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第1話【ピンクの魔法少女 ティアーミラクル】 その3「日常の終わり」

 歓迎会終了直後の休み時間。オレの席に海月がやってきた。


「塔岡君、歓迎会お疲れ様でした」


「うん、海月もお疲れ。無事成功と言えるんじゃないかな?」


「そうですね。未来来(みらくる)さんも上手くクラスに馴染めることでしょう」


微笑(ほほえ)む海月の近くにロムとサブローもやってきた。


「いやー、盛り上がったな全く!誰かさんのおかげでなぁ!」


 ロムがわざとらしく歓迎会の成功をアピールする。


「ああ、それに関しては間違いなくロムのおかげだよ。ありがとう」


「ええ、先程の歓迎会は和野君のおかげで成功したと言っても過言ではありません。ありがとうございました」


「おうおう!よきにはからえ!ハッハッハ」


学級委員2人にお礼を言われ、ロムは上機嫌だ。


「ふん、おめでたいヤツらだ」


 そんなオレ達の横でサブローが吐き捨てる。そうだ、サブローも転校生をザコ扱いせず、歓迎会に協力してくれたのだ。礼を言わなければなるまい。

 そう思い、オレは礼の言葉を口にしようとしたのだが、それより早くサブローに言葉を投げかけた人がいた。


「それに比べて棚田君。貴方の自己紹介は何ですか。感じが悪いでしょう?」


海月だ。彼女は品行方正な優等生なのだが、自分が正しいと思ったことはズバリと言ってしまうのがたまにキズなのだ。


「あ゛?んだとオイ?」


 サブローが海月を(にら)み返す。通常時は優男のような顔の彼だが、睨みを利かせた時の眼力は凄まじい。常人ならば恐怖で悲鳴を上げるだろう。


「私は思ったことを言ったまでです。忠告しておきますが、皆さん口にしないだけで同じ事をあなたに思ってますよ」


 一方の海月も負けてない。ひるむ様子を一切見せず、毅然(きぜん)とした態度を崩さない。


「おい、ゴミアマァ…」


「何という口を()くんです!」


「副会長だかなんだか知らねえが、力もねえザコの分際で図に乗ってんじゃねえぞオイ!」


ガンッ!


「おわっ!」


 サブローがオレの机を蹴りつけたので、慌てて机を押さえ込む。海月を威嚇するために蹴ったので、威力は大分抑えたようだ。本気ならば机がバラバラになっていた。


「乱暴は止めなさい!!」


「オレに命令するなゴミアマ!!」


「ピッピッ!ピッピッ!」


 一触即発状態のサブローと海月をはやし立てるように、ロムは扇子(せんす)を手に(実際はしてないので、したフリで)踊っている。この状況を止められるのはオレしかいない。


「ストップ!!」


 そう叫んで席を立つ。2人の間に入り込み、まずサブローに礼を言う。


「サブロー、お前はオレが言った通り歓迎会に協力してくれたよな?おかげで成功出来た、ありがとう!」


「………」


サブローは何も言わず、腕組みをしながらオレの後ろにいる海月を睨んでいる。


「塔岡君…」


「良いんだよ」


オレは海月の方に目を向ける。


「海月にはサブローの態度が悪く見えるかもしれないけど、コイツと付き合いの長いオレから言わせてもらうと、アレでもめちゃくちゃ協力的なんだ。それに、これ以上喧嘩を続けるのは転校生の手前、良くないだろう?」


 その転校生は今、大量のクラスメイトに囲まれていてコチラの喧噪に気付いてない。


「た、確かにそうですね…。ここまでにしましょう」


「おい!謝れアマ!!」


「まあまあサブロー!海月の代わりにオレが謝るから、怒りを収めてくれ!」


 頭を下げるオレの横で踊り続けているロムが憎たらしい。


キーンコーンカーンコーン


「チッ!」


「ここまでかぁ、残念」


「迷惑をかけて済みませんでした、塔岡君」


 タイミング良くチャイムが鳴り、全員各々の席に引き上げていく。


「はぁ~」


 オレはため息をついて椅子にドッカリと腰掛ける。歓迎会の進行よりもよっぽど疲れる時間だった。






 放課後。オレは家までの道を歩きながら3人の顔を思い浮かべる。気性の荒いサブロー、波乱やトラブルが大好きなロム、自分の正義を譲らない海月。皆の()が強いせいで、オレはいつも苦労を()いられる。3人とも付き合ってみると良いところはあるので、関係を絶ちたいと思ったことは一度も無いのだが、もうちょっとどうにかならんものか…。

 とは言え、オレが言って素直に応じる3人じゃ無い。考えてもしょうがないと諦め、近くのコンビニに寄ることにした。歓迎会を頑張った自分にご褒美を買おうと思ったのだ。


「いらっしゃいませ~」


 店内を物色するオレの目に新商品のPOPが飛び込んでくる。キャラメルプリンアイスバー。


「おおっ!」


思わず声が漏れる。キャラメルプリンもアイスバーも大好物だ。その2つが合わさった商品…だと?迷わず購入を決意する。


「ありがとうございました~」


 梱包(こんぽう)のビニールを店内のゴミ箱に捨て、アイスを食べながら歩き始める。うんまいっ!しっかりキャラメルプリンの味がする。「キャラメル」か「プリン」の片方しか再現されてない商品を覚悟していたが、両立がしっかりとされている。コレは中毒になりそうだ。


「もしも~し?」


「ふごぉっ!?」


 背後から急に声をかけられ、オレは驚いて振り返る。すぐ後ろに2人の女性が立っていた。アイスに夢中になっていたとは言え、足音も気配も全く無かったので、心臓が跳ね上がりそうになる。


「あ、えと、何でしょうか?」


オレは2人組に返事をする。片方は白の髪色で、もう片方は青の髪色、双方とも濃いアイラインと長い付けまつげをしている。


「あ―しら、人(さが)ししてんだよね~」


 青髪の女性が答える。ずいぶんとチャラついた喋り方だ。一人称が「あーし」なのもチャラさに拍車をかけている。


「フェアリーティアーズ、しらない?」


「フェ、フェア?何のことでしょう?」


知らない単語を聞かされ、オレは戸惑いの声をあげる。


「『フェアリーティアーズ』、イナちゃんらのジャマをする(にっく)き魔法少女なんよ~」


「魔法少女ぉ!?」


一人称が「イナちゃん」である白髪の女性から奇怪な単語を聞かされ、思わずオウム返しをしてしまう。

 魔法少女。アニメでは定番のジャンルだが、そんなものが現実に存在するハズが無い。


「あ、あ~、アニメグッズの店を探してるんですか?だとしたら…」


「いやいや、人捜しつってんじゃ~ん。バカかよぉ」


意味が分からない。アニメの世界ならともかく、現実世界にそんなのいるワケ無いだろ!でも、この人達は魔法少女を探している。一体どういうことなんだ?

 様々な可能性を模索するオレの脳内に一つの単語が浮かび上がる。コンセプトカフェ。テレビで見たことがある。その店独自の世界観が築かれていて、店員と客はその世界観を(もと)に会話を楽しむのだ。オレがテレビで見た時は「冥界のキョンシーカフェ」が紹介されていた。店員の女性は「冥界のキョンシー」、訪れる客は「冥界をさまよう魂」という設定で、店に来ると「前世の徳」というポイントが溜まり、(ポイント)が溜まると様々な特典と交換出来るのだそうだ。

 オレは女性2人組を、繁華街で働いているコンセプトカフェの店員なのだと当たりを付ける。恐らく客引きでもしているのだろう。…いや、だとしても変だ。繁華街はココから10キロ以上離れた場所にあり、今オレがいる場所は普通の住宅街だ。客引きをするような場所では無いはずだが?


「おいおいおいおい君達ぃ?一体何してるんだい?」


 返す言葉を迷っていたオレの頭上から男の声が聞こえてきた。え、上から?


「うわああああああああああ!!!!」


思わず絶叫する。赤のスーツを身につけた男が、上空からゆっくりと下りてきたからだ。


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