第2.5話【黄の魔法少女 ティアーファイン】 その3「魔法少女への勧誘」
「有原、だと?」
サブローがオレの言葉に反応する。
「ほれ、アソコ。チア部が応援してた場所」
オレは有原の居場所を教えてやる。
「マジだな…。アイツは無事だったのか」
「逆に有原以外のチア部は全滅か…。全く、いったいどういうことなんだろうね」
「なんで逃げねえんだ?あのマヌケは…」
「いや、無茶言いなさんな。オレ達と違って、有原はバケモノの近くにいるんだぞ?迂闊に動くコトなんて…」
そうオレが返した時のことだった。
「インソムジャー!中身の汁で攻撃だ!!」
「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!」
赤髪の男の命令に従い、インソムジャーが腹から黄色い液体を噴射した。
「ああうぅっ!!」
液体をモロに食らってしまったピンク色の魔法少女が叫び声を上げる。
「ミラクル!!」
魔法少女と有原の間辺りの場所で浮いている奇妙な生物が声を発した。アレは…、タヌキのぬいぐるみ?いや、魔法少女の側にいるってコトは、魔法少女専属マスコットだな!「魔法少女にマスコットキャラクター」ってのは「ハンバーガーにポテト」「鰻重に肝吸い」くらい定番の組み合わせだからな!
「何だぁ?あのワケ分かんねぇ女とぬいぐるみは…」
「サブロー、ようやく答えが分かったぞ」
怪訝な声を出すサブローに、オレは答えを教えてやる。
「アレは魔法少女だよ、魔法少女」
「あ?魔法少女だぁ?フザケてんのかお前?」
「いやいや、あの妙ちくりんな恰好にマスコットキャラクター、武器を手にバケモノと戦ってる姿からも、アレは完全に魔法少女だろ」
「知らねえよ!お前みたいにガキのアニメなんざ見ちゃいねえんだよオレは!」
う~ん…。そう返されるとどうしようも無い。ココでムキになって魔法少女の良さを伝えるほどオレはオタクじゃないし、そもそもそんなコトをしてられる状況でも無かった。
「わぁ…、あ……。目が、目がぁ!」
ピンクの魔法少女が両目を押さえて苦しんでいる。
「ミラクル!しっかりするポン!!」
マスコットのタヌキが叫んでいる。あのピンクの魔法少女は「ミラクル」という名前なのか。
「ハーハッハッハ!イナちゃんの作戦通りだな!!」
「いやあ、アイツをインソムジャーにする前に、ちょっと中身をつまみ食いしたんすけど、甘酸っぱい味がしたんすよね。だから、あの汁が目つぶしに使えるんじゃないかと思ったんすよ」
「おいおい、イナちゃんだけズルいぜ?」
「パイセンの言う通りだぜ?イナちんズリーよぉ!」
「そう言うと思って、2人の分も残しといたっすよ!ホレ」
「おー!サンキュー、イナちゃん」
「イナちんの優しさに、あーし涙が止まらんよぉ」
なんだろう。あのバケモノを操ってる3人組、あんま真面目さが感じられないなぁ。戦いの最中なんじゃねえのか?
「フン、くだらねえ!避けりゃあ良かったじゃねえか、あんな攻撃」
訝しむオレの横でサブローが立ち上がる。
「つーか、よく見たらあのバケモノ、単なるレモンのハチミツ漬けじゃねえか!レモンごときが調子に乗りやがって…!オレに情けない叫び声を出させた罪、そのデカい図体に…」
「F!I!G!H!T!」
中二病が再発したらしきサブローの声を遮るようにして、いきなり誰かが大声をあげた。
「ファイトー、オーッ!!ミ・ラ・ク・ル!!」
有原だ!先程まで逃げることも出来ずに立ちすくんでいた彼女が、大声を出しながら魔法少女を応援し始めた!さっきまでサッカー部を応援していた時と同じように、手にしたポンポンを振りつつ、高くジャンプする。
「あのバカ、何してやがる?」
「うわぁ!!ビックリしたぁ!」
「いきなり何なんだよ、お前?」
サブローや赤髪の部下2人が、有原の奇行に反応する。
「フレ!フレ!ミラクル!!頑張れ頑張れミラクルっ!!」
構わずに声援を送り続ける有原に、赤髪の男が声をかける。
「あ-、ちょっと君?気持ちはよく分かるが、ハッキリ言って五月蠅いし邪魔くさいよ。大人しくどっかに隠れててくれないかな?」
「どいつもこいつも、バカしかいねえのか!?」
サブローが怒りの声をあげる。
「ジャマならデカブツ使って叩き潰しゃあ良いだろうが!なんで避難誘導してんだアイツ!?」
「いやサブロー!お前の方が悪役の発想してんな!?」
発想があまりに乱暴なサブローに、オレは思わずツッコミを入れてしまう。う~ん…、いつもならこういうツッコミ役はカズがやってくれるんだけど、今日はいないからなぁ。本当はオレも好き勝手言いたいんだけど、ボケとツッコミのバランスって大事だよね。
とは思いつつ、サブローの意見も一理あるのは間違いない。あの赤髪の男、悪の組織っぽくないんだよなぁ、さっきから言動がさ…。
「イヤっ!!三佳は応援を止めないよ!!」
なんてオレ達のやり取りがあったことなどつゆ知らぬ有原が、赤髪の男に言葉を返す。
「三佳は応援が大好きだから…、頑張ってる人と一緒に戦うのが大好きだから!!だから希ちゃんの応援を止めないよ!!」
希ちゃん、だと!?オレの脳細胞が猛烈に回転を始める。
あのミラクルとかいう魔法少女、もしかして未来来希なのか!?どう見ても別人だが…いや待て!転校生と話す機会があまり無かったから自信は無いが、考えてみればアイツの声、未来来と同じじゃないか?それに変身前の姿と魔法少女になった時の姿が別物ってのは良くある設定だし、言われてみれば「未来来」と「ミラクル」か…。そんなコトがあるのか…?
なんて悩んでるオレを他所に、赤髪の部下2人が口をへの字に曲げる。
「えー!?せっかくパイセンが優しく言ってやってるっつーのによー」
「ナマイキじゃね、あの女?もうやっちゃいましょうよパイセン」
「うーむ、しかしだなぁ…」
この期に及んで、まだ赤髪の男は有原へ危害を加えることを躊躇しているようだ。
そうやって赤髪が腕組みをしてる最中に、タヌキが有原に声をかける。
「有原三佳、今『頑張ってる人と一緒に戦うのが大好き』って言ってくれたポンね?」
「うん!三佳、ウソついてないよ?」
「もちろん知ってるポン!君からはキラキラ輝く『ポジバイタル』が溢れているから分かるんだポン。でも、応援の声かけをしてくれてるだけじゃ、申し訳ないんだけどアイツらには勝てないんだポン」
んな身も蓋もないことを…。声援が力をくれることだって時にはあるモンだぞ。え、オレ?もちろん、んなコト実感した経験はありませんがね!だってオレ、元から強いから。
「だから有原三佳…、君もミラクルと一緒に『フェアリーティアーズ』になって、『インソムニア』と戦って欲しいんだポン!!」
おっと!?この流れはまさか、魔法少女への勧誘ってヤツっすか!?オレのクラスメイトが魔法少女になっちゃう…ってコト!?
なんて興奮すべき場面で空気を読まずに我慢の限界を迎えるのは、こ~の男~!!
「チッ!こんなヒローショーじみた茶番に付き合ってられっか!!」
悲しきパワーモンスター、棚田三郎が、戦いに乱入しようとする姿勢を見せるぅ!
「おいおい!待てってサブロー!!お前、戦いに行くつもりだろ!?」
オレはサブローを再度羽交い締めする。今、大事なところなの!
「当たり前だろうがっ!離せ!オレはな、こういう機会を待ちわびていたんだよ!」
「と言いますと?」
サブローを必死に引き留めながら、オレは疑問を口にする。
「前々から思ってたんだ。今の平和な日常はつまらない、もっとオレの力を発揮出来るスリリングな毎日を過ごしたいってな!」
分かる。だってオレも同じ事思った。というか中二男子が共通して持つ夢だよ、ソレは。
争い事の無い平和な日常に飽き飽きしてしまい、もっとスリリングな日常を過ごしたいと思うのは、中二男子なら誰だってそうだ。
だからといって今、サブローを止めないワケにはいかないだろ!オレは必死でサブローを引き留めるための文句を絞り出す。
「お前の気持ちはよく分かる!でも待てって!!」
「分かるなら止めるんじゃねえ!!」
「あの戦いを見てみろ!ワケの分からん怪物に、フィクションの世界にしか存在しないハズの魔法少女!オレ達の常識が通用する戦いをしてると思うか!?」
「それは…っ!」
「何も永久に引き留めようってんじゃ無い!ただ、今日だけは、今回だけは様子を見よう!仮にオレ達一般人を即死させるような力が使われていたとしたら、永久に笑えないことになるだろ!?」
オレはわざと大げさな話をして、サブローに危機感を持たせようとする。馬鹿馬鹿しい発想と言われたら否定は出来ないし、実際にオレもそう思う。
だが、サブローには効果有りだったようだ。
「…チッ!」
「うん、分かった!三佳もフェアリーティアーズになる!!」
サブローが舌打ちしながら動きを止めたのと、有原が魔法少女になることを決心したのは、ほぼ同時だった。




