第3話【洗脳展開無し!! 魔法少女VS中学生男子】 その5「魔法少女の戦いに乱入!?」
オレが目を離した隙に、ロムとサブローが魔法少女の戦いに乱入してしまった!アイツらの呆れた行動に、オレは言葉を失ってしまう。
「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!?」
2人の跳び蹴りを受け、インソムジャーが吹き飛ぶ。ドバッシャーッ!!という激しい音とともに、バケツのバケモノが中身の水を撒き散らして地面に倒れ込んだ。
「な、何だぁ!?お前らは!!???」
「ちょっ、何なのコイツら!?」
「え、え?何が起こったのですか!?」
「お前ら、何だポン!?」
グランドで戦っていた連中が次々と戸惑いの声をあげる。まあ、当然だろうなぁ…。
「イエーッス!ナイスだぜサブロー!!」
「どこがだよ。アイツがぶちまけた水で地面がドロドロじゃねえか」
「まあソコは、濡れてない場所で戦えばOK!」
「やりにくいぜ、ったく…」
「いやだからお前ら何者なんだよっ!?」
マイペースな会話を続けるロムとサブローに対し、C・ハータックが詰問する。
「Mr口先マシンガン、和野宏武、見参!遠慮無く『ロム』と呼んでくれ!」
「棚田三郎。ザコに名前以外を語るつもりは無え」
「…あ、オレら2人はソコのフェアリーティアーズとは一切関係ないんで、そこんとこよろしくお願いしまーす」
そう言ってロムがペコリと頭を下げた。まさか、今のがお前らの名乗り口上なのか?それで良いのか、お前ら!?
「おい、お前ら!本当に飛び出していくヤツがあるかよ!?」
我慢出来なくなったオレは、思わず木の陰から身を乗り出してしまった!
「あ、ヤベ…っ!」
だが、ミスに気付いたときにはもう遅かった。
「あ~!お前はあの時のガキンチョ!!」
「おー、少年!元気そうじゃないか」
リカーディアとC・ハータックがオレの方に視線を向ける。
「もしかしてその声、塔岡君ですか!?」
ドロップが目の周りの色水を拭いながら顔を向ける。彼女は目つぶし攻撃の際、反射的に目を閉じており、色水の直撃は免れていたようだ。
「ったく、隠れてろ、つったのによ…」
「流石はカズ!ツッコミのため身を危険に晒すとは、見上げたツッコミ根性よ!」
サブローが呆れ、ロムが拍手する。
「ヒ、ヒイイイ!!」
ライトに照らされたマヌケな泥棒のように、オレは両腕で顔を隠す。
「いや少年よ、ソレはもう無駄な足掻きだぜ?」
ハータックに冷静にツッコまれてるようじゃ、オレもお終いだな…。
「ど、どうなってるの?ドロップ?」
「2人ともジッとしていて下さい。ドロップ・フリーズブリーズ!」
ドロップが、まるで雪女のように氷の吐息をミラクルとファインに吹きかける。たちまち2人の顔に付いていた色水が凍り、ポロポロとこぼれ落ちていく。
「ありがとうドロップ…ってえぇ~!?塔岡君!?棚田君!?ロム君!?」
「空耳だと思ったのに!本当に本物なの!?」
視界が戻った魔法少女2人が、突然の闖入者に驚きの声をあげる。
「うるせえなぁ、一々驚くなよ」
「話が進まないだろ!いい加減にしろ!」
「いや、全部お前らのせいじゃろがい!!」
「少年のせいでもあるんだが!?」
「と、とりあえず3人とも、『ネガーフィールド』の適合者だったポンか!?」
もう場がメチャクチャだが、とりあえずタヌキの質問に答えるのが早そうだな。
「あ、はい、そうみたいです…」
「このロムに『ネガーフィールド』は通用せん!生まれついての帝王の体なのだ!」
「オレを誰だと思ってる?」
三人三様で「ネガーフィールド」が効かない旨を伝える。
「パイセ~ン、『ネガーフィールド』ってこんな効かないモンなんすかぁ?」
「イナちゃんも、こんなに適合者が出てくるなんて初耳なんすけど?」
「いや、コイツはたまたま適合者が固まっただけだろ?ともかく…」
C・ハータックがロムとサブローに視線を向ける。
「部外者は痛い思いをしない内に帰っとくんだな」
「あん?舐めてんのか?」
「あ、どうぞおかまいなく~」
「何言ってるんですか2人とも!ここは危険です!早く逃げて!!」
ハータックの忠告を受けて尚、その場を動こうとしない2人に対してドロップが大声を上げる。全く…、「『悪の組織』の言葉を『魔法少女』が支持する」変な構図が出来上がってるじゃないか。
「おいロム、コイツ馬鹿だぜ」
「こらサブロー、そんなこと言っちゃいけません!海月は馬鹿じゃなくて頭がお堅いだけなんですっ」
「冗談を言ってる場会ではありません!ここは本当に危険で…」
「じゃかあしいっ!!」
サブローは怒りを込めた視線をドロップに向けつつ、倒れたインソムジャーを指差す。
「危険ってのはこのデカブツのことか!?こんな簡単に蹴り倒せるザコのどこが危険だっつーんだオイ!オレを舐め腐るのも大概にしろゴミアマ!」
「人が親切に警告してるというのに、何という口を利くんですっ!!」
「ピッピッ!ピッピッ!」
また喧嘩(&囃したて)が始まった…。一緒、コイツらが集まるとホントいっつも一緒。海月が魔法少女に覚醒してもソコは変わらんのかい!
「パイセーン、どかないならコイツらごとやっちゃいましょーよ」
「そーっすよパイセン、フカコーリョクってヤツっす」
「難しい言葉知ってんねぇイナちゃん?でもま、やるしかねえよなぁ」
ドロップとサブローが喧嘩してる間にインソムジャーが態勢を立て直してしまったぞ。もうオレは知ーらね!
「気は進まん、が仕方ねえ。インソムジャー!アソコの少年2人に目つぶし攻撃だ!!」
「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!」
ハータックの命を受けたインソムジャーが口から勢いよく色水を吐き出す。
と、次の瞬間、ドロップと喧嘩していたサブローとロムが一瞬で姿を消した。
「は、速い!?」
否、高速で移動し、色水攻撃を避けたのだ!
「ダメだなぁ。奇襲ってのはもっと静かにやらなきゃ」
「どちらにしろ、こんだけ図体がデカけりゃ一緒だろ」
「ひ、怯むなインソムジャー!頑張って当てるんだ!!」
「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!」
バケモノが次々と色水を吹き出すが、ロムとサブローは軽々と躱してみせる。
「「「す、スゴい…」」」
フェアリーティアーズの3人は彼らの様子を黙って見ているだけだった。自分達が助けるべき存在では無いことが分かったのだろう。
「ブフーッ、ブフーッ」
時を経たずして、インソムジャーの出す色水の量が少なくなっていき…
「フーッ、フーッ」
ついに水量がゼロになってしまった。先程の跳び蹴りによって、バケモノはため込んでいた水の大半を溢してしまっていた。無くなるのは時間の問題だったのだろう。
「ああ!中の水が空っぽっス!!」
「クソッ、こうなったら仕方ねえ!インソムジャー!2人を押しつぶしてしまえ!!」
「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!」
インソムジャーがジャンプし、ロムとサブローにボディプレスを仕掛けようとする。いや、それは無駄だろ。色水攻撃を軽々と避けることが出来る2人に対して、こんな隙の大きい技が通用するハズが無い…
「え?ちょっと!2人とも避けて!!」
というオレの予想は一体どこで間違っていたのだろう?上空から迫り来るバケモノの影が大きくなっているにも関わらず、2人は一切移動する素振りを見せない!?
ズゥン…!
大の字になって地面に伏せるバケモノの下に、ロムとサブローの姿は見えなくなってしまった…。
「おい!ロム!サブロー!!」
オレは大声で2人に呼びかける。
「え?マジ!?オレはてっきり避けるモンだと…」
C・ハータックは狼狽えていた。
だがオレとハータックは、上から戦況を見ていたせいで勘違いをしていたらしい。「2人が潰された」という盛大な勘違いを…。
「えぇ~!?」
「何という力技…!」
「スゴォイ!スゴいよっ!2人とも!」
フェアリーティアーズの面々が歓声を上げる。この3人には真実が見えていた。
「ん?何か起こってるのか?」
「あーしらが確認してくるっす!」
リカーディアとイナーティが地面に下りてくる。オレも急いでグランドへの階段を駆け下りた。
「「「えええええええええええええ!!!???」」」
結果として3人仲良く度肝を抜かれることとなる。
ロムとサブローは潰されてなんかいなかった!空中から降ってきたインソムジャーの巨体を、彼らはたった2人で持ち上げていたのだ!!