第4話【魔法少女フェアリーティアーズとは何なのか】 その1「反省会」
第4話「魔法少女フェアリーティアーズとは何なのか」は、今まで謎だった「フェアリーティアーズ」や「インソムニア」の正体について触れる、所謂解説回になります。戦闘シーンは無いのですが、物語を理解する上で大事な設定等に触れることになるので、退屈せず最後まで読んで下さると有り難いです。
未来来と一旦別れたオレ達はとりあえず、最初に住宅街を写生していた時の場所まで戻ってきていた。
近くの木陰に気絶している海月と有原を寝かせておく。2人とも容態は安定しており、あと数分もすれば目が覚めるだろうとタヌキが言っていた。体のあちこちに擦り傷や軽く腫れている箇所が見受けられるが、青痣になってたり、骨折していたりする箇所は見受けられない。あれだけサブローにボコボコにされておきながら丈夫すぎやしないかと思いもするが、逆に言えば、それだけ丈夫じゃ無いと「インソムニア」と戦っていけないというコトなのだろう。
「ほんじゃま、とりあえず2人ともお疲れさーん」
持参した水筒のカップに麦茶を注ぎ、ロムが乾杯の音頭をとった。
「うい、お疲れ」
とサブローは返すが、
「なあ、乾杯とか、なんか違くね?罪悪感とか無いわけ?」
オレは乗り気じゃ無い。オレ達が余計なことをしなければ、海月も有原もここまで傷つくことは無かったはずだ。
「フン、何に罪悪感を持てって言うんだ」
2人を傷つけた張本人であるサブローは涼しい顔だ。まあ、コイツに反省を期待するだけ無駄なのかもしれないが…。
「ダメだなぁ、カズは」
一方のロムはオレにダメ出しをしてくる。
「いきなり『お前のココがダメだったんだよ』とか言われても、そんなの聞きたくねぇって感じるだろ?一杯やって、一息ついて、そう段階を踏むのが重要なのさ」
そう言って麦茶を口に入れるロム。サブローもそれに習う。
まあ確かに、ロムの意見も一理あるのかもしれない。先程までの数十分は、ここにいる誰にとっても濃すぎる時間だっただろう。各々反省点はあるだろうが、それはまず置いといて、濃い時間を乗り切った自分に「お疲れ」を、というコトなのだろう。
「確かに、ロムの言う通りなのかもしれないな…」
「だろ?ほれカズ、お疲れ」
ロムがオレの水筒のカップに麦茶を注ぐので、
「うん。お疲れ、ロム」
と返して、オレは麦茶を飲み干した。
はぁー。何だか生き返ったような感じがする。大声でツッコミを入れたり、叫んだり、サブローを止めるのに夢中になったりしたせいで、喉がカラカラになっていたコトに気付いた。やっぱ水分補給は大事だな、うん。
「…いやー、しかしカズよ。サブローを止めた時のお前は中々ナイスプレーだったぞ?」
喉の渇きを癒やしたロムが、オレを褒めだした。
「いや、オレの行動は遅すぎたよ…」
そう言ってオレは海月と有原の方に目を向ける。
「オレがもう少し早くサブローを止めに行ってれば、2人とも気絶しないで済んだのに…」
「なら、なぜそうしなかった?」
そう尋ねるロムの口調に、俺を責めるようなニュアンスは感じられない。
「オレは…、『魔法少女は最後に必ず勝つ』って幻想を抱いてたんだよ。でも、ココは現実世界なんだ。そんなご都合主義なんて存在しない、『強い方が勝つ』ってシンプルな勝利条件だけが存在する世界だってことをスッカリ忘れていたんだよ」
自分の反省点を改めて浮き彫りにする意味も含め、オレはロムの質問に正直に答えた。
「ほうほう、良いじゃないか良いじゃないか。素晴らしい振り返りだとオレは思うよ?『オレが反省すべきところなんて無い』と思い込んでる、どっかの誰かさんとは違ってね」
そう言ってロムはサブローに目を向けた。
「何が言いたい?そこの2人をボコったことを反省しろと?」
サブローがロムを睨みつける。
「まあ、普通の人ならそう言うんだろうけど、オレは言わないね。だって、あのジャンケンでの勝ち負けが逆だったら、オレが魔法少女と戦ってたワケだからな!」
そうだった!スッカリ忘れてた!なんかオレ達の反省会を仕切ってるロムだけど、コイツも未遂犯だったじゃねえか!
「おい待てよ!結局お前は、『クラスの男子が魔法少女をボコったらどうなるか気になる』って理由でフェアリーティアーズと戦うつもりだったのか?」
「そうだよ?」
アッサリとロムが肯定する。
「初めて魔法少女を見た時から、ずっと気になってたんだよねえ。『魔法少女の戦いに乱入した無関係なクラスメイトの男子が魔法少女をボコったら、一体どんな空気になるんだろう?』ってね」
理解不能な好奇心に呆れつつ、オレは形式的な質問を投げかける。
「で、結局どうだったの?」
「うーん…、あんまり気持ちよくなかったネ!やっぱ相手が魔法少女とはいえ、男が女をボコるって絵面になるのが良くないんだなぁ。もしオレが戦ってたとしたら、多分途中で止めてたわ」
「…で、結局お前はオレに何を反省して欲しいっつーんだよ?」
今度はサブローが疑問をぶつける。
「一言で言えば、『戦い方』かなぁ」
「戦い方、だと?」
「そ。あのねぇ、お前の戦い方はダーティすぎるんだよ。手口が邪悪すぎんの!もっとこう、何つーかなぁ?戦いってのはね、エンターテインメントじゃないとアカンのよ」
「またそうやって分かりづれぇ言い方を…。具体的に、分かりやすく言えよ」
そう言うサブローの口調からは、苛立ちが感じられない。鬱憤を溜めていた相手である海月をボコってストレス解消が出来たからだろう。
「分かりやすい例を挙げるなら…、最初に不意打ちでミラクルに延髄斬りをかましただろ?そうやって2人を怒らせて戦闘に持ちこんだよな?ああいうのがダメなんだよ。邪悪すぎて、楽しくなれないだろ?」
「じゃあロムはどうする気だったんだよ?見てただろ?コイツらは『戦う理由』なんてつまんねえモンを掲げて、戦いを拒んでくるんだぞ」
「そうさねぇ、オレなら『駄々っ子になる』かな」
「「駄々っ子?」」
ロムの答えが意味不明すぎて、オレとサブローはオウム返しをしてしまう。
「そ。オモチャ売り場とかで欲しいものを買って貰えず駄々こねてる子供がいるだろ?アレになるんだよ」
そう言って、ロムは背中を芝生に着けて仰向けになる。その姿勢のまま、両足と両手の拳で地面を連打し始めた!
「イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだぁ!!戦って戦って戦って戦って戦って戦ってぇ!!ウワアアアァァン!!ビエーッ!!!!」
「「プッ!アッハッハハハハハハハ!!!!」」
あまりにも見苦しく、情けないロムの姿を見てオレとサブローは大爆笑する。
「ハハハッ!オメェ、バカじゃねえの!?んなコトして何になるってんだよプフゥッ!」
サブローが笑いながら尋ねる。
「いや、こうすりゃあ『もう、しょうが無いなあ。あまり痛い目に会わさない程度に戦ってあげるか…』って気持ちになってくれると思うのよね。てかなるよ、うん。こんなことしてるクラスの男子を見て、無視なんて出来ねえだろ?」
「仮にその流れで戦ってくれたとして、それが何になる?そんなんで本気の勝負になるわけ無ぇだろ」
「いや、そんなことは無いさ」
急にロムが真面目な口調になる。
「戦ってさえくれればコッチのもんよ。本気寄りのキックとかをお見舞いすれば『あ、これ本気で行かないと私達が危ないパターンだ』って思うようになるだろ?そう思うように仕向けるのがオレのエンターテインメントな戦い方さ。」
そうロムが答えた時だった。
「ううううう、うっ」
近くで海月の呻き声が聞こえた。
「おや、白雪姫がお目覚めだぜ?」
「ハッ、ゴミアマにはもったいない例えだな」
そうだろうか?海月は綺麗だし、白雪姫って例えは結構素敵な気がするんだが?まあ、そう例える事自体が気持ち悪いって感想も否めないけど…ってそうじゃない!!オレは目を覚ました海月に声をかける。
「大丈夫か!?海月」
「塔岡君、和野君…」
海月が順にオレ達の顔を見る。そして…
「はっ!棚田君!」
小さく叫んで側で寝ている有原を、腕を伸ばして庇い始める。
「これ以上、三佳さんに危害を加えさせは…」
「しねーよバカ。空気読めや」
サブローが「バカバカしい」とでも言わんばかりに吐き捨てる。今のお前に説得力は無いだろ、サブローよ。
「そうそう。オレ達はもう何もする気ないから、安心しなさいな」
「うーん…」
ロムがサブローに同意した直後、有原も意識を取り戻した。
「うぅ、雪花ちゃん?ここは…ってああ!!棚田君!!」
「一々うるせーな」
「ああ!2人とも目を覚ましたんだね!!良かったぁ」
声がする方へ顔を向けると、未来来がこっちへ走ってくるのが見えた。
「希さん!」
「希ちゃん!」
海月と有原が、未来来の無事を喜ぶ。
「体は大丈夫ですか?」
「痛かったよね?怖かったよね?」
「うん!もう大丈夫!2人の方こそ大丈夫なの?」
「私はもう平気です」
「三佳も、ヘーキヘーキ!」
元気だなあ…。やっぱり魔法少女ってのは丈夫じゃ無ければやってけないモンなのか。
「と、そうだったそうだった!」
未来来が思い出したように、オレ達男子3人の方へと近づいてくる。
「あの後ポンちゃんと話し合ったんだけどね。3人にお願いがあるんだ」
そう言って彼女は両手を合わせて頼み込んだ。
「今日の放課後、私の家まで来て欲しいの!そこで話すよ、フェアリーティアーズのコト!」




