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第6話 崩れ落ちた友情

「ねえ、私ね……この、赤城くんと過ごす時間と同じくらい、赤城くんのことも大事にしたいんだ」


 それは、きっと特別な意味なんてない。ただの、仲のいい友達としての想い。それ以上でも、それ以下でもないって、分かってる。……分かってるんだけれど─────


「だから、行ってきて? 今は、その友達のところへ」


 そう言って微笑んだ青崎さんは、夕暮れに照らされて、なんだかいつもより少しだけ、大人びて見えた。






 俺は、黒澤と光輝に謝る為、そして全て秘密にしていた事を伝える為に走っていた。


(早くしないと……! あいつらが帰っちまう……!!)


 せっかく青崎さんに背中を押してもらったんだ。その想いを無駄にしてはいけないと思うし、今日を逃したら本当に関係が壊れてしまう気がして仕方がなかった。


(……っ!! 教室の電気、点いてる……!!)


 いつもがそうだった様に、この時間はまだ、あいつらが教室で駄弁っていると確信していた。


「……っ!!悪ぃ……!!お前らに話したい事、が……」


 その続きを言いたかったが、その場の光景を見て言葉が続かなかった。


「……あ、その……悪ぃ、邪魔した……」


 俺はその場から逃げる様に去った。


 だって、仕方ないだろ。


 あいつら────黒澤と光輝が、2人きりの教室で口付けを交わしてたんだから……




()れない(こい)()らない彼女(きみ)


 第6話 崩れ落ちた友情




「……あいつら、そういう関係だったんだ」


 俺は、秘密基地に戻る途中、さっきの光景がずっと脳内でリピートしていた。


 生々しく、濃厚な接吻……


「……クソ、アイツらだって、秘密にしてる事あんじゃねぇか……」


 俺は、知らなかった。アイツらが恋仲関係である事を。……いや、もしかしたら、光輝があからさまに避け始めた時に、はたまた、本当についさっきそういう関係になった可能性もある。


「……クソ、クソクソクソ!」


 アイツらに腹が立っているんじゃない。むしろアイツらには悪い事をしたと思っている。……俺は、自分自身に腹が立っていた。


「……もっと、もっと早く青崎さんに相談して、もっと早くアイツらに事情を説明していれば、そうすれば……!!」


 そうすれば、こうして友情が壊れず、笑顔でアイツらを祝福できたんじゃないか?


 こうして取り返しがもう付かなくなっては無理だ。どうしようもない。


「……大丈夫? 赤城くん」


 その声にハッとする。


「……青崎、さん……」


「ごめん、俺……ダメだったよ……」


 ああ、泣きそうだ。もう色々な感情がごちゃごちゃしてて、自分の心の中がどうなっているかが自分でも分からない。……それでも、一つだけハッキリしている。


「私の顔見て安心した? 赤城くん。そんな顔してるよ、今」


 その言葉に、ぐちゃぐちゃだった感情が一瞬にしてほどけていくような気がした。俺は気づけば、目の前の彼女に抱かれて泣いていた。


「……ごめん、青崎さん。俺……どうすればよかったのか、全然分かんなくて……」


「ううん、無理しなくていいよ。誰だって、間違えることくらいある」


 青崎さんの声は、まるで夜風みたいに静かで、優しかった。


「ねえ、赤城くん。私、よかったと思ってるよ」


「……何が?」


「だってさ。今、赤城くんがここにいてくれて、ちゃんと自分の気持ちと向き合おうとしてる。それだけで、私は十分すごいと思うから」


 ……こんな時でも、前を向かせてくれるんだな、この人は。


「それにね、友情って……たぶん"壊れた"か"終わった"かなんて、誰にも決められないものだと思う」


「……?」


「また話せる日が来るかもしれないし、来ないかもしれない。でも、もし赤城くんが、また向き合いたいって思ったとき……その時にちゃんと、もう一度届ければいいと思う」


「……俺に、できるかな」


「できるよ。だって、そういう優しさを、私は知ってるから」


 青崎さんのその言葉に、胸の奥が温かくなって、気づいたら涙も収まっていた。


「……ありがとう、青崎さん」


「ふふ、どういたしまして。じゃあ、今日は私が秘密基地のお守りしててあげる。だから赤城くんは、少しでも前に進む準備して?」


「うん……わかった。ありがとな」


 その日は、秘密基地で、ただ青崎さんと肩を並べて座っていた。


 沈む夕日と、ほんの少しだけ希望を乗せた、静かな時間だった。

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