第2話【青の魔法少女 ティアードロップ】 その6「魔法少女に覚醒!?」
立ち上がった海月雪花の姿を目撃し、その場にいた誰もが驚きを隠せないでいた。
魔法少女とインソムニアが戦う際に展開される特殊な空間「ネガーフィールド」の中では、一部の例外を除いて、人々は無気力状態となり動けなくなってしまう。あの海月とて例外では無かった。つい先程までは…。
「ア、アンタ、なぜ立ち上がれるの!?」
E・トゥルシーが大声で詰問する。アイツが取り乱している姿は初めて見た。
「私にも分かりません。先程まで、半分起きて半分寝ているような、奇妙な感覚の中に囚われていました。でも、皆さんの声は耳に入っていましたよ」
そう海月は答え、E・トゥルシーを睨みつける。
「貴女のような、子供を平気で盾にする外道を私は許しません!!」
「っ!!」
海月の一喝にE・トゥルシーがたじろぐ。
「ねえポンちゃん、どういうことなの?何で海月さんは立ち上がれたの?」
ミラクルがタヌキに問いかけた。あのタヌキ、「ポンちゃん」って名前なのか?なんだか安直だなぁ。
「恐らく、彼女は元々『ネガーフィールド』の耐性をある程度持っていたんだポン。あと一つ、何かきっかけが有ればという所で、E・トゥルシーの言葉を聞いて『許せない』と強く思ったポン。それが完璧な耐性を持つカギになったんだポン!」
「フェアリーティアーズの力の源が『強い気持ち』なのと同じカンジ?」
「そうだポン!証拠に、今の彼女からは感じられるポン!」
「まさか…!」
何だ何だ、何が「感じられる」って言うんだ?続きが気になっていたところを、アイツの高笑いがジャマをする。
「ホーホッホッホ!!まあ、何でも良いわ!」
「「E・トゥルシーさん…」」
不安そうにする部下2人に対し、E・トゥルシーは呆れた表情を向ける。
「何よアンタ達、情けない。仕事にイレギュラーは付き物でしょう?それに…」
今度は海月に目を向けた。
「立ち上がれたところで、貴女に何が出来るというのかしら?お嬢ちゃん」
「守ります、この子達を!」
そう言って海月は床に倒れ伏している子供達を守るようにして、インソムニアの連中の前に立ちふさがった。
「ハッ!馬鹿じゃないの、貴女?このインソムジャーが見えないわけじゃないでしょう?」
「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!!」
クマのぬいぐるみを素体にしたバケモノが咆吼するも、海月は一歩も退こうとしない。
「それでも、です。この子達を守ることが、宜野ヶ丘市立第一中学校生徒会の一員である私の使命なのです!」
いやちょっと、ソイツはいただけない…。オレだって生徒会の一員なんだが?あのバケモノの前に素手で立ちふさがれと?無理無理!!死ぬだけだから!蛮勇と無謀は違うだろ!
「やっぱり馬鹿ねえ貴女!そんな取るに足らない子供のために死ぬ気ってコトかしら。この国に子供が何人いるか知ってる?」
「………」
「………」
「………」
沈黙。
「…ちょっとヂョーサー、何してるの!?調べ物は貴方の仕事でしょ!?」
「あ!も、申し訳ございません!!E・トゥルシーさん、只今!!」
怒られたヂョーサーが慌ててタブレットを弄り始める。いや、そこはバシッと言えるようにしとけよ!締まらないなぁ…。
「…えっと、現在、この国の15歳未満の子供の数は約1400万人です」
「1400万。それだけの子供がいるというのに、たかが10人ちょっとを守るために死ぬなんて馬鹿のすることよねぇ?」
「数は関係ありません!!」
海月は声を張り上げる。
「ここにいる子供達一人一人が、世界に一つしか無い大切な命なのです。かけがえのない存在なのです!それを守るためならば、私は命をかけて戦いますっ!!」
その時だった!
「来たっポーン!!」
タヌキこと「ポンちゃん」の体から突如まぶしい光が発生したのだ。
「「うわぁっ!」」
「な、何事!!?」
「イ゛イ゛!?」
インソムニアの連中は驚いて腕で目を覆う。
「な、何です?この光は…」
「ミラクル、喜ぶポン!やっぱりこの子はフェアリーティアーズだポン!」
「海月さんが!?」
ど、どういうことだ?まさか、海月が魔法少女になれる…ってコト!?
「フェアリーティアーズ?貴方は一体…?」
「詳しい説明は後ポン!海月、と言ったポンね?インソムニアと戦ってくれるポンか?」
「インソムニアとはこのバケモノを操っている一味のことですね?当然です!」
「なら、ここにいるティアーミラクルのように、『フェアリーティアーズ』になってアイツらと戦ってくれポン!ウッ…」
そう言ってタヌキは一度言葉を切ると
「ウボロゥェッ!!」
魔法少女のマスコットとして不適当な吐瀉音を発した。おい、まさか…
「さあ、この『ティアーズブローチ』を手にして『オープン・アイズ・メタモルフォーゼ』と叫ぶポン!!」
やっぱり変身アイテムかよぉ!!もっと他の方法で生み出せないのか!?
「何だかよく分かりませんが…、承知しました!」
海月はブローチを構える。未来来のとは違って、青い四角形の宝石が付いている。そして、吐き出されたモノとは思えないほどキレイだった。なるほど、海月が抵抗無しに触っているのはキレイな状態だったからなのか。
…ってそんな場合じゃない!!変身するのか海月!?良いんですか!?
『ちょっと一典!まさか海月さんの裸を見る気なの!?ダメだよそんなウググッ…』
『お前はもう喋るな…』
悪魔のオレにチョークスリーパーをキメられ、天使のオレは言葉を発しなくなった。この間、わずか1秒未満!
「オープン・アイズ・メタモルフォーゼ!!」
海月のかけ声と同時に、宝石から強烈な光が彼女に向かって照射された。海月の体は光に包まれ、着ている制服が音も無く破け始める!そして露わになった下着までもが破けていく!ああ、今日この場にいて本当に良かった…!
海月が全裸になっている。スタイル良いなぁ…。肝心のバストについては、未来来の膨らみかけの胸よりも大きめだが、巨乳と言うほどでは無い。いや、この大きさが良いんだよ!オレの「淑女」のイメージにピッタリだ。巨乳なのを恥ずかしがって下着でキツく押さえつけるとか、そういうのは下品なんだよ。服を着ている海月に巨乳のイメージは無いからコレで良いんだ。鼠径部から下について言及できないのは、本当に申し訳ない。でもキレイだったよ、うん。ああそう、足!足がスラッとしててキレイだった!
服の破片を吸い尽くした宝石から、青色の光の帯が伸びてくる。帯は海月の体に巻き付いていく。帯が出終わり、彼女の体をギュッと縛ったかと思った次の瞬間、ミラクルと同じような魔法少女の衣装に帯が変化した。違う点と言えば、ミラクルの衣装は全体的にピンクを基調としているが、海月の場合は青色だ。
海月の青みがかった黒の髪色が、鮮やかな青色に変化した。ブローチは光を照射し終わり、首元にあるリボンの結び目に収まった。変身完了だ。
「虐げられし人々の涙を知りなさい!罪を罰する氷結の魔法少女!ティアードロップ!!」
海月雪花が変身した新たな魔法少女、ティアードロップが名乗りを上げた。




