第4話【魔法少女フェアリーティアーズとは何なのか】 その4「『インソムニア』の正体、『フェアリーティアーズ』の正体」
「そしてもう一つ、オイラの生まれた世界とこの世界との大きな違いは、使われているエネルギーの違いだポン」
ポンイーソーが、自分が生まれた世界について説明を続ける。
「オイラの世界での主なエネルギー源は『人間の感情』だったんだポン」
「人間の感情?」
「この世界で使われてる主なエネルギーは『電気』だポンね?オイラの故郷では『人間の感情』が電気と同じような役割を果たしていた、ということポン」
「人間の感情って取り出せるモンなのか?」
「オイラの世界のテクノロジーを使えば簡単ポン…と言っても、この世界とは存在する物質が違うから、ココで再現するのは不可能ポン。とにかく、オイラの世界では『人間の感情』をエネルギーにして、様々なテクノロジーが開発されたんだポン。そして、その極致とも言うべきテクノロジーが『平行世界への移動を可能とするゲート』、その名も『パラレルゲート』だったんだポン」
「その技術を使って、ポンイーソーはこの世界に来たんだな?」
ロムが話を上手く進めてくれる。ホントに助かります、マジで感謝感謝。
「その通り…ではあるんだけど、本当ならオイラの世界の人間が、他の平行世界に行くことは無かったんだポン」
「せっかく開発したのに?」
「お前らは割と平気で順応してるポンが、普通の人間がオイラのような生物の存在を知ったらきっと驚くポンね」
「いや、オレらも最初はビックリしたモンだぞ?」
ロムとサブローも初見では驚いていたのか。考えてみればその反応が当たり前だが、ちょっと意外だった。この2人でも驚くのか…、そうなのか…。
「ビックリするだけならまだ良いポン。オイラの存在がニュースで流れた日には、きっと大混乱になるポンね?何が言いたいかというと、『平行世界への移動を可能にしたからといって、その技術で別の世界に行ったとしたならば、行った先で何が起こるか分からない』というコトだポン。オイラの世界の科学者は、ソコを理解してたんだポン。だから、せっかく開発したパラレルゲートの技術が使われることは無かったんだポン」
ポンイーソーの世界の科学者は倫理観がしっかりしていた、ということか。
「でもパラレルゲートの開発に成功した世界は、オイラの生まれた世界だけじゃ無かったんだポン。それが『インソムニア』だったんだポン」
出た、「インソムニア」!ココで繋がってくるのか…。
「ヤツらの世界は元々、オイラの生まれた世界の近くに位置していたんだポン。だから、オイラ達の世界と同じような技術をヤツらも開発出来たんだポン」
「えっとゴメン、ちょっと良いかな」
ここでオレは初めてポンイーソーの説明に割って入った。彼の説明の中で理解出来ない箇所があったからだ。
「『ポンイーソーの生まれた世界に近かったから同じ技術を開発出来た』って、どういう意味?」
「あ、説明不足だったポンね。平行世界は本来交わることは無い、とは説明したけれど、平行世界の位置にも近い遠いの概念はあるんだポン。で、世界の位置が近いと同じような特徴が多くなる傾向にあるんだポン」
「なるほど。それで、インソムニアの連中も『感情をエネルギー源とする平行世界の移動技術』を開発出来たってコトか」
「ヤツらはオイラ達とは違って『開発したパラレルゲートを使って、他の平行世界を支配下に置こう』という危険な思想を持つようになったポン。ヤツらは自らを『侵略世界インソムニア』と名乗り、平行世界の侵略に乗り出したポン。そして、最初の標的に選ばれたのが、オイラの生まれた世界だったんだポン」
「世界の位置が近いからってのが理由か?」
再びロムが話を回してくれる。
「それも理由の一つだったけど、インソムニアの技術とオイラ達の世界の技術が似てたコトも大きな理由だったポン。『ここを侵略出来れば自分達の兵力を更に高められる』とヤツらは考え、人の感情エネルギーを源にして普通の物体を兵力へと変換する技術『インソムジャー』を使って攻めてきたんだポン」
「インソムジャーはインソムニアが開発した技術だったのか?」
「そうだポン。当然、オイラの世界の科学者も敵を追い払うための力を開発したポン。人間の感情をエネルギー源とする身体能力増強装置、その名も『フェアリーティアーズ』だポン」
フェアリーティアーズの正体。それは「インソムニア」を退けるために開発された身体能力増強装置だったのか!「魔法少女」と呼んでいるのはコチラの勝手なのだが、やはり厳つい感じが否めなかった。
ロムも当然、ポンイーソーの説明を理解しており、その上で話を回し続ける。
「なるほど、それがフェアリーティアーズの正体だったってワケね。けど、今現在インソムニアの連中がウチの世界に来てるってことは、つまり…?」
「そうだポン。オイラ達の世界はインソムニアに敵わなかったんだポン…。言っておくけど、フェアリーティアーズ自体はカンペキなシステムだったんだポン!でも、肝心の使用者がこの大きさじゃあ…ってワケだポン」
「確かに、ポンイーソーくらいの大きさなら、あのバケモノで一捻りするのは余裕だろうなぁ」
ポンイーソーの頭上に自分の手のひらを重ねつつ、ロムが続ける。
「んで、支配下に置かれた世界出身のオタクがウチに来たのはどうして?」
「もちろん、インソムニアがこれ以上他の平行世界へ侵攻するのを防ぐためポン。オイラの世界を支配下に置いたことで、インソムニアは更なる力を手にしたポン…」
ポンイーソーは悔しさを堪えるかのように、その小さな拳を握り締める。
「オイラ達の技術が悪用され、他の平行世界が侵略の被害を受けるなんてコトは許せないポン!『自分達は負けてしまったけれど、せめて他の世界の平和は守りたい』その一心で、オイラ達はインソムニアの連中が侵略を始めている各平行世界へと向かい、フェアリーティアーズの力を貸し与えることで、アイツらと戦っているんだポン!」
「んじゃ、他の平行世界でもソコの3人みたく、フェアリーティアーズになった女子達がインソムニアと戦ってるってコトね?」
「その通りポン。さっきからロムは察しが良いポンね?」
「そうだよ!ロム君、スゴいよ!」
ポンイーソーと、なぜか有原がロムを褒めた。
「ま、ココに来るまでの間にポンイーソーの正体について色々想像してたからな!ポンイーソー宇宙人説とか、ポンイーソー未来人説とか…」
「んなコトはどうでも良いんだよ、ロム」
サブローがロムの言葉を遮り、初めて質問をした。
「ポンイーソー、フェアリーティアーズの勝率は100%なのか?」
「それは…、違うポン。インソムニアの侵略を防げなかった世界も沢山あるポン…」
「オレは勝率を訊いてるんだが?」
「勝率だけで言うなら、フェアリーティアーズはかなりの勝利をもたらしているポン。7割はかたいポン。でも、そもそもの話、フェアリーティアーズになれる娘を見つけること自体、簡単じゃ無いんだポン」
「へ?ココに3人もいるってのに?」
「3人じゃ足りねえってコトだろ」
「いや、3人見つかれば御の字だポン。重要なのは『インソムニアの侵攻が初期段階の内にフェアリーティアーズを見つけること』なんだポン。侵攻が進んで、ヤツらが大量の戦力を投入出来るようになった時に見つけても遅いんだポン」
そう言ってポンイーソーは未来来に視線を向ける。
「希の世界も例外じゃ無かったポン。オイラが希をフェアリーティアーズになれる逸材だと見つけたときには、もう遅かったんだポン」




