第4話【魔法少女フェアリーティアーズとは何なのか】 その7「謎空間ネガーフィールドの効果」
「ネガーフィールドが人間の感情エネルギーを吸い取る仕組みについてはこれくらいにして、後は効果範囲と、『適合者』についてだポンね」
ポンイーソーが、ネガーフィールドについての説明を続ける。
「ネガーフィールドの効果範囲は、スイッチが起動された場所からおよそ半径500メートルくらいだポン。この効果範囲内にいる人間から感情エネルギーを徴収することが、ヤツらの主な狙いだポン」
「で、その範囲内ではスマホとかの通信手段も使えなくなってしまう、というワケね」
ロムが先の推測について、ポンイーソーに確認を取る。
「そうだポン。ネガーフィールド内では外部との連絡手段が一切使えなくなってしまうポン。電話、メール、インターネット等は全てダメだポン。更に、戦いの様子を写真に収めたり、録音したりすることも封じられてしまうポン」
「カメラ自体が使えなくなる、と?」
「正確に言うと、写真や録音で様子を残そうとしても、ヒドいノイズばかりでとてもじゃないけど記録とは呼べないモノになってしまうんだポン」
「インソムニアの方々はどうやら、自分達が侵略を行っている事実を徹底して隠しているようですね」
ポンイーソーの説明を受け、海月が自分の考えを述べる。
「外部への連絡手段と、内部での記録手段。この2つを封じてしまえば、インソムニアを知らない人々に助けを求めることはかなり困難になるでしょう。結果として、ネガーフィールドの中で動くことが出来る人間だけでの対処を強いられることになります」
「ネガーフィールドが解除された後、倒れてた連中が揃って記憶喪失なのもそれが理由か?」
「まさしく、その通りポン。被害者の記憶消去も、ヤツらの手の内ポン。動けなくなっていた間の記憶は別のモノに差し替えられるから、被害者は何の違和感も覚えないようになってるポン」
「なるほど、海月の言う通りだなコリャ。平行世界を侵略する時はね、誰の目にも触れず、自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ。秘密裏で静かで豊かで……」
「ネガーフィールドの範囲外から、内部で起こってる戦いの様子は見られないのかな?」
オレは疑問を口にする。あれだけ激しくバケモノと争っているなら、外の人間も異変に気付くハズだと思ったからだ。
「ソコがまた、うまく出来てるんだポン。ネガーフィールドの外側からネガーフィールドの中の様子を覗いても、何も異変が起こってないように見える仕組みになってるんだポン。もちろん、中で発生した音も外へは届かないポン」
「あぁ、やっぱり。街で一切ウワサとかが流れないのも、外の人間が異変に気付けない仕組みになってたからなのか…」
「そんだけ都合が良い代物ってことは無論、それ相応の感情エネルギーを使って作られてるってコトなんだよな?」
サブローが質問をぶつける。
「モチロンだポン。ヤツらが順調にこの世界での感情エネルギーの徴収に成功していけば、より効果範囲が広いネガーフィールドを持ちだしてくることも考えられるポンね」
ポンイーソーはサブローに対して暗に「余計なことをして敵に塩を送る結果にならないよう気をつけろ」と言っているのだろう。アイツにそのニュアンスが伝わっていれば良いのだが…。
「いや~しかし、内部での記録もダメってのは、ちぃと厄介だね」
ロムが後ろに手を組みながら独り言ちる。
「ロム吉兄さんに魔法少女の戦いの記録を送ってあげようと思ったんだけど、無理ですかそうですか!」
「ちょ、ロム!?フェアリーティアーズの戦いについては他言無用でとお願いしたハズだポン!」
ロムの突然すぎる独白に対し、ポンイーソーが抗議の声をあげる。
「ロム吉兄さんだけは別だよ。むしろ、あの人に戦闘資料を渡せば、コッチが都合良く動けるように色々とアシストしてくれると思うけどねぇ」
「ねえ、ロム吉兄さんって誰なの?」
知らない人の名前が出てきたので、未来来がロムに質問する。
「オレの従兄弟だよ。機械工学のスペシャリストで、今はアメリカのマチャチューチェッチュ大学に通ってるんだぜ」
「マチャチューチェッチュ大学に!?」
海月が驚くのも無理は無い。マチャチューチェッチュ大学と言えば、アメリカの超名門大学だ。ロムの従兄弟がアメリカの大学に通ってるという話は以前から耳にしていたので、オレとサブローは驚いていない。そして肝心の質問者である未来来も、この世界の大学については詳しくないようでポカンとしている。
「スゴいよロム君!!そんな偉い人と知り合いなの!?」
有原は目をキラキラさせて、話に食いついて来た。
「まあねえ。あ~あ、ロム吉兄さんならインソムニアと戦うための最新兵器とか用意してくれると思ったんだけどなあ!!」
「いやいや!どういった理由であろうと、フェアリーティアーズのことを外に漏らすのは止めて欲しいポン!」
ポンイーソーが必死で止めに入る。アメリカの超名門大学に通う人間にフェアリーティアーズのことが知られて、仕組みについて(それこそ根掘り葉掘り)訊かれたら…。そう考えると…、さもありなん、かな。
「分かった、分かった、分かりましたよ!ロム吉兄さん以外、話す予定の人はマジでいないから安心してクレヨン!」
「本当だポンね?信用して良いポンね!?」
「モチロンよ!だから次の質問『なぜオレ達3人はフェアリーティアーズでも無いのにネガーフィールドが効かないのか』について解説頼むぜ!」
オレは徐に現在時刻を確認する。もうすぐ18時。この質問で最後といった所だろう。
「ネガーフィールドの中でも動ける人間、通称『適合者』は、ココにいる皆みたいにネガーフィールドの中でも精神エネルギーを取られること無く、自由に行動が出来るんだポン。で、ロム達が一番知りたがっているであろう適合者の条件については、ハッキリ『コレ』と言うことが出来ないんだポン」
「んあー!ソコが一番重要だったのになぁ」
ロムが悔しそうに声をあげる。
「もちろん、色々な推測はされているポン。『将来への不安を一切持たない人』とか『多少のコンプレックスを無かったことに出来るくらい、特定の分野がトビキリ優れている人』とか、『超絶ポジティブシンキングで、如何なる状況でも絶望しない人』とか、様々言われてるポン」
「心の強さが大事ってコトなんだろうねぇ」
「少なくとも身体能力は関係ねぇんだろうな。母ノ暮のヤツはダメだったからな」
母ノ暮沙流夫、ロムやサブローと同じく超人的な身体能力を持つサッカー部の2年生だ。サブロー達は恐らく、演習試合の日にネガーフィールド内で倒れ伏している彼の姿を見たのだろう。
ここでオレは、海月がフェアリーティアーズになった時のことを思い出したので、ポンイーソーに確認をしてみる。
「最初は無気力状態になってたけど、後から適合者になるって事例は?」
「あるポン。それこそ、雪花がソレだポン。雪花も最初は無気力状態になって動けなかったポンが、インソムニアの蛮行を知って激怒したことがきっかけで適合者になれたポン。おかげでフェアリーティアーズになることも出来たんだポン」
「おっと?フェアリーティアーズになれる人材は最初から適合者ってワケじゃないのね?」
海月が魔法少女になった経緯を知らないロムが質問を投げかける。
「そうだポン。『フェアリーティアーズになれるコト』と『ネガーフィールドの中で動けるコト』は必ずしも両立しないポン」
「はぁ~、だからさっき『フェアリーティアーズになれる娘を探すのは大変』的なことを言ってたワケね」
「分かってくれるポンか?オイラが探してる少女は『フェアリーティアーズになれて』尚且つ『ネガーフィールドの適合者』なんだポン。せっかくフェアリーティアーズになる素質はあるのにネガーフィールド内で動けなくなってしまう娘は沢山いるんだポン」
「逆もまた然り、と」
「確かに、ネガーフィールドの適合者なのにフェアリーティアーズになれない娘もいるけど、それほど数は多くないポン」
ポンイーソーが指を一本立てる。
「一つ覚えておいて欲しいポン。ネガーフィールドの適合者はとても希少なんだポン。千人に一人いるかいないかだポン。加えて言うと、せっかく適合者だったのに大人になってから動けなくなった、という事例がとても多いポン。大人になって、社会の厳しさを知って、ネガバイタルが生まれて…、といった具合だポン」
「おいポンイーソー、まさかとは思うがよ…」
サブローが言い淀む。見ると、唇が少し震えているではないか!何だ何だ?コイツがここまで動揺することって一体何があるんだ…?
「まさか、ネガーフィールドで動けるオレ達も、フェアリーティアーズになれるとでも言うのか!?」
「いや、それは違うポン。フェアリーティアーズは、女性しかなれないんだポン」
「ふぅ~~~~~…」
ポンイーソーの答えを聞いたサブローの口から、長いため息がこぼれ出た。
「どうしたポン!サブロー?」
「フェアリーティアーズは女しかなれねえんだな?」
「そ、そうだポン」
「良かったぜ。あんな気持ち悪い衣装を着るくらいなら死んだ方がマシだからな」
そう言ってサブローはもう一度、安堵の息を吐いた。
正直、彼の気持ちはとてもよく分かる。魔法少女の衣装を着るなんて恥ずかしい行為、思春期男子にとっては拷問と変わらない。それこそ、死んだ方がマシと言えるだろう。
「なるほど…。未来来さんのことを気持ち悪いと言ってたのは、そういうコトだったんですね」
同じくサブローの気持ちを察したらしい海月が、小声で呟いた。
一方のロムは、サブローを冷やかし始める。
「何だよぉ、魔法少女になれなかったのがそんなに残念なのか、サブロー?」
「アホか。なりたきゃテメエがなれ」
「イヤだね!」
「何でだよ?お前が魔法少女になってる姿、きっと見てて楽しいモノになるぜ?」
サブローがロムをイジり返す。
「ソレは他の人が楽しいってだけじゃねえか!オレ自身が楽しくないことはやりたくねえんだよ!!」
「ま、まあともかく、男の人はフェアリーティアーズになれないから安心?して欲しいポン」
「オッケー!いやあ、スッキリした!訊きたいことも色々訊けたし、大満足ですわぁ」
そう言ってロムは満足げに伸びをするのだった。




