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第9話 決着の朝

「さて、どうするの? 康太くん」


 俺が少し落ち着いたのを見て、青崎さんは静かに問いかけてきた。


「……まだ、よく分からない。どうするのが正解なのか、どうすればまた3人で仲良くできるのか」


 頭の中で、あの光景が何度も何度も繰り返される。まるで、巻き戻され続けるフィルムの断片が心に深く刻まれているようで、離れてくれない。


 そもそも、アイツらは俺を受け入れてくれるのだろうか。もしかしたら、既に邪魔者になってしまってるかもしれない。ここで1歩引くことも手だろう。だが、青崎さんはきっと、その答えでは納得してくれない。


「……」


 教壇の段差部分に座る青崎さんは、自分の膝に肘を立て、顎を軽く手にのせ俺を黙って見つめている。きっと、こちらの次の言葉を待っているのだろうな。


「……とりあえず明日、二人の中だったらまだ話を聞いてくれそうな黒澤に話しかけてみる。そこで色々決着を付けたい」


 そう答えると、青崎さんは「合格」と言いたげな顔で微笑みを見せてくれた。その笑顔に心臓が少し跳ねたのがわかった。


「じゃあ今日は帰ろう。もう雑談する雰囲気じゃないし。康太くんは家で明日話したいことを整理しておけば、本人の前でどもらずに済むでしょ?」


「ああ、そうだな。今日は帰ろう。……それと、本当にありがとう。青崎さんが居なかったら、俺はもうとっくに心が折れてた。本当に感謝してる」


 それは本心だ。青崎さんがいなかったら、今頃ボロボロになっていただろう。


「……ん。どういたしまして」


 そう言う青崎さんは、夕日に照らされているせいか、その輪郭が橙色に縁取られ、ほんのり赤みがかった頬がやけに綺麗に見えた。




 ()れない(こい)()らない彼女(きみ)


 第9話 決着の朝




 ピピピッ─────


 アラームが鳴り、朝が来た。


「ふぁ〜ぁ……寝みぃ」


 アラームを止め、スマホをで時間を確認すると、まだ午前5時半。


「……顔、洗うか」


 顔を洗い終え、朝食を食べにリビングに行くと、妹の琴音が降りてきた。


「ふわぁ〜……お兄ちゃん、今日早いねぇ〜……」


「ああ、悪いな、起こしちまったか」


 琴音は眠そうに目をゴシゴシしている。ほんとごめん。


「ん〜ん、大丈夫……。でも、今日は途中まで一緒に学校行くよ〜……どうせあと少ししか寝れないし」


「そっか、分かった。今から朝ごはん準備するから、顔洗って座って待ってろ」


 そう言うと、琴音は「あいあいさ〜」と言いながら洗面所へと向かった。


 朝食の準備中、俺は今日聞くべき事を復習していた。


 まず、光輝のこと。俺が放課後の件を黙っていたのを怒っていると思っていたけど、あそこまで無視されるのは別の理由があるはず。


 そして、黒澤はきっと光輝が避け始めた理由を知っているはずだ。まさかあそこまで光輝との関係が進んでいて、光輝が俺を避け始めた理由が分からないというのはないだろう。


 次に光輝と黒澤の関係だ。向こうもこちらに気づいたのは知っているから、きっとここはさらっと言ってくれるだろう。


 最後に、俺は光輝と黒澤の間に入っていいのか。ほぼ確定で恋仲関係にある二人の間に俺が入ったら、邪魔者だろう。だが、もしそれでも二人がこれからも友達でいると言ってくれたら、緑川とも仲直りして、また3人で仲良くしたい。


(……よし、言いたい事は纏まった。後は黒澤に会って、ちゃんと話すだけ────)


「お兄ちゃん!!ウインナー焦げてる焦げてる!!」


「ん?……ああ!やばいやばい、火ィ止めなきゃ!!」


 気づいた時には既に遅し、火を止めたフライパンの上には、片面がダークマターと化したウインナーが数本転がっていた。






「琴音ー。早く行くぞー」


「今行くから待ってー」


 自転車カゴにカバンを入れ、琴音も自分の自転車に跨ったのを確認した後、家から出発する。


 いつも重い自転車のペダルだったが、今日はいつも以上に重い気がした。


「ねぇ、お兄ちゃん」


 前を走る妹の琴音が、こちらに話しかけてくる。いつもはバラバラに登校している為か、かなり新鮮だ。


「お兄ちゃんが今日早く学校行くのって、黒澤さん? に用があるんじゃないの?」


「ハハッ、流石琴音だな。……そうだよ、黒澤に話したい事があるんだ。二人きりで」


 黒澤はいつも一番で登校する為、もし黒澤に話すならここしかない。他にもいろいろあるのかもしれないが、一番手っ取り早く話を着けられるのはここだ。


「お兄ちゃん、頑張ってね」


「おう、任せとけ」


 そんな事を話しながら自転車を走らせていたら、学校に着いていた。


 俺は別学年の琴音と別れ、自分の教室を過ぎ、黒澤の教室へと向かう。


「……まだ、黒澤は来てないか。」


 とりあえず自分の教室で待とうと思い踵を返すと、下から階段を上がる音が聞こえた。


(黒澤……か?)


 その音は段々大きくなり、それにつれ自分の心拍数も上がっていく。


 階段を登りきったのか、音がこちらへ近づいてくる。


 そして、曲がり角から現れた人物は────



 光輝だった。

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