第3話【洗脳展開無し!! 魔法少女VS中学生男子】 その10「前代未聞の戦い、決着」
サブローに投げ飛ばされたドロップとファインが、地面に勢いよく叩きつけられる。
「「あうっ!」」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…!」
二人が苦痛の声を漏らす一方で、投げつけた張本人であるサブローも荒い息を吐いている。アイツとの付き合いは長いが、こんな様子を見せたのは初めてだ。
「はあああ…!」
「うおおお…!」
ドロップとファインは再び立ち上がろうとする。しかし…
「「あ、くぅ…」」
再び膝を付いてしまう。もう限界が近いのだろう。
「…フ、フン。そろそろ終いか?ならトドメと行こうか。オレを倒すには程遠いが、これ以上攻撃を食らいたくは無えからな…」
そう言ってサブローが動き出す。だがコチラも…
「っ!?何だ?体が上手く動かんっ!」
その場で大きくたたらを踏んだ。あの膨大な雷エネルギーを受け続けた後遺症が、体の正常な動きを阻害してるようだ。
「く、くそっ!さっさと回復しろ!!」
痙攣する右手をジッと見ながらサブローが念じる。その自己暗示の効果からか、アイツの手の震えが徐々に小さくなっていく。この痙攣が治まった時が、サブローが動ける時ということか。
だが、魔法少女側も黙っているワケでは無い。
「ファイン、私達はもう、あまり動けそうにありません。が、棚田君が痺れて動けないこのチャンスを逃すワケにもいきません」
「そうだねドロップ。この場で決着をつけよう!」
今度こそ、その場で立ち上がるドロップとファイン。2人は武器化したステッキを元の状態に戻し、その場で力を溜め始めた。
「ハハ、なるほど、必殺技か?」
ステッキの水晶に光が満ちていく様子をサブローはただ見つめている。そんな彼の痙攣も大分治まってきたようだ。
「この必殺光線で勝負が決まるだろうな」
今まで黙って観戦をしていたロムが喋り出す。
「必殺光線でサブローが倒れれば魔法少女の勝ち。もしサブローが避けたり、攻撃を耐えきったなら、その時は…ま!言わなくても分かるわな」
オレは無言で頷く。決着の瞬間が近づいているのは明白だった。
「「はあああああ!!」」
水晶が激しく光り出す。
しかし、その間にサブローの痙攣も治まった!力を溜めている2人に攻撃を仕掛ければ決着となるだろう。
なのに…
「来い!魔法少女ぉ!!」
サブローはその場を動こうとしない。必殺光線を受けるつもりなのか?
「だ、大丈夫なのかよ、サブロー…」
思わず声が漏れる。
アニメでの魔法少女の必殺光線の効果は、作品によって異なる。単純な破壊光線の場合もあれば、浄化の効果を持つだけで相手を傷つける力は無い場合もある。バケモノが消え去るのはどちらも同じだが、敵の幹部等が受けた場合は結末が違っていて、前者の場合は大ダメージ、場合によっては殉職ということになる。後者の場合は、元の姿に戻るとか、悪い心が消え去って改心するとか…。あるいは敵幹部の正体が邪悪なエナジーの塊とかだと消滅してしまったり、これまた作品によって効果が別れる。
長々と解説してしまったが、どちらにも言える事として、洗脳もされてない生身の一般人が魔法少女の必殺光線を受けるなんて状況は見たことが無い。故に、サブローが幾ら強靱と言えども、魔法少女の必殺光線を受けた場合の顛末はオレにも想像が付かない。
「お、おいタヌキ!!」
オレは思わずフェアリーティアーズのマスコット枠であるタヌキに声をかける。
「た、タヌキってオイラのことポンか?」
「他に誰がいるんだ!なあ、サブローがあのワザ食らっても大丈夫なのかよ!?」
「そ、それは…」
タヌキは少し言いよどんだ後で答えを口にする。
「正直な話、オイラにも分からないポン。普通の人間なら、あのワザをまともに食らったらただでは済まないポン。でも、あのサブローとかいう人間は常人より遙かに頑丈な体をしているポン。だから耐えきれるということも考えられなくは無いポンが…」
ここから先はタヌキにも分からないとのことだ。
サブロー、負けてもいいから死ぬな!生きた状態で負けてくれ!!
「「フェアリーティアーズ・シャイニングウェーブ・フォルテッシモ!!!!」」
ドロップとファインのステッキから必殺光線が放たれる!2人の光線が合わさって威力が増しているぞ!?
光線はサブローに向かって直進し…
「サブロオオオオォォォォォ!!」
数秒と経たない内に、アイツの姿は光線の中でかき消されてしまった。
「う、ウソだろ、サブロー?」
死んだなんて悪い冗談止めてくれよ、サブロー!!
「一度、正面から受けきってやろうと考えたんだがな…」
…オレはなんてバカな勘違いをしていたのだろう。アイツの声がドコからか聞こえてきた!
「「え?」」
ドロップとファインが声のした方へ振り向く…、ヒマすら与えなかった!2人の背後に移動していたサブローが、両手で2人の後頭部を鷲掴みする。
「やっぱ止めにした」
そう言って、手にした頭を思い切り地面に叩きつけた!
「「キャグッ」」
頭を地面にめり込む勢いで叩きつけられた2人は悲鳴を言うことすらままならなかった。
「お前らの光線に即死効果が付いてたりしたら、それこそ『笑えない状況になる』からな」
魔法少女の頭を地面にめり込ませながら、サブローが言った。
彼は光線が当たる直前で「やっぱり当たるのはマズい」と思い直し、攻撃を避けたのだ。見ているオレとは光線を挟んで逆の方に移動したため、アイツが光線に当たって消し飛んだかのように見えたのだろう。
「………」
ファインの体がまぶしい光に包まれた。程なくして光の中から有原三佳が姿を現した。変身が解けたのだ。
この瞬間、オレは夢から覚めたような感覚に囚われた。
そうだ…、「これは現実世界なんだ」。空想の世界では断じて無い。
オレは今まで魔法少女が「最後に必ず勝つ存在」だと思い込んでいた。でも、アニメで魔法少女が最後に必ず勝つのは、「魔法少女がその作品の主人公だから」だ。主人公であるが故に、悪を倒して必ず勝つ。
だが、今オレが目にしているのは現実世界なのだ。現実世界に主人公は存在しない。オレの人生ではオレが、フェアリーティアーズの3人の人生では3人が、そしてサブローの人生ではサブローが、それぞれの主人公なんだ。
そんな、各々が主人公である現実世界で戦いが起こった場合、勝利するのは誰か。答えは単純、「強い方が勝つ」のだ。こんな当たり前のことを、オレは今まで気付けずにいたのか…?
変身が解けた有原の様子を確認したサブローは、2人の頭から手を放す。そして未だ変身が解けないでいるドロップを見下ろす。
「う…」
ドロップが声を発した!あんなに激しく頭を叩きつけられて、まだ意識があるというのか!?
「ほう。大した根性じゃねえか、ゴミアマ」
「棚田君…貴方という人…あぁっ!」
サブローがドロップの背中を踏みつけた!
「ハハハ!無様だな海月雪花!これで分かったか?オレはお前より上なんだよ!」
そう言いながらアイツはドロップの背中を、足でグリグリと踏みにじる。
「思えばテメエにはズイブンと舐めた態度を取らせてやったな?偉ぶった口を利くテメエを何度蹴り飛ばしてやろうと思ったことか…」
サブローの顔は狂喜で満ちている。
「お返しの意味も込めて実験してやろう。テメエの背中にどれだけ圧をかければ変身が解けるか試してやる。テメエが今まで無事でいられたのはカズノリのストップがあったからだということを身をもって…」
カズノリのストップ。その言葉が耳に入った瞬間、オレは全速力で駆け出した!




