第3話【洗脳展開無し!! 魔法少女VS中学生男子】 その1「5人の委員長」
2話までは普通の魔法少女モノ。3話からがマグマなんです!
今回の話に出てくる各委員会の委員長達は、本来の出番はもう少し後にする予定のキャラクター達でした。初登場なので、各々の特徴について描写しましたが、今の段階では「ふーん、こういう人達が校内にいるのね」程度の認識で問題ないです。
翌日もオレは一日を通して海月を眺めていた。彼女を眺めるのが目的で、いつもより早く教室に来たくらいだ。こう言うと変態みたいに思われるかもしれないが、あえて弁明しよう。オレは変態では無い。ある日突然、今まで相棒だと思っていたクラスの女子が魔法少女になってしまい、バケモノと戦う宿命を背負ってしまったと知ったら、気になって仕方ないのは当然だろう?そう、仕方ないんだ。変身シーン中に見た彼女の裸を一々思い出してしまうのも、だから仕方ないんだ…。
「ういーっす!!おはよう皆の衆!!」
「ゲッ!」
いきなり教室前方の扉からロムが入ってきたので、オレは慌てて海月の観察を中断する。
アイツにバレるワケにはいかない!この前「オレは恋愛対象を短期間で決めたりしない」と釈明したばかりなのだ。オレと海月は学級委員同士、生徒会メンバー同士で親交が深い。もしもバレたら反論出来なくなってしまう。
そんなワケで、海月の観察は授業中に行い、それ以外の時間はロムの動向に気を使って一日を過ごすことになった。何度かロムに話しかけられはしたものの、バレてはいないハズだ…。バレて無いよな…?
その日の放課後、生徒会室にて「生徒上層部会議」が開かれた。
オレの通う宜野ヶ丘市立第一中学校、通称「宜野一」には生徒会の他に5つの委員会が置かれている、という話はしたと思う。それらの委員長5名と生徒会メンバー4名を合わせて「生徒上層部」と呼称されており、月に一度、全員が集まって報告会が開かれるのだ。
この会議中も当然、海月だけを眺めることは出来ない。オレと彼女以外、この場にいるのは全員三年生なのだ。失礼の無いよう振る舞わなければならない。
「不足していたバレーボールですが、体育館の天井に挟まっていたことが判明しました!トスを高く上げすぎた生徒がそのままにしていたことが原因でしょうっ!!」
保健体育委員の進藤育美委員長が元気よく報告を行う。…「元気よく」と言うよりかは「うるさく」と表現した方が正しいか。内股を得意とする女子柔道部の部長なのだが、声が大きいのは体育会系であるが故か。
「バレーボールの回収はどうするのでしょうか?」
不在の天ノ原会長の代理として副会長の海月がそう質問すると
「はいっ!天ノ原会長が帰り次第、鎖での回収をお願いするつもりですっ!!」
と進藤委員長が回答した。確かにそれが一番安全な回収方法だろう。
まあ、ロムとサブローなら天井までジャンプしてボールを取るくらい出来るだろうが、提案はしない。公の場で、あの問題児2人の名前は極力出したくないからな。
「分かりました。報告ありがとうございます」
海月が礼を述べ、八百万書記が報告内容を議事録に書き記す。
「それでは次…」
と会議を進めようとした海月が、急に口を摘む。
「…どうしました、副会長?」
「すみません。所用で少し席を外させて頂きます」
「ハッハァ!トイレかい副会長?」
ハイテンションで質問を投げかけたのは、文化祭や体育祭等、学校のイベント全般を運営する祭典委員の左右田揚朗委員長だった。
親が世紀末に買った「2000」を模ったサングラスをかけた、生徒上層部一奇抜な男だ。この不適切なサングラスは会長からも注意を受けているが頑なに外そうとせず、結局特例で認められてしまったという。生徒達からの評判が高いのでクビにも出来ず、オレも人として尊敬はしてないものの、会長相手に折れなかったことはスゴいと思っている。が、ロム曰く「アイツはエセ」らしい。嫉妬かな?
「はい。すみませんが失礼します」
彼のデリカシーの無い質問にも短く答えただけで、海月はそそくさと退室してしまった。よほどヒドい下痢なのか?オレも先週の金曜に経験したばかりなので気持ちは分かる。
「私の番だったのに…、フフ、フフフフ…」
そう呟くのは美化委員の手櫛ミミ委員長だ。「私の番」というのはトイレのことでは無く、報告の順番のことだろう。水を差されたのが気にくわなかったのだろうか。
ウェーブのかかったボリュームのある黒髪を肩まで伸ばしており、美人の部類に入る…とは思うのだが、先の笑い声も含めて全体的に不気味な印象の女性だ。
「おやおや、会長に続き副会長まで不在になってしまって、誰が進行を引き継ぐのでしょうか?」
そうバリトンボイスで尋ねたのは、図書委員の清水比呂途委員長だ。何か試しているような視線を八百万書記とオレに向けている。
くすんだレンガ色の髪をした男性で、三年生の学力面でトップに立つ2人、通称「宜野一の双賢」の片割れである。
「あ、そ、それは…」
「僕が引き継ぎましょう」
オレが議会進行の代理の代理を名乗り出た。
「おやおや、三年生の八百万書記ではなく?」
「彼女には議事録作成の業務がありますから」
それに口には出さないが今のオレ、何もすることが無いのだ。議会前に人数分の資料を用意したり、議会後の後片付けをするのはオレの仕事だが、会議中の仕事は特に無い。学級委員として議会を進めるのは慣れているし、立候補しない理由が無い。
「き、恐縮です、塔岡庶務…」
「相変わらず…、いえ、何でもありません。では続きをお願いします」
おずおずと礼を言う八百万書記に何事か言いかけた清水委員長だが、続きを口にする気は無いようだ。
「では手櫛委員長、先程渡した投書は読んで頂けましたか?」
「読みました。天君様がお帰りになる前に徹底的に綺麗にしなければ…。でないと嫌われてしまいます、フフフ…」
個人的に崇拝してるのかは知らないが、手櫛委員長は会長のことを「天君様」と呼ぶクセがある。会長や海月なら即刻注意するところだが…。
今糾弾すべきことは他にある。どうやらオレはナメられているらしい。
「三八町委員長、読書は止めて下さい」
会議中にも関わらず読書をし始めた男に注意すると、
「これは…、申し訳ございませんでした…」
ボソボソした謝罪が返ってきた。
三八町一成学習委員長は「宜野一の双賢」のもう片割れである秀才だ。自らを「この世全ての知識を得るために生まれた存在」と称し、常に外国語の分厚い本を読みふけっている。その志は立派だが、会議中の読書を認めるわけにはいかない。会長や海月が取り仕切っている時はしないくせに!
内心イラついたが、一度注意を受けた三八町委員長はそれ以降本を手に取ることはせず、会議は滞りなく進行した。
そして、会議中に海月が戻ってくることは無かった。
委員長達には帰ってもらい、オレは会議の後片付けをしながら、妙だなと考え始めた。彼女が出て行ってからもう30分近くになる。いくら下痢でもここまで長い間トイレに籠もるものだろうか…。
「ん…?」
思わず声を漏らす。同じようなセリフを最近聞いた覚えが…あっ、思い出した!昨日八百万書記がオレに質問したのと同じ内容なのだ。その八百万書記は、オレと同じく生徒会室に残って議事録の仕上げに集中している。そしてオレの脳内では一つの説が浮上していた。
ひょっとして海月はトイレに行ったのでは無く、インソムニアとの戦いに出向いたのではないか?思い返せばボランティア活動の日、未来来がインソムニアの出現を察知してこども文化センターに駆けつけて来たではないか。同じように魔法少女になった海月も、インソムニアが現われたことを察知出来るようになったのではないだろうか?それで…
「み、皆さん、遅くなりました…」
そこまでオレが考えていた時、海月が生徒会室に戻ってきた。顔には不安げな表情が浮かんでいる。
「お帰りなさい、海月副会長。委員長達は先にお帰りになりましたよ」
「そうですか…。遅くなって申し訳ございませんでした」
「いえいえ、お気になさらず」
そう言って議事録に向かい直す八百万書記。あれ?オレの時みたいに「トイレにしては長すぎませんか?」と尋ねないのか…いやいや、何考えてんだ一典。女子同士だぞ?そんなデリカシーの無い質問をするハズないだろう。
一方のオレも、海月に何を問うべきか判断が出来ずにいた。もし魔法少女として世界平和のために戦っていたのなら、不必要な質問で彼女を追い詰めることはしたくない。「インソムニアと戦ってたのか?」とダイレクトに訊くなどもっての外だ。
「お帰りなさい、海月副会長」
と、当たり障りの無い挨拶をするに留めておいた。
そんなオレ達の様子を見て、海月はホッとした様子を見せたのだった。