第4話【魔法少女フェアリーティアーズとは何なのか】 その6「謎空間ネガーフィールドの存在意義」
ここまで独断で話を進めてきたロムが、ポンイーソーの方に目を向ける。
「…って勝手に話を進めちゃったけど、合ってるかな?」
「ふぅ、ようやくブレーキをかけてくれたポンね?」
「いやぁ、スマンスマン。つい気持ちよくなっちまってな」
ロムは頭を掻きながら謝る。
「まあ、ロムの言ってたことは正しいポン。インソムニアが平行世界の人間から感情エネルギーを徴収する手段は、ヤツらが展開する特殊な空間『ネガーフィールド』ポン」
「ホントに当たってた!スゴいね、ロム君!!」
有原がロムに羨望の眼差しを向ける。
「いやぁ、ずっと気になってたんだよね。あの空間って何の意味があるんだろうって。んで、今までのポンイーソーの説明を聞いて、その答えが分かったってワケよ」
「そんなロムなら、もうオイラの解説はいらないポンか?」
「なんだよぉ、スネちゃったのかポンイーソー?」
「馬鹿言わないで欲しいポン!オイラはそんなにお子ちゃまじゃ無いポン!」
ポンイーソーが憤慨する。いや、今のお前は間違いなくスネてたと思うが?
「安心してくれよポンイーソー。オレはネガーフィールドを展開する目的までは予想出来たけど、その仕組みとか、『精神エネルギーを徴収する』以外の使い道とか、ソコまでは詳しく知らないからな」
「徴収以外の使い道、だと?」
サブローが、ロムの言葉から気になった部分を復唱する。
「演習試合の時、オレがスマホを使おうとしてダメだったことがあったろ?」
「んな細けえこと、覚えてねえよ」
「しょうが無いなぁ。じゃあ今日、オレがお前とスマホで麻雀の対局をしようとした時のことは覚えてるな?」
「それくらいは覚えてる…って、オレは麻雀しようなんざ思ってねえぞ!」
「まあまあ。あの時オレは麻雀のアプリを起動しようとしたんだけど、なぜか起動しなかったんだよ。あ、ちなみにオンライン対戦出来るタイプのアプリね」
「そんな補足をするくらいなら、もう他の使用目的くらいは予想が付いてるんだポン?」
ポンイーソーが試すような目でロムを見つめる。
「え~?言っちゃって良いの?またスネたりしない?」
「だからスネてなんかいないポン!それに、ロムの推理を全部聞いた上で間違いの訂正や補足をした方が効率が良いとオイラは知ったんだポン」
確かにポンイーソーにずっと喋らせるよりかは、負担は少なくなるよなあ。
「そこまで言われちゃ仕方ねえ。オレが思うに、ネガーフィールドを展開することによる相手の利点は三つだ。一つ、精神エネルギーの徴収。二つ、相手を無力化させる。三つ、外部との連絡を阻害する。どうかな?」
「お見事だポン。ロム」
そう言いながらポンイーソーは拍手する。
「またまたぁ。海月だってこんくらいのコトは、ポンイーソーから説明を受ける前に予想付いてたんじゃねえのかい?」
「ええ、まあ…。外部との連絡手段が阻害されていることまでは知りませんでしたが」
海月が気まずそうに肯定した。流石は海月、と言ったところか。
「でも、オレが分かるのは本当にココまでだ。ポンイーソー、ネガーフィールドのもっと詳しい特徴を教えてくれないか?」
「例えばどんなことが知りたいんだポン?」
「そうさねぇ…。まずは、あの空間が人間の感情エネルギーを吸い取る仕組み、それから効果範囲…。あ、そうそう!もう一つ重要なことがあった!!」
「なぜオレとカズノリとロムにはネガーフィールドが通用しない?」
「げえっ!サブローに先を取られたぜ…」
初めてサブローにセリフを横取りされ、ロムは頭を抱えた。
「えっと、順番に答えていくポン」
ポンイーソーが2人の挙げた疑問に答え始める。
「まず、ネガーフィールドが人間から感情エネルギーを徴収する仕組みポンね。あの特殊な空間は、範囲内にいる人間が持つマイナスの感情から干渉していくんだポン」
「マイナスの感情?」
「人間が心の奥底で抱えている悩み、不安、コンプレックス等々、考えるだけで気持ちが沈んでくるヤツだポン。オイラ達の世界では『ネガバイタル』と呼ばれているポン」
「あ~、なるほど」
「ネガーフィールドはそういったネガバイタルを無理矢理押し広げ、人間達を無気力状態に強制的に陥らせるポン。そして無気力状態になった人間から感情エネルギーを吸い取る仕組みになってるんだポン」
「なぜそんなコトが出来るのか…までは聞かない方が良いね?」
「そうポンね。元々この世界では再現できない技術だから、詳しい仕組みを説明しても理解出来ないポン。ただ一つ補足すると、インソムニアの連中は元々ネガバイタルを利用する技術に長けていたんだポン。対するオイラ達の世界ではプラスの感情エネルギー、『ポジバイタル』を利用する技術に長けてたポンね」
「つまり、フェアリーティアーズは変身者のプラスの感情エネルギーを利用してるってコトか?」
「そうだポン。この3人がフェアリーティアーズになれるのは元々、楽しいことを見つけようとする力、どんな時でも希望を捨てないド根性、仲間に対する思いやり、曲がったことを許せないキレイな心…、そんなキラキラしたエネルギーに溢れてる娘達だったからなんだポン」
「あーらら、何か如何にも魔法少女ってカンジじゃない」
「下らねえな」
ロムは茶化し、サブローは下らないと吐き捨てる。まあ、思春期男子ってのはこういう綺麗事がくすぐったく感じる時期なんですよ。察してやって下さい。
「フェアリーティアーズの浄化技はポジバイタルを利用した技なんだポン。当然、インソムジャーはネガバイタルを原動力にしているから、強力なポジバイタルで消滅させることが出来るってワケなんだポン」
「じゃあ、今日オレが浄化技を使わないでトドメを刺してしまったのは…?」
「インソムジャーも所詮は兵器ポン。外部から強い衝撃が加われば破損、大破するポン。その場合、残骸が消滅するのと同時にインソムジャーを構成していたネガバイタルも消滅してしまうんだポン。一方でフェアリーティアーズの浄化技を使うと、インソムジャーを構成していたネガバイタルをポジバイタルに変換した上で、無気力状態になっていた人達に返すことが出来るんだポン」
「クラスメイトが中々起き上がってこなかったのはつまり…?」
「本来なら、ネガーフィールドによって奪われた精神エネルギーは、フェアリーティアーズが浄化したポジバイタルで補填されるポン。浄化技以外で倒されると、その補填が無くなってしまうから、各々が精神エネルギーを自力で回復するまで無気力状態が続いてしまうんだポン。もちろん精神にかかる負担も大きいし、暫くは気持ちが塞がった状態が続くし、気怠さを感じる、ちょっとしたことでふさぎ込みやすくなる等々の症状も出てしまうポン」
「フン、あの空間で動けないザコ共には丁度良い罰じゃねえか」
「棚田君!貴方という人は何故そうも他人を見下せるのです!?」
「無様に寝転んでるザコ共に同情しろっていうのか?」
「動ける人間の方が少数だということくらい、流石の貴方も分かっているでしょう」
「おいゴミアマァ、『流石の』ってのはどういう…」
「はい!2人ともストップ!!」
海月とサブローが争いを始めそうだったので制止を入れる。
「カズノリ、雪花とサブローは今日の争い関係無しに仲が悪いのかポン?」
「そうなんだよ。サブローの人を見下す態度が、海月には我慢出来ないんだよね」
「それだけじゃ無かったりして…?」
ケンカを煽らずにいたロムが、意味深な横槍を入れてきた。
「それだけじゃ無い…ってどういう意味さ?」
「あ~、ひょっとして!」
何かを思い付いたらしいのは、まさかの有原だった。
「もしかして棚田君、ホントは雪花ちゃんのことが好きでちょっかい出してるとか?」
「おいボンクラ!テキトー言ってんじゃねえぞ!」
「不正解だな有原、2年2組10点減点」
「えぇ~!?」
サブローは疎かロムにまで不正解扱いされてショックを受ける有原。彼女には悪いけど、サブローと海月のためにも、ここはオレもしっかり否定しておこう。
「有原、2人と関係の深いオレが断言するけど、ソレは無いよ。この2人は元々水と油なんだから」
そう説明しながらサブローと海月に目を向ける。2人は未だに視線で火花を散らし合っていたのだった。




