第3話【洗脳展開無し!! 魔法少女VS中学生男子】 その8「魔法少女の弱点…?」
正直な話、オレはサブローに勝って欲しいと思っていたワケでは無かった。
アイツが友達なのは事実だが、最近の、こと中学に入ってからの彼の周囲に対する態度が悪化していると感じていたのも事実であった。中二病が大きな要因だというのはハッキリしていたが、にしても度が過ぎている。
その都度のオレの制止を、サブローはその場では聞き入れてくれるのだが、それで彼の日常での態度が軟化することは無かった。
そんなワケだから、オレはサブローが魔法少女と戦い始めた時、アイツの態度を悔い改めさせる良い機会だと思っていたのだ。魔法少女という存在は可能性の塊だ。どれだけ強大な悪が相手だろうと、最終的には希望の力や絆の力、友情の力等で世界を守ってくれる。そういう存在なのだ。彼女達なら、今のサブローを止めてくれるのではないか?そんな期待を抱きつつ、オレは気絶した未来来の様子を見ながら3人の戦いを観戦していたのだった。
「言っておくが、オレは全く本気を出していない。こんなので終わったら興醒めだぜ?」
「調子に…、乗るものではありません!!」
挑発するサブローに向かって、ドロップが槍を手にして向かっていく。
「来いよ、口だけ一級品のゴミアマが」
「はああっ!!」
気合いの声とともにドロップが五月雨突きを仕掛ける。対するサブローは相手の突きを最低限の体の動きで躱して見せた。
ラノベか何かで読んだ記憶があるのだが、相手の攻撃を避ける際は、空間に余裕を持って躱すのでは無く、当たるギリギリを避けるようにすると効果的なのだそうだ。そうすると相手に「もう少しで敵に攻撃を当てられる」という錯覚を与えることが出来るからだという。もう少しで攻撃が当たる…ハズなのになぜか当たらない。この状況が続くと相手に焦りを生ませることも出来る。
今のドロップとサブローの攻防が正にこの状況だった。ドロップの槍はサブローの身にあと少しの所で躱され続けている。
「くぅっ!」
ドロップが険しい顔をする。普段の彼女なら、相手の術中にハマリかけていることに気付いても良さそうなモノだが、ソレが出来ないのは、仲間を傷つけられた怒り故か、それともサブローが魔法少女になって初めての難敵であるが故か…。
「ファイン・サンダーシュート!!」
不意に声が聞こえた。オレが反応するよりも早く、サブローが左へと跳ぶ。そしてすぐさま、アイツがいた場所に雷のビームが落ちてきた。
「何だ?不意打ちのつもりだったか?」
不意打ちを躱したサブローが、攻撃の主に視線を向ける。先程殴り飛ばされたファインが戦線復帰していた。
「まあ、さっきのパンチは大分加減したからな。あの程度でグロッキーは困る」
「馬鹿にして…!」
「それより、オレはお前らの弱点を一つ、見つけてしまったぞ?」
サブローがニヤリと笑う。何なんだ、魔法少女の弱点って?
「今の不意打ちにせよ、ゴミアマとの攻防にせよ、お前ら、技名を言わないと飛び道具が撃てないな?」
「「…っ!」」
あ、それはバトル系のお約束で言っちゃいけないヤツ…、と思ったが、現実世界で戦っている3人にとって、このポイントは無視出来ないだろう。
「不意打ちで雷を当てるなら、技名なんざ言わない方が良い。技名を言わずに撃てるなら、さっきの槍での連撃中に、あの氷塊を発射していれば、オレでも避けるのは厳しかったろうな」
「…、だったら何だというのです?」
「図星か?まあどっちでも良い。オレが勝つことに変わりは無えんだからな」
サブローが自信たっぷりな姿勢を崩さない一方で、ドロップの方も口元に微かな笑みを作ったように見えたのは、オレの気のせいだっただろうか?
「ファイン、棚田君の気を引きつけて欲しいのですが、お願いできますか?」
「でもファイン1人じゃ、棚田君にダメージを与えるのは…」
「『攻撃を当てる』のでは無く、『攻撃に当たらない』ことに気を配ってくれれば大丈夫です。それともう一つ…」
ここから先は小声だったので、何を伝えたのかはハッキリと聞き取れなかった。
「分かった、やってみる!」
やはり、ドロップには何か策があるようだ。彼女のことだから間違いない。
ファインはドロップの指示を受け、サブローに突撃していく。
「ゴミアマの命令で死にに来たか?」
「そんなワケ無いでしょっ!!」
ファインは雷のポンポンでサブローに殴りかかるが、当然アイツは当たってくれない。
「まだまだぁ!」
ファインは諦めずにバルカンジャブを仕掛けるが、サブローはその全てをギリギリの所で躱す。雷ポンポンの当たらない範囲を、彼は既に把握したようだ。
「おいおい、流石に飽きるぜ」
退屈そうな顔をするサブロー。
だが、彼は忘れていたのだろう。戦いは何が起こるか分からない。相手が魔法少女なら尚更だ。
「はあ!」
「…!」
起こった一つの変化。ファインの持つポンポンが、急に一回り大きくなったのだ。バチバチッという音とともに、ポンポンの先端がサブローに触れた!
「ぐ、おお!」
感電したらしきサブローが顔を歪める。
思えばファインの持つポンポンは、ミラクルの弓矢やドロップの槍と違って決まった形を持っていない。ポンポンのように見えるのはあくまで雷のエネルギーなのだ。故に、彼女が放出する力を上げれば、ポンポンの大きさも大きくなるのは当たり前なのか!
そして、サブローが初めて見せた隙をドロップが見逃すはずも無かった。
「………」
何か口を動かしたらしきドロップが槍を振るう。するとどういうワケか、氷の塊が槍から発射されたではないか!技名を言わないと使えないのでは無かったのか、と一瞬思ったが、オレは一つの仮説を思いつく。もしかして彼女は…。
「…ッ!くおぅっ!!」
ファインの攻撃に集中してる中でドロップの飛び道具に気付いたのは流石としか言い様が無いが、さしものサブローも焦りを隠すのに限界が来たようだ。迫り来る氷の塊を避けようと、目の前のファインには目もくれずに身を捩る。
「チッ、速…」
が、完全に躱すことは出来ず、右の小指付近に氷塊を掠らせてしまう。
「ぐおお!?」
サブローがの右手の小指から氷が生まれ、徐々に右手を侵食していく。流石に掠っただけでは十分に効果を発揮出来なかったらしく、氷の侵食は手のひらの途中で止まってしまう。
だが、サブローの動きを止めるにはコレで十分すぎた。
「ファイッ!」
掛け声一つ、ファインの持つポンポンが膨張する。
「しまっ…」
侵食していく氷に気を取られ、サブローは攻撃を躱すことが出来なかった!
「ファイン・サンダーブロー!!」
ファインが膨張した雷エネルギーを手に、サブローの腹にブローを叩き込む!!
「がはぁっ!!」
という声と共にサブローは吹き飛ばされ、階段付近の土手に激突してしまった!
「やったぁ!!」
「ありがとうございます、ファイン!」
初めてサブローにダメージを与えた喜びを、ドロップとファインが分かち合う。
「あちゃー、馬鹿だねぇサブローは…」
声がした方向を振り向くとロムが、生みの親を失って抵抗もしないインソムジャーをお手玉しながらコチラの様子を見ていた。約束通り、楔役に徹しているらしい。
「相手の弱点が分かったとしても、ベラベラと喋るモンじゃないよ全く」
ロムの指摘はご尤もだ。サブローが犯した最大のミスは「魔法少女は技名を言わないと技を放てない」という気付きを、ドロップ達に伝えてしまった点にあるだろう。この言葉があったからこそ、ドロップは起死回生の作戦を思いついたのだ。
ドロップが技名を言わずに氷塊を発射したように見えたのは、実際には勘違いだと言える。彼女は「技名を言わなかった」ワケじゃない。「技名を小声で言って技を放った」のだ。
そんな単純な作戦で?と思うかもしれないが、そうとしか考えられない。あの時のサブローの立場で考えてみれば、近くでファインのポンポンがバチバチと音を発していたため、遠くにいたドロップの小声は聞こえてなかったに違いない。事実、彼女の小声はオレにすらハッキリとは聞き取れなかった。
口は災いの元。サブローは自らの油断で、相手の形勢逆転を許してしまうこととなった。




