第1話【ピンクの魔法少女 ティアーミラクル】 その1「いつもの日常」
「カズノリ~!朝よ!起きなさい!!」
翌朝、いつものように母さんの大声でオレは目を覚ました。おっと、「学級委員サマがママに起こして貰ってんのかー?」なんて煽りはよしてくれ。オレだって一日中、徹頭徹尾カンペキ人間というワケでは無いのだ。
「今日、転校生が来るんですってね?」
居間で朝飯のトーストを頬張るオレに、母さんが問いかける。
「んん、ああ」
「しっかり迎えてあげるのよ。転校生にとって、初めての日はとっても大事なんだから」
「分かってるって」
オレはテキトーに返事をする。そんなことは重々承知だし、「初めての日」って言い方はなんだかアレに聞こえなくも無いから止めて欲しい。「初日」で良いじゃん。
朝飯を食べ終わった後、歯を磨いて、顔を洗って、制服に着替える。そして歩いてフツーに間に合う時間に家を出る。何の変わりも無い、いつもの朝だった。
登校時も特に変わったことは無く、余裕を持って学校に到着した。クラスに着くと友達の一人がオレに声をかけてくる。
「おいカズ!今日来る転校生って女なんだろ?」
「おはようロム。そうだけど?」
ロム、本名は和野宏武。オレの友達の一人だ。眼鏡をかけた色黒肌の長身で、髪は若干天パぎみ。そして超人的な身体能力が自慢だ。「ロム」ってあだ名は、本人がそう呼んでくれって言うからそう呼んでる。で、オレは「カズノリ」だから「カズ」ってワケ。
「どんなヤツなんだ!?可愛いのか?」
「知らんよ。オレもまだ顔見てないし」
興奮気味に話しかけてくるロムに、オレは正直に返事をする。
「んだよー、学級委員特権で一足先にご対面、とかねえのかよ!」
「ねえよ。ソコは平等に、なんだとさ。そんなことよりロム」
「何だよ?」
「お前、ぜっっったいに、転校生を変にイジるようなことするなよ!」
オレは「絶対」の単語に力を込めて警告をする。
何を隠そう、このロムこそ「転校生を迎えるに当たっての2つの懸念点」の一方だからだ。常にテンションが高く、ギャグや意味不明な言動を連発する合間に常識的な発言を混ぜ込んでくるなど、とにかく次の行動が読めない男なのだ。友達として一緒にいると楽しいのだが、場合によっては疲れの元になったりする。
「何それ?フリか?」
「違うわ!お前絶対転校生をイジろうとすんじゃん」
学校初日の転校生は、慣れない環境に放り込まれたデリケートな存在だ。不用意にイジるようなことは慎んで欲しい。
「しねーよー。学級委員の親友がヤバいヤツって、それクラス全体の印象に関わるじゃねーか」
「それ今オレが言おうとしたセリフ!」
「お?オレ、また何かやっちゃいました?」
「と、に、か、く!分かってんなら余計なことするなよ!」
「だからしねーって」
そこまでロムとの会話が進んだとき、もう一人のオレの友達がやってきた。オレの友達にして、懸念点のもう一方が。
「なんだ、今日来るザコの話か?」
「うっす、サブロー!」
ロムがソイツに挨拶する。
サブロー、本名は棚田三郎。ロム以上の超人的身体能力を持つ、オレの友達である。
「サブロー、お前なぁ…」
オレはため息をつく。
オレがサブローを懸念点にしている理由はもう察しが付くだろう。まだ会ってもいない転校生を「ザコ」呼ばわりするヤツがマトモなわけない。オレはサブローに釘を刺す。
「お前、絶対に転校生に向かって『ザコ』とか呼ぶなよ?」
「転校生なんざ興味ねぇよ。そもそもオレがザコに話しかけるコトなんてあり得ねぇから」
「いや、お前の思想とか関係無しに、今日の歓迎会でクラス全員が自己紹介すんだよ!その時お前が『ザコに話すことなんてねえ』とか言うとめっちゃ困るの!オレが!分かるか?」
「ンだよめんどくせー。分かったよ、テキトーに名前だけ言って済ましとっから」
「それで良いから!くれぐれもザコ扱いすんのは止めてくれよ!」
オレは何度も釘を刺す。
サブローは一見すると、柔和な顔をした細マッチョの優男なのだが、本性は「強さ」が絶対主義のヤバいヤツなのだ。中二病をこじらせている、というのが要因の一つなのだが、こうなってしまった理由は他にちゃんとある。ともかくコイツは超人的な身体能力を持つ分、他人をザコ呼ばわりして憚らない。このクラスでの例外は、ロムとオレくらいだ。ロムに関しては「サブローと同じく超人だから」、オレに関しては「付き合いが長いから」が理由である。
ちなみに、ロムよりもサブローの方が、オレとの付き合いは長い。サブローとオレは小学校時代からの友達で、ロムは中学校に入ってから知り合ったのだ。
「おいサブロー、カズの言うとおりだぜ?これからオレらのクラスの一員になる仲間なんだからな!」
「んなこと言ってお前、転校生のコト玩具にする気だろ?」
「おいおい、人のことを『漫画の敵集団のヤバいヤツ担当』みたいに言うのはやめろって」
「お前の例えはいつも分かりにくいんだよ」
「サブロー、漫画もアニメも見ないもんなぁ」
そんな会話をしている最中、校内放送が入った。
『生徒の呼び出しをします。2年2組の塔岡一典さん、海月雪花さん。2年2組の塔岡一典さん、海月雪花さん。職員室まで来て下さい』
「おっと呼び出しだ、スマンな」
オレは二人に軽く言葉をかけ、教室を後にした。
職員室の前に着いたオレに、一人の女子生徒が声をかけてきた。
「おはようございます、塔岡君」
「ああ、おはよう、海月」
そう、彼女こそオレの相棒である学級委員兼生徒会副会長、海月雪花だ。一応言っとくけど付き合ってるわけじゃ無い。あくまでも「学級委員として」「生徒会メンバーとして」の相棒である。青みがかった黒のロングヘアーで落ち着いた雰囲気の、「淑女」という単語がピッタリの女子だ。顔は「可愛い」と言うより「綺麗」で、大人になったらもっと綺麗になるであろうことが容易に想像できる。頭も良く、正に「才色兼備」と言えるだろう。こんな風に批評するのはなんだか恥ずかしいけど…。
「恐らく、転校生の歓迎会の件で呼ばれたのでしょうね」
「そうだろうね。とりあえず先生に会おう」
海月と一緒に先生の机まで向かうと予想通り、呼び出された理由は歓迎会の流れについて最終チェックをするためだった。
「…ではあと5分でホームルームですから、教室で待機していて下さい。よろしくお願いします」
時計を見ると、先生の言った通りホームルーム5分前だった。オレと海月は先生に挨拶して教室へと向かう。
「転校生の歓迎会、お互い頑張りましょうね、塔岡君」
教室に向かう道中、海月が声をかけてくる。彼女はプライベートでもクラスの男子生徒は君付けで呼ぶ。
「ああ、頑張ろうな、海月」
一方オレは、プライベートではクラスメイトのことは呼び捨てだ。まあ、コレが普通だと思うし、目くじらを立てられるようなことはしてないだろう。もちろん、クラス会等の公の場ではちゃんと君付け及びさん付けする。
波乱の幕開けとなる1日は、こうして始まったのだった。
ご愛読、ありがとうございます。よろしければ、この小説への評価、ブックマーク登録をお願いいたします。今後の執筆への励みになります。
また、感想をお寄せいただけると非常に嬉しいです。ログインしていない方の感想も受け付けますので、何卒、思ったことを率直にお寄せ下さい。
最後になりますが、今後とも「まほしょむ」をよろしくお願いします。