第1話【オレと海月、オレとサブロー】 その1「一夜明けて」
今回から第二章が始まります。それに伴い、話数も「第1話」からという事になります。新しい章になったからといって変更点があるワケではありませんので、引き続き物語をお楽しみ下さい。
「はぁ~、今回の出撃はマジでヒドかったぜ…」
「ホントっすよパイセン。あんな強い中学生がいるなんて聞いてないっすよ?」
「しかもフェアリーティアーズに変身してない状態でアレだなんて未だに信じがたいっす。いったいどうなってんすかパイセン?」
「まあ、どんな人間が住んでるかなんてのは平行世界によって様々だからねぇ。本来ならああいう危険人物がウヨウヨいる場合、『世界偵察局』の方で弾いてくれるハズなんだが…」
「何ソレ!?職務怠慢っすよ!!」
「その可能性もあるし、もしかすっと他の世界を侵略するためにどうしても避けれない世界だったのかもしんねえし…。まあ、どっちにせよ貧乏くじを引いちまったワケだな、オレたちゃ」
「どうすんすか?パイセン」
「何にせよ、オレに何の事前報告も無いのはオカシイからな。一旦、O・ザルゥ支部長に報告を…」
「あらあら、また失敗してくれたのね?貴方達が失敗してくれると、私の取り分が残るから助かるわ」
「ゲェッ!E・トゥルシー!」
「目上の者には『さん』を付けなさい!部下にどういう教育をしてるのかしら、C・ハータック?」
「うるせえなぁ、パイセンにガミガミ言うんじゃねえよ!可哀想っしょ?」
「ちょ、イナちゃん!?その言い方、オレが逆に惨めじゃね?」
「部下の教育がなってないようね?その調子だもの、侵略がままならないワケだわ」
「なんだよ、エラソーに!ティアードロップ覚醒させた戦犯のクセによぉ!」
「あらあら、ティアーファインを覚醒させた貴女達に言われる筋合いは無くてよ?」
「おっとぉ!ココでC・ハータックに電流走る!」
「うわっ!ビクったぁ」
「どうしたんすか、パイセン?」
「ホホホ、とうとう本格的におかしくなったようね?C・ハータック」
「イヤイヤ全く、E・トゥルシーさんには敵いませんわ」
「「ちょ、パイセン!?」」
「ホーホッホッホ!!ようやく、どちらが上か理解したのね?」
「ええ。このC・ハータック、完璧に理解いたしました」
「ど、どうしちゃったんすかパイセ…」
「だからE・トゥルシーさんには是非とも、ダメダメなオレ達3人に手本を見せて欲しい次第でして…」
「あ、な~る」
「え?イナちゃん?」
「リカちん、ここはイナちゃん達からもE・トゥルシーさんにお願いするっしょ」
「ええぇ!?」
「ホーッホッホッホ!良い気分だわ!未だに立場を理解出来てないお馬鹿さんが一人いるようだけど、まあ良いわ。そこまで言うなら見せてあげましょう!デキるオンナの華麗な侵略、よく見ておきなさい!!」
「「ははーっ」」
「ホーホッホッホ」
「行っちゃったっす…、ってどうしたんすか二人して!?まさかホントにあの馬鹿女に…」
「そんなわけねえじゃん!」
「何言ってんだよ!」
「そ、そうっすよね!良かったぁ…」
「リカちゃん、このままE・トゥルシーが侵略に向かったら、いったい誰と鉢合わせすることになるだろうねぇ?」
「ああー!!な~るっす!」
「いや~パイセン、お主もワルよのぉ~」
「いやいや、途中から俺の意図をくんでくれたイナちゃんも中々ぁ~」
「プ~クスクス、あの馬鹿女が度肝を抜かすサマが早く見たいっすね、パイセン」
「全くだ。いや~、すぐに報告しないでホント良かったぜ」
中学校への道を歩きながらこう考えた。ネガーフィールド内で動ける人間は、どこか心に強さを持っている者とのコトだ。オレの持つ心の強さとは、一体何なのだろうか?
ポンイーソーは一例として「多少のコンプレックスを無かったことに出来るくらい、特定の分野がトビキリ優れている人」を挙げていた。オレはこれに含まれるのだろうか?確かに、クラス会等で人をまとめる才能に関しては結構自信がある。あとは足の速さとか、視力の良さとかか?う~ん、この2つに関してはしっくり来ない。確かに自慢出来ることではあるのだが、ネガーフィールドを打ち破れるようなものか?
他にもポンイーソーは「超絶ポジティブシンキングで、如何なる状況でも絶望しない人」を挙げてたっけ。コレに関しては当てはまらないんじゃないかと思ってる。初めて魔法少女を見た日の夜、色々と考えて眠れなくなったし…。というか昨晩は久しぶりに熟睡出来た。それまでの夜は魔法少女やインソムニアに関して色々考えていたせいで、グッスリと寝ることが出来なかったのだ。本当にポジティブな人間なら、こんなことで眠れなくなるハズが…
『おい、いい加減自分の中でさえも嘘をつくのは止めろよ』
そう声をかけてきたのは、悪魔の恰好をしたオレだった。
『本当は分かってるんだろ?お前は魔法少女やインソムニアについて悩んでたんじゃ無いってな。お前はただ、エッチな変身シーンを思い出してる自分が恥ずかしくて、理由を後付けしてただけなんだよ!「オレが変身シーンを思い出してるのは、魔法少女のことについて真剣に悩んでるからだ。これはしょうが無いコトなんだ」そう言い訳するために、わざわざいらない悩み事を増やして、自分自身に嘘を貫き通す徹底ぶりだ』
ああ、そうか…。そうだったな…。
『もう言い訳するのは止めようぜ?エッチな変身シーンを思い出して興奮しちまうのは、思春期男子なんだから仕方ねえじゃんか。コレに関してさえ正直になれば、お前は中々の楽天家だぜ?』
そう言って、悪魔のオレは姿を消してしまった。
確かに、コイツの言う通りだ。オレはただ、エッチな変身シーンを思い出して興奮してる自分が恥ずかしかっただけなんだ…。本当は魔法少女やインソムニアに関しては、これっぽっちの心配もしちゃあいない。どうせ何とかなる、世界が終わるワケが無い。そう考えてこれまでの日々を過ごしていたんだったなぁ…。
昨晩久しぶりにグッスリ眠れたのは、秘密を共有できる人間が増えたことによる安心感が理由だったのに過ぎないのか…。
中学校に到着したオレは、真っ先に生徒会室へと向かい、目安箱の中を確認する。今日の結果は2枚。先にオレが内容を精査しておく。イタズラ書きを入れられることがしょっちゅうなので、そういう類いは先に弾いておかねばならない。イタズラ投書を予め除けておくのは生徒会庶務であるオレの仕事だ。
ちなみに以前「学校の地下にナイトプールを設営して下さい」という、ガチなのかイタズラなのか判断に困る投書がされていたことがある。まさかと思ってロムに尋ねたところ、犯人だと自供した。
「いや、でも設営してくれたら皆で楽しめるじゃん?ガチの案だぜ、コレ」
と本人が言うので、仕方なく生徒会会議に出すことにし、僅か5秒間で満場一致の不採用となった。
…なんて事を思いだしてたら、ほら!今日も1枚イタズラ書きが入ってた!アニメキャラが鉛筆で描かれている他は、何も書かれていない。中々上手いな…。とは思うが、絵の才能を誇示したいなら別の方法を考えてくれ。
もう1枚の投書は「図書館に下記の本を置いて欲しい」というもので、本の名前がビッシリ書かれていた。確かに真面目な意見ではあるのだが、この類いの投書は図書委員で審査されることになっており、生徒会では議論しない。
とは言うものの、どんな本の名前か気になる。どれ、書き換えはしない約束でちょっとばかし拝見…
「やっぱりココにいたんですね、塔岡君」
しようとしたところで急に声をかけられた。
「うおあぁ!!」
ビックリしたオレは、慌てて声のした方を振り向く。
生徒会副会長にして、魔法少女ティアードロップの変身者でもある海月雪花が、そこに立っていた。




