第3話【洗脳展開無し!! 魔法少女VS中学生男子】 その9「魔法少女あるある『仲間をバカにされた怒りでパワーアップしがち』」
オレは土手に吹き飛ばされたサブローの方に目を向ける。アイツは今、玩具屋のテディベアのように尻を地に着けて座り込んでいる。
「どうです?棚田君」
ドロップとファインもサブローに目を向ける。
「貴方が徒に傷つけたミラクルの痛み、少しは理解出来ましたか?」
「あ゛ん!?」
座り込んでいたサブローがドロップを睨み返した。
「オレに一撃当てた程度でズイブン調子に乗って…、いや、テメエは元からそうか」
そう言ってサブローは立ち上がり、服に付いた土埃を払いのける。あれだけ派手に吹き飛ばされておきながら、大したダメージにはなってない様子だ。死んだと思っては無かったが、あんなにピンピンしてるとは…。オレならバッチリ死んでるぞ?
「まあ、テメエが頭の切れる女だってのは認めてやるか。このオレに一撃食らわせたんだからな」
「それはどうも」
そう言いながら、ドロップは槍を構える。サブローの目から闘志が消えてないことが伝わってきたからだろう。
「だが、言ったはずだぜ?オレは本気を出していない、とな」
「何ソレ?強がり?」
いやファイン、それは違うぞ。アイツが言ってるのは本当のコトだ。
「おい有原ぁ…、テメエまで調子に乗ってんじゃねえぞ?勝った気でいるなら見せてやるよ」
そう言ってサブローが突撃する。
「きゃあっ!!」
すぐさまファインの悲鳴が聞こえた。彼女の懐までサブローが瞬時に移動してきたのだ。
「これが、本気だ」
「ファイ…あぅ!!」
ファインに蹴りを入れたサブローは、すぐさまドロップにも攻撃を加える。魔法少女2人がいとも容易く吹き飛ばされた。
「見ろ。お前らはオレを一回吹き飛ばすのにズイブン苦労した様子だったが、オレなら一瞬だ。コレが力の差ってヤツなんだよ!」
サブローが魔法少女を見下す。
だが、厳しい評価を下すなら、サブローの言ってることは正しいと言わざるを得ないだろう。ドロップとファインは、彼の速さについて行けていない。先程の逆転劇も、元はと言えばサブローがファインの攻撃を律儀に躱していたため起こった事だ。
仮にサブローが、2人への攻撃に徹していたならば、彼女達は為す術も無いハズだ。
「うう…」
「ファ、ファイン…!しっかりしてください…!」
「どうした?もう動けないのか?オレはまだまだ動けるぜ?」
そう言って、サブローはドロップに追撃を加える。
「きゃあっ!」
「ドロップ!あぁ!!」
ドロップを蹴り飛ばしたサブローは、続けてファインをも蹴り飛ばす。
このままタコ殴りするつもりかと思ったが、どうやらそうでは無いようだ。サブローはドロップとファインをワザと同じ方向に蹴り飛ばした。今、2人は並ぶようにして倒れ込んでいる。更に追撃を加えるチャンスなのにも拘わらず、サブローは腕組みをして動かない。フェアリーティアーズ側にとっては、連携して戦況を立て直す絶好のチャンスだ。
そんなチャンスをわざわざ作ってあげる理由は一つしか無い。サブローはまだ遊ぶつもりなのだ。
「おいおい、さっきまでブチカマしてた余裕はどこ行ったんだよ?ミラクルの痛みを教えたいんじゃ無かったのか?ゴミアマ共」
「くっ…」
「うぅぅ…」
挑発をするサブローに対し、ドロップとファインは呻き声しか返せていない。
無理も無いだろう。2人はこれまでサブローの蹴りを幾度となく受けている。オレなら全身骨折と内臓破裂でとっくに死んでいるだろう。彼女達がそうならないのは、2人が魔法少女であるからだ。だが、フェアリーティアーズにも攻撃を受ける限界があるのは先にミラクルが示した通りだ。
そうだ。考えてみれば、サブローはいつでも2人をノックアウトさせることが出来るのか!そうしないのは、それだと自身の目的を果たせないからなのだろう。「自分の強さを確かめる」という目標を…。
「動けねえか?口ほどにも無え!所詮お前らの『怒り』なんぞそんなモンよ!!」
サブローはテンションを上げながら、相手を侮辱し続ける。
「まあ、当然だろうな。アソコで無様に倒れ込んでる未来来は、元はと言えば転校生だ。オレ達と会ってまだ1週間しか経ってねえだろ。あんな気持ち悪いヤツに友情を感じること自体、そもそも無理があるんだよな!」
「「気持ち…悪い…?」」
倒れ込んでいたドロップとファインの体がピクリと動く。
「気持ち悪いだろうよ、あんなワケの分からん女!『いきなりクラスに転がり込んできた人間が魔法少女』なんて状況、気持ち悪いにも程がある!架空の世界にしか存在しないハズの『魔法少女』だぞ?気持ち悪がって然るべき…」
「黙りなさい!!!!」
「黙れえええ!!!!」
サブローの侮蔑を遮り、ドロップとファインが絶叫する。
「希ちゃんと会ってからまだ1週間しか経ってないけど…、希ちゃんは元気で、明るくて、一緒にいるとハッピーな気持ちになれるんだ…!」
「貴方のようなロクデナシに、『友情』というものが分かるハズも無いでしょう…!私達の友達を侮辱する輩は…」
「どんな理由があっても絶対に…」
「「許さないっっ!!!!」」
2人が叫びながら立ち上がった瞬間の出来事だった!彼女達の体から強烈な光が発せられたのだ!!
これは、もしかして…、魔法少女モノのお約束「仲間を侮辱された怒りによるパワーアップ」というヤツなのか!?そういえば、あのボランティアの日にミラクルが「フェアリーティアーズの力の源は『強い気持ち』だ」と言っていた。だとすると間違いない!あの光はフェアリーティアーズがパワーアップした証なのだ!!
「フフ、ハハハハハッ!!」
サブローは笑ってるけど、お前多分ピンチだぞ?
「まぁた『許せない』か!?だから何だってんだよ?何だってんだよ、だから!!お前らは所詮『口だけ一級品』なんだ!大人しくオネンネしてれば良いんだよぉ!!」
「「はああああああ!!!!」」
ドロップとファインがサブローに突撃して…、は、速いぞぉ!?さっきまでとは段違いのスピードで突っ込んでいく!!
「…!」
サブローも今までとの違いに気付いたらしく、目を見開いた。
「うらあああっ!!」
ファインがサブローに殴りかかる。手にしているポンポンの大きさが段違いだ!
サブローはバックステップで躱そうとするが、ファインの武器の大きさと、彼女のスピードが、程なくして相手を追い詰めていく。
「ちっ!」
後ろを振り向いたサブローが舌打ちする。もう1,2回後ろに跳べば、グランドを囲うフェンスに激突することになる。フェンスをよじ登って…、なんて事も出来なくは無いだろうが、そんなダサいマネがアイツに出来るハズが無い。
「仕方ねえ!!」
サブローは目を見開いて踏みとどまる。そして殴りかかってくるファインの右の拳を、自身の左手で受け止めた!
「くっ…!」
当然、ファインの手にする雷エネルギーでサブローは感電することになった。タダでさえ、先程より大きくなっているポンポンだ。電力も肥大化している。
「もういっちょうっ!!」
「舐めるなぁ!!」
ファインが繰り出す左の拳も、サブローは右手で受け止めた。
「ぐ、おおおおお!!!」
巨大な雷エネルギーを2つ受け止めるハメになり、サブローは呻き声を抑えきれない。
そして、これで終わりでは無い。今のサブローは両手が塞がっているのだ!
「はああっ!!」
ドロップがこのチャンスを無駄にするハズが無い。両手が塞がったサブローを槍で薙ぎ払おうとする。
「くおぉ!!」
サブローは咄嗟に右手をファインから離し、槍の柄を受け止めるために使う。
魔法少女の槍を片手で受け止めるサブローには、賞賛の言葉を贈るしかあるまい。だが、これでファインは遠慮無く左拳を喰らわせることが出来るのだ!
「ファイン・サンダーブローぉぉ!!!!」
「ごはあっ!」
ファイン必殺の左拳が、サブローの胴に直撃する。
「はあああああああああああああ!!」
「ぬおおおおおおおおおおおおお!!」
ファインに吹き飛ばされまいと、サブローは地面を強く踏みつける。
「おおおおお!!こんな、こんな…」
サブローが絶叫した。
「こんな攻撃でオレを倒せると思うなああああああああああ!!!!」
次の瞬間、ドロップとファインの体が宙に浮いた!
「「ええ!!??」」
2人が戸惑いの声をあげる。突然自分の体が宙に浮いたら当然の反応だろう。だが、遠くから戦況を見ていたオレには、何が起こっているのか一目瞭然だった。
サブローが右腕でドロップを、左腕でファインを、武器ごと持ち上げているのだ!感電している状況で、加えてファインの必殺ブローを食らっている状況で、なんてヤツだ!!
「うらああああああああああ!!」
雄叫びとともに、サブローはサッカーのスローインの要領で、ファインとドロップを力の限り投げ飛ばした。




