第3話【洗脳展開無し!! 魔法少女VS中学生男子】 その6「楔役」
インソムジャーに潰されたかと思われたロムとサブローだが、実際はインソムジャーの巨体を持ち上げており無事だった…って、よくそんなこと出来るな!?普通の人ならペチャンコ待ったなしだぞ!
「「ひいいいいいい!!」」
インソムジャーを持ち上げる2人を目にし、リカーディアとイナーティが悲鳴を上げる。
「うるせえなオイ!?」
「こんくらいでオレ達がやられると思ってたん?残念でした!」
「「イヤアアアアアアアアアアア!!!!」」
リカーディアとイナーティは、慌てて上空にいるC・ハータックの元に駆け寄る。
「パイセン、コイツらマジヤバっす!」
「インソムジャー持ち上げてんすよ!鬼ヤバっす!!」
「はあ?んだそりゃぁ!?フェアリーティアーズでもねえヤツらがか!?」
ハータックは苦い顔をする。
「こんな話聞いてねえぞ?『世界偵察局』は何やってんだ?」
「とにかく帰りましょパイセン!!」
「このままじゃイナちゃん達が殺されちゃうっすよパイセン!!」
リカーディアとイナーティが、ハータックに抱きつきながら撤退を懇願する。正直羨ましいな、アイツ…。
「そ、そうだな…。ま、アイツらが無事で良かったわ」
ん?今ハータックのヤツ、敵組織の人間とは思えない言葉を吐かなかったか?
「「「バイビー!!!」」」
オレの疑問を他所に、そう言ってトリコロールトリオは姿を消してしまった。
「あぁ!逃げられちゃった!」
「まだインソムジャーが残ってるのに…。こんなことってあるの?」
ファインの言う通りだ。魔法少女の敵幹部が、生み出したバケモノを残して撤退するなんて聞いたことが無い。
「でも、空は晴れませんね…」
ドロップの言葉を聞き、オレは空を見上げる。確かに、これまでは「インソムニア」の連中が帰ると空はすぐ元に戻っていた。だが今の空は不気味な紫色のままだ。
「大丈夫ポン!インソムジャーを倒せば元に戻るポン!」
そうなのか?まあ、このタヌキが言うなら間違いないのだろう。
「じゃあ、すぐに浄化技を撃とう!」
「でも、あのままでは棚田君と和野君に当たってしまいます」
「棚田くーん!ロムくーん!そのインソムジャーを浄化したいの!どこかに放り投げられないかなぁ!?」
そんなファインの言葉を受け、サブローとロムは相談を始める。
「おい、聞いたかよロム?」
「ああ、こいつぁ『楔役』が必要だな」
「じゃあソレはお前がやれ」
「イーヤー、ヤダヤダ。お前がやれ」
「はあ!?ふざけんな!お前はどうせ興味本位だろうが!オレは本気なんだぞ!」
「失礼な!オレだって本気だぞ?おふざけじゃあ無い」
あれれ?言い争いを始めたぞ?何か言い争いするような理由って今あります?
「棚田君!和野君!そのインソムジャーから離れてください!浄化技が撃てません!!」
ドロップがそう呼びかけるが、2人はどこ吹く風だ。
「しゃーねーなー。んじゃ、ジャンケンで決めるか」
「だからふざけるなよ!」
「じゃあ何か?麻雀で決めるか?」
「なぜそこで麻雀ッ!?」
「勝ち負けをつけるにはジャンケンか麻雀!もしくはトランプ、花札、『カードろう』もあるねぇ、後は…」
「大体、道具も無えこの場で麻雀なんか出来るか!!」
「チッチッチ、甘いなぁサブロー。今の時代、麻雀なんてスマホがあれば、いつでもどこでも対局可能なのだよ」
そう言ってロムはポケットに左手を突っ込み、スマホを手にする。…あのぉ、片手でデカブツを持ち上げてるんですが、平気なんですか?
「ありゃりゃ、スマホが通じねぇぞ?ハハァン、シッカリしてんねぇ…」
「そもそもオレは麻雀のルール知らねえよ!もう良い!ジャンケンで決めてやろうじゃねえか」
「うし来た!負けた方が楔役な!行くぞぉ?」
「文句言うなよ?」
「サブローこそ!」
何だか分からんが、2人の言う「楔役」は貧乏くじのようだ。
「「じゃーんけーん、ポン!!」」
ロムとサブローが、インソムジャーを持ち上げながらジャンケンをする。どうして片手で持ち上げられるんですか、この2人は…?
「オレの勝ちだ!」
「くっそー!」
ともかく勝敗は決した。サブローがジャンケンに勝ったようだ。
「約束だ、しっかり楔役やれよ」
「はいはい、楽しんどい、でっ!」
そう言ってロムはインソムジャーを上に放り投げる。その隙にサブローが下から抜け出した。
「よし、後は和野君さえ抜け出してくれれば…」
しかし、ドロップの願いは叶わなかった。ロムはまるでバレーボールを扱うかのように、バケモノの巨体をトスでお手玉し続けている。
先程からインソムジャーは一切の抵抗をしていない。恐らく、生みの親の命令が無いと何も出来ないのだろう。
「ロムくーん!どいてー!浄化出来ないよう!」
「おいおい、アイツのコトなんて放っておけよ」
ロムに呼びかけるミラクルに対し、サブローが言葉を返す。
そして彼は、信じられない言葉を続けた。
「お前らの相手は、このオレだ」
「………は?」
言っている意味が分からなかった。オレだけで無く、フェアリーティアーズの3人もポカンとしている。
「おい!聞こえてんだろうがよ!!今からお前らはオレと戦うんだよ!」
まさかとは思ったが、ウソだろ!?
「お、おいサブロー!お前何言ってんだよ!?」
「塔岡君の言う通りです!何故私達が棚田君と戦わなければならないのですか!?」
オレとドロップがサブローに問いかける。
「決まってんだろ?オレの強さを確かめるためだ」
サブローはそう答えた。この答え、どこかで聞いたような…。そうだ、魔法少女の戦いに乱入しようとするロムとサブローに理由を尋ねた時だった。
『オレの強さを確かめるためだ』
『ほら、魔法少女アニメに出てくるクラスメイトの男子生徒って、大半が取るに足らないモブキャラだろ?そんな男子クラスメイトが魔法少女の戦いに乱入してボッコボコにするって展開になったら、前代未聞で面白くね?』
オレは全てを察する。2人は最初から魔法少女と戦うつもりだったのか!ロムの言う「ボッコボコにする」相手も、インソムジャーでは無く魔法少女のことだったのだ。なんて無法な…!
先程押しつけ合っていた「楔役」というのは「インソムジャーが襲いかかってきたり、浄化されたりしないよう留めておく楔の役」のコトだったのだ!インソムジャーが倒されると「ネガーフィールド」が解除され、他のクラスメイトが起き上がってしまう。その後では戦えないから、楔役が必要だったのだ。
「さあ、そっちから来いよ。そのくらいのハンデはくれてやる」
サブローが突き出した右手のひらを上に向け、指クイする。「かかってこい」と言っているのだ。
だがもちろん、そんな要求にフェアリーティアーズの3人が応じるハズも無かった。
「棚田君と戦うなんて出来ないよ!」
「そうです!棚田君と戦う理由がありません!」
「この力は、インソムニアから世界を守るための力なの!」
「はあ?何言ってんだテメエら?」
彼女達の必死の拒否反応も、サブローには通じない。
「おいサブロー!3人とも困ってんだろ!?馬鹿なマネは止せよ!」
「『馬鹿なマネ』なんかじゃ無えよカズ。これがオレの『生きる』ってコトなんだ」
瞬間、サブローが昔言ってた言葉が、オレの脳内に蘇る。
『弱い人間は死んでしまう。強くなくちゃ、生きることすら許されない』
ああ、そうか…。そうなのか…、サブロー?
「テメエらも『戦う理由』なんてくだらねえこと気にしてんじゃねえぞ!野生の動物が補食対象を決める時に『理由』なんて考えるか?敵から身を守るのに『理由』なんて考えるか?『戦う理由』なんてアホなモノを一々考えるのは、マヌケな人間だけだ!グダグダ言って無いでオレと戦えっ!!」
再度戦いを要求するサブローだが
「イヤだよっ!!」
「イヤですっ!!」
「イヤっ!!」
3人は拒否する姿勢を崩さなかった。
そんな相手の様子を見たサブローの顔が怒りで歪んだ…、かのように見えたのは数秒で、彼はすぐさま不敵な笑みを口元に浮かべた。
「そうかそうか…。欲しいのは『ハンデ』じゃなくて『戦う理由』か。それがお望みだってんなら仕方ねえな。しっかり受け取れや…」
サブローが地面を蹴り、フェアリーティアーズの方に高速で突っ込んでいく。
「あぐぅっ!!??」
苦痛の声がした方に目を向ける。
サブローがティアーミラクルの首に延髄斬りを食らわせる瞬間が、オレの目に入った。