生徒会室でそう言ってたわ」
「やっぱりな。オレのおかげだ」
「だからってアイツらに暴力振るったことが正当化されるわけじゃないぞ」
「ままでも、海月がそうやって+の方向に捉えてくれたなら御の字じゃない」
ロムが話に割って入る。
「問題は有原よ。アイツ、ガチでサブローのことを嫌ってるもんなあ」
「いや、お前ら勘違いしてるようだけど、海月もサブローを敵視したままだからな?許されてると思ったら大きな間違いだぞ」
「あらホント?可哀想な棚田の坊ちゃん!」
「そう言うロムも…」
言いかけてオレは口をつぐむ。海月がロムを信用していない件について言いそうになったのを堪えたのだ。
サブローが海月と有原に嫌われたのは一目瞭然だが、海月がロムを信用していないことは公にはなっていない。それをわざわざロム本人に伝えるのは、ただただ不和を撒き散らす行為に過ぎないと思ったのだ。
「ロムも、じゃんけんで勝ってたら同じように3人をボコってたんだろ?人のこと言えんだろうがよ」
よしよし、上手く軌道修正出来たな!
「まあたソレ言う~。たらればの話って醜くないか?」
「大体、オレは海月と有原に嫌われようが構わねえよ」
サブローがそう開き直ったが、
「いやサブローよ。お前このままだと、ちとマズかろうよ」
意外なことにロムがそう忠告してきた。
「何もマズいことなんざ無えだろ」
「いやいや、ネガーフィールド内で動けるのは、現状オレ達6人だけなんだぜ?全員仲良しこよしで行きましょう、とまでは言わんけど、明らかな亀裂が入ってる箇所があるってのはマズかろうよ…ってこと!」
「関係ねえな。敵の連中を全員叩きのめしちまえば済む話だ」
「何かあってからじゃ遅いんだよなぁ。ともかく、何とかしてサブローの信頼を取り戻して貰わにゃなぁ、カズ?」
「え?あ、お、おう…」
オレは生返事をしてしまう。そう言ってるロム自身も海月から信用されて無いんだが?
「ところでカァズ君?他にはどんなことを海月と話し合ったの?」
まるで幼い子供に呼びかけるかのような口ぶりで問いかけるロム。まだコイツはオレと海月の間に情事があったとでも思ってんのか?
「ええと…」
オレは生徒会室での会話を振り返る。ロムとサブローに話せるような事って他にあったっけ?
「海月の正義について、とか」
「聞きたくねえな。虫酸が走る」
「お、サブロー良いねぇ。オレもそう思ったトコロなんよ」
2人が拒否反応を示してくれたので、オレは内心ホッとする。海月の正義を「かっこいい」と評したこととか、絶対言いたくねえ。
と思ったところでロムが
「ああそうだったそうだった。重要なコトを聞き忘れてたぜ」
と言い出した。
「何だよ?」
「海月から、あのスッポンポンな変身シーンについて、何かお言葉は無かったかい?」
「スッポ…!」
ロムのいやらしい表現から、つい海月の裸を思い出してしまい、火が出てるかのように顔が熱くなった。
「こらこら、赤面してる場合じゃないぞ。あの変身シーンについて何か言われたのかい、言われなかったのかい、どっちなんだい!」
「い、言われなかったけど…」
「なるほど~、これでハッキリしましたな」
オレの返答を聞き、ロムは満足そうに頷いた。
「ハッキリって…、何が?」
「フェアリーティアーズの3人は、自分達が全裸になってる変身シーンが外から丸見えなことに気付いてないのかもしれない…ってコト!」
「いや、それは…」
「思い返してみろよ。昨日、あの恥ずかしい変身シーンについての話は3人から一度も挙がったことが無かったろ?年頃の女子なら絶対見られたく無いであろうあの姿について一切言及無しってコトはつまり、そういうコトだろうよ!」
海月の名誉のためにも何か言い返してみようと試みたが、反論材料が思った以上に何も無いことに気付かされる。
もしロムの言うことが正しいなら、これほど有り難い話は無い。無用な罪悪感を抱かず、今まで通りの海月との関係性を続けていけるのだから。
「ケッ、くだらねえ」
「い~や、サブロー。コレは下らないことでは断じてないっ!」
毒づくサブローに、ロムはそう言い切った。
「オレ達があの変身シーンを見物してることがバレたら、一巻の終わりだ。3人から二度と口を利いて貰えなくなるだろうな。それは困るだろ?」
「オレは困らねえな」
「いや、オレは困るのよ」
サブローの返答を、オレは否定した。
「オレは海月と生徒会の仕事とかで今後も関わって行かなきゃならんのよ。後は、言わなくても大丈夫だね?」
「ああ、分かった分かった。オレからバラすことは無いから安心しろよ、カズノリ」
「おいおい、生徒会とか、世界を守ることに比べたらちっぽけなモンだろ」
「オレにとっては両方大事なの!」
「まあともかく、フェアリーティアーズの裸を覗いてるってことはオレ達だけのトップシークレットだ。世界が懸かってると思えよ、良いな?」
ロムが示したゲスすぎる取り決めを、オレは一切迷わず承諾した。生徒の手本となるべき生徒会の一員として有ってはならないことだと、心の奥底では分かっていながら…。




