第2.5話【黄の魔法少女 ティアーファイン】 その1「演習試合」
第2.5話【黄の魔法少女 ティアーファイン】、始まります。本編でいきなり魔法少女に覚醒していた有原三佳は、どのようにして魔法少女になったのか?ロム視点でお送りします。
オッス!オレぁロム!!本名は和野宏武。宜野ヶ丘市立第一中学校に通う中学二年生でサッカー部、ポジションはミッドフィルダーだ。「サッカー部の道化師」なんて中々イカシた二つ名まで持ってるぞ!
突然だが皆、魔法少女を見たことはあるかな?アニメやゲームで見たことあるって人は沢山いそうだよな。じゃあ、魔法少女を現実世界で見たことがあるってヤツはどれくらいいるかな?言っとくけど、コスプレとかは無しだぞ。本物の魔法少女を現実世界で見たって意味だ。恐らくいないんじゃないかな?
聞いて驚くなかれ、オレは見ちまったんだよね。現実世界で、本物の魔法少女をな!
世界を救うために悪の組織と戦う魔法少女、だなんてアニメの世界でしか見たことが無い存在と出会い、オレの日常はスリルとエンターテインメントに溢れる毎日になったワケなのだよ。
つーワケで今回は、オレが初めて本物の魔法少女を目にした日の話をしていこうと思うぞ!
そう、あれはGW明け最初のサッカー部の演習試合があった日の事だった。
この日、オレ達宜野ヶ丘市立第一中学校サッカー部は、演習試合のために市内のサッカーグランドまで来ていた。
ココで一つ自慢をしておくとしよう。オレはかーなーり運動神経が良い!それも単に運動神経が良いってだけじゃなくて、一般人を遥かに凌ぐレベルで運動神経が良い。とは言っても、サッカー部のナンバーワンってワケじゃ無い。ウチのサッカー部には、オレと同じくらい運動神経が良いヤツが他に2人いる。オレレベルを3人有してるって事で、ウチのサッカー部はかなりの強豪チームとして地域で知られている。
で、そんなハイクラスの3人が試合の最初から出場してたら、あっというまに点差を突き放してしまって、お互いのモチベーションを失わせちまうよな?オレ達3人以外のチームメイトがやる気を無くしてしまっては、部活の意味も無くなっちまう。サッカーは11人でやる競技だからな。そんなワケで、相手チームにもオレレベルの選手がいる場合を除いて、オレ達3人が出場するのは試合の後半のみ、それも同時に2人以上は出ないという取り決めになっている。
で、この試合の日も、その例外では無かったんだ。だから前半中、オレはベンチから試合の様子を観戦してたってワケ。
「今日は相手の調子が良いな?」
オレの左隣でそう呟くのは、オレレベルの運動神経を持つ3人の内の1人、「サッカー部の類人猿」の二つ名でおなじみ、母ノ暮沙流夫だ。ゴリラのような見た目の彼が言う通り、4対0でオレ達のチームは負けていたんだ。
後半になるとオレ達3人の誰かが出てくるワケだから、相手としては前半の内に出来るだけ点を稼いでおきたいよな?まあその意気込みだけで点が取れるなら苦労はしねぇんだけど、この日の相手チームは調子が良くて、大量得点することが出来たってワケ。
と、また相手チームが点を入れたぞ!これで5対0。普通のサッカーの試合なら、この点差は絶望的だ。
「フン!無理矢理攻めに行かず一旦退いてりゃ、ココで取られることは無かったってのによ」
オレの右隣で文句を言うのが、3人の最後の1人、「サッカー部の暴君」の二つ名を持つ棚田三郎だ。コイツがウチのチームのナンバーワンで、オレのクラスメイト兼親友だ。持ち前の超人的な身体能力に中二病が加わって、周りの人間のほとんど全てを見下してるという、ちょっとカワイソウなヤツなんだ…けど、なぜかサッカー部での活動中はそのトゲトゲしい態度が丸くなる。
オレの親友で、サブローとの付き合いが長い塔岡一典、まあオレは「カズ」って呼んでるんだけど、ソイツにその理由を尋ねたら「サッカーとの付き合いは、自分と同じくらい長いから」って答えてたな。確かにサブローは、カズに向かって見下した態度は一切取らない。説得力は十分だな。
「F!I!G!H!T!!ファイトー、オーッ!!ギ・ノ・イ・チ!!」
情けない試合をしている我がチームを、チアリーディング部の女子達が元気に応援している。なんだかスンマセンね。あ、ちなみに「ギノイチ」ってのは「宜野ヶ丘市立第一中学校」の略称だぞ。宜野一の生徒はモチロン、他校の人間もこの名で呼んでるんで、皆さんも是非。
チア部の中で特に大きな声を出しているのが、オレのクラスの出席番号1番、有原三佳。
彼女は運動部の男子生徒からメチャクチャ高い人気を得ている。理由は単純。彼女、メチャクチャ巨乳なのよ。それもただ巨乳ってだけじゃなくて、150cm未満の低身長かつ巨乳っていう、思春期男子が思わず襲いかかりたくなっちゃうプロポーションをしてるんすわ。そんなトランジスタグラマーがピョンピョン跳ねながら応援を行うと、同時に豊満なバストもプルンプルン揺れて、その様子が男子を虜にしてるってワケなんですねぇコレが。
まあ思春期男子だから仕方ないのかもしれんが、オレから言わせれば全く以て情けない話ですよ!オレはねぇ、女子を胸なんかで判断したりはしない。生涯のパートナーを決める上で大事なのは、ソイツが「面白いヤツかどうか」だろうが!一緒にいて面白くないと感じる相手なら、例え巨乳だろうが何だろうがオレはお断りだね。
まあそんなカンジで結局、5対0という大差を付けられて、試合の前半が終了してしまった。サッカーのハーフタイム中は、チーム全体で士気を上げ直す絶好の機会!当然、我が校のサッカー部員達も控え室に呼ばれ、監督からのありがたい御言葉を授かるワケだ。
「現在、5対0。非常に苦しい展開だが、この調子で後半を迎えるワケにはいかない。各々、気持ちを切り替えた上で後半へと臨んで欲しい」
監督が重苦しい口調で、部員達に言葉をかける。
「で、後半には当然、ウチのトップスリーが入るワケだ。いつも言ってることだが皆、『彼らが点を取ってくれるから自分は何もしなくて大丈夫』なんて下らない考えは間違っても起こすんじゃないぞ!サッカーは11人全員が力を合わせて初めて…」
監督がココまで話を進めたときのことだった!オレがこれまで生きてきた中で、最も奇妙な現象が起こった!
話をしていた監督が、話を聞いていたサッカー部員達が、一斉にその場で倒れ込んでしまったのだ!!
「……は?」
あまりに突然の出来事だったので、オレは言葉を失ってしまった。おしゃべり番長を自称するオレが呆気にとられて言葉を失ったのは、後にも先にもこの瞬間だけだったと思う。
この意味不明な現象の理由を、オレは必死で模索する。オレがコイツらの立場で急に倒れ込んでしまう理由があるとすれば…、体調不良か?いや、ソレは無いな。全員が一斉に体調不良だなんて有り得ない。
だとすると、考えられる理由はただ一つ!!
「テレビ局!貴様、見ているなっ!?」
オレは勢いよく背後を振り向き、後ろを指さす!バラエティ番組のドッキリのターゲットに選ばれたと判断したからだ。
「おいロム!!このふざけた芝居はテメエが仕組んだのか!?」
急に名前を呼ばれ、オレは現実に引き戻される。思えばあのバラエティ番組は、「一般人をターゲットに」なんて言葉は真っ赤な嘘のヤラセ番組じゃないか!オレがターゲットに選ばれてるハズが無い。だって事前に何の打ち合わせも受けてないんだから。
オレは慌てて、声がした方向を振り向く。
「サブロー、お前…」
その先の言葉が出てこなかった。大勢のチームメイトが倒れ込む中、立っているのはオレと棚田三郎の2人だけ。この奇っ怪な状況が生まれる理由が、どうしても分からなかったからだ。
「おい答えろ!このくだらねえ茶番はテメエが仕組んだのかって聞いてんだ、ロムっ!!」
やっべ、サブローが怒ってらぁ。誤解を解かなくては。
「いやいや、オレじゃねえってばよ!オレはなんにも知らねえぬらべっちゃ!!」
「やっぱテメエふざけてんだろ!!」
「いかん、つい勢いで!!知らねえよ!ホントにオレは知らねえって!!」
いつもの勢いでふざけてしまった分、必死に無実をアピールする。
こんな呑気なことをしている場合では無かったということを、この時のオレはまだ知らなかったのである。




