第2.5話【黄の魔法少女 ティアーファイン】 その5「魔法少女あるあるを真剣に考察すると、なんか怖いことになる」
「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!!」
雷を受けて感電したらしきインソムジャーが苦しげな声を発する。
「スゴーい!ビームだよビーム!!」
一方の有原はご機嫌だ。いや、アンタ普通に技名言って技を出してましたやん。何で、自分でやっといて意外みたいな反応してんだよ。
と思ったところで、オレは一つの事例を思い出す。とあるアニメで、主人公が初めて魔法少女に変身し、名乗り口上をあげた後で「え?私何言ってんの?」的な反応をしている場面があったことを思い出したのだ。
思えば有原も初めて変身した後、普通に名乗り口上をあげてたな…。ミラクルを応援している最中に考えてたのか、と思っていたがそうじゃないのかもしれない。一つ仮説を立てるならば、魔法少女の変身アイテムの中には最初から魔法少女名や使える技名が登録されていて、変身後はその登録された名前を適時、強制的に発声させるシステムになってるとか…。うーブルブル、何だか怖い発想になっちゃったぞ?
「えぇ!?つっよ!!」
「パイセン、どうするんすか!?」
「う~ん、う~ん…」
突如現われた強敵に対し、赤髪達が頭を悩ませている。
「ど、どうなってるのポンちゃん?ひょっとして三佳ちゃんの勧誘に成功したの?」
未だに目を押さえたままのミラクルがタヌキに問いかける。いい加減、目を洗ってきたらどうなんだい?
「そうだポン!」
「ホント!?やったー!!これで2人目だね!」
「喜んでる場合じゃ無いポン!ココはファインに任せて、早く目を洗ってくるポン!」
タヌキも同じ事を思ったようだな。
…ってそうじゃねえ!今アイツ、「2人目」って言ったよな?それって「自分と合わせて魔法少女が2人」って意味か?それとも「自分以外の魔法少女が2人」って意味か?後者ならズイブン興味を引かれるじゃないか…。
「インソムジャー、その黄色いのは後回しだ!目が見えないミラクルから片付けろ!!」
敵の方も魔法少女側のウィークポイントを発見したらしい…が、そう上手くは行かないようだねぇ。
「ミラクルのトコロには行かせないよ!」
ミラクルへの行き先を通せんぼする形で有原が立ちふさがる。彼女の意志を示すかのように、両手から雷エネルギーが激しい音を立てて放電されている。
その隙にミラクルはタヌキに手を引かれながら、水飲み場まで駆けていく。
「くっ!インソムジャー、中身の汁をお見舞いしてやれ!!」
「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!」
インソムジャーが赤髪の指示に従い、レモン汁を噴射する。お、戦ってる内に体の向きを変えてくれたおかげで、レモン汁発射のメカニズムが分かったぞ!ヤツは腹に付いてる空気穴から汁を発射していたのだな!
ヤツの外見は食品保存容器なのだが、食品保存容器の中には電子レンジで中身を温めることが可能なタイプもある。そのタイプの蓋には必ず、水蒸気を逃がすための空気穴が空いているのだ。レモンのハチミツ漬けのような液状のモノを入れる場合も、空気穴を塞ぐ蓋が付いているので安心だ。
んで、あのインソムジャーは普段腹に付いてる空気穴に蓋をしているのだが、中の汁を発射する時だけソレを開けるようだ。
「うわぁっ!!」
有原は驚きながら汁を避ける。
「当てろ、インソムジャー!ミラクルのように目を見えなくさせてしまうんだ!!」
「イ゛イ゛イ゛!」
「うわわわわわっ!!」
赤髪の命令通り、インソムジャーは何度もレモン汁を発射する。有原は必死でレモン汁から逃げ惑っていた。
一方のオレは、あのインソムジャーの攻略法を思いついていた。ま、オレにかかればザッとこんなモンよ。ポイントはヤツのレモン汁発射のメカニズムだ。それに有原が気付いてくれれば…って、アイツに気付けるハズも無いか。
どれ、サブローは気付けているかなぁ?と思って目を向けたところ、サブローは未だに顔を赤くして狼狽えていた。もうっ、以外にウブな子なのねぇ。
「パイセン!闇雲に撃ってもダメっす!相手の進行方向に被せる形で、汁を出し続けるっすよ!」
白髪の女がそう助言した。
「サンキュー、イナちゃん!聞いたな、インソムジャー!?ファインの逃げ道を塞ぐ形で汁を放ち続けろ!!」
「イ゛イ゛イ゛!」
ほうほう。どうやらあのインソムジャー、命令には忠実だけど、戦わせるにはかなり細かい指示を出してやらなきゃダメみたいだな。まあ、知能は見るからに低そうだし当然っちゃ当然か。
ともかく、インソムジャーは有原が逃げる先を塞ぐ形でレモン汁を発射した。このままじゃぶつかっちまうぞぉ?
「うわあ!やめてえええっ!!」
有原は咄嗟に右手を前に突き出した。
「ファイン・サンダーシュート!!」
技名と共に、突き出した右のポンポンから雷エネルギーが一直線に発射された!
有原の放った雷エネルギーが、インソムジャーの放つレモン汁に直撃する。おお、ソレで良いんだよソレで!!
「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ッ!!」
インソムジャーが悲鳴を上げた。放出中のレモン汁を伝って雷エネルギーがヤツの内側まで届き、内部から激しく感電したのだ。イナちゃんとかいう白髪の女の提案は悪くなかったが、今回は裏目になってしまったようだな。
「チャーンス!」
感電して動きが止まったインソムジャーに向かって、有原が突撃する。
「ファイン・サンダーブロー!!」
「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ッ!!」
雷ポンポンの拳が炸裂し、インソムジャーが吹き飛ばされた。
「おわーっ!!インソムジャー!!」
赤髪が大声で呼びかけるが、バケモノは空気穴から黒い煙を出しながらダウンしてしまった。
おやおや、その間に目を洗い流したミラクルが戻ってきちゃったよ。こりゃ、勝負が付いちまったね。
「ありがとうファイン!後は私に任せて!」
ミラクルは礼を言いながら、手に持っていた弓矢をステッキの姿へと戻す。アイツのステッキにはピンクのハート型の水晶が付いてるのね。各々でステッキの色や、先端の水晶の形が変わっているようだ。
「はあああああああ…!!」
ミラクルがステッキを手に力を溜め始めると、ハート型の水晶にピンク色の光が満ちていく。
「フェアリーティアーズ・シャイニングウェーブ・フォルテ!!!」
ステッキからピンク色の光線が発射された。ほうほう、コレが魔法少女必殺の浄化技ってヤツか!怪物倒すとき使うヤーツ。
「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛………」
光線の直撃を受けたバケモノは光に包まれて跡形も無く消滅してしまった。
「ぐぬぬぬぬ…、新しいフェアリーティアーズを目覚めさせてしまうとは何たる失態だ!支部長に何と伝えるべきか、頭が重いぜ…」
そう言って赤髪の男と部下の女2人は、テレビのチャンネルのようにプツンと姿を消してしまった。
うーん…、もう少し魔法少女の戦い方ってヤツを見てみたかったが仕方ない。
「ありがとう、ファイン!」
「助かったポンよ、ファイン!」
ミラクルとタヌキが礼を言う…ってホラ!有原のことを「ファイン」呼びしとる!魔法少女に変身してるときは魔法少女の名前で呼べと学校で教えているのか?少なくともオレには、そう教えられた覚えは無いねぇ。
「えへへ、どういたしまして」
有原は嬉しそうに頭を掻きながら言葉を続ける。
「ところで、さっきの人達って一体何なの?それにフェアリーティアーズって…」
「ゴメン!その質問は後で!!」
そう返し、首元のブローチに触ったミラクルの体が、急にまぶしい光に包まれる。
そして光が収まると、そこにはオレのクラスの転校生、未来来希が立っていた。
「ああ、やっぱりそうだったのか…」
オレは一人納得する。本当にピンクの魔法少女の正体は未来来だった。先程までは全くの別人に見えていたが、今改めてピンクの魔法少女と未来来の姿を比べてみると、幾つもの共通点が見て取れるではないか!髪型一つで、女子の印象というのはここまで変わるものなのか…。
「皆が起きちゃうから、早く変身を解いて!」
悩んでいるオレを他所に、未来来が有原に変身を解くよう迫る。
「え?ど、どうやって?」
「ブローチの宝石部分を3回素早く押すポン」
「こう…?」
有原がタヌキの言う通りにすると、変身が解けた。
「あ、戻れた!」
「三佳ちゃん、フェアリーティアーズのことは皆には内緒にしといてね。あと、ポンちゃんが実は生きてるってこともね」
残念だなぁ、未来来さんよぉ。ここにもう2人、お前達の秘密を知ってしまった男がいるんですよぉ~。




