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第5話 放課後トライアングル

 水曜日の放課後。なんの変哲もない、いつもの平和な一日。


「ねえ、たまにはゲーセンでも寄ってかない?」


 夕暮れの帰り道、黒澤が突然そんな事を言い出した。


「おっ、いいぜ。お前らが俺に勝とうなど1000年早いわ」


 ノリノリで返事をする光輝を見て、少しほっこりする。


「なら俺は10000年だわ、あほ」


 そんなくだらないやり取りをしながら、俺達3人はいつもの商店街にある小さなゲームセンターに立ち寄った。




 ()れない(こい)()らない彼女(きみ)


 第5話 放課後トライアングル




「あ、私これ欲しい〜!」


 そうして黒澤が指を差したのは、ぬいぐるみの入ったクレーンゲーム。


 小さなシロクマのキャラで、ぱっちりした目が可愛い……っていうか、どこかで見たことあるな。これ、確か人気のゆるキャラか何かだったはず。


「よし、任せろ! 俺が一発で取ってやる!」


 やたら自信満々に百円玉を投入する光輝。だが、アームは頼りなくガクガクと動き、ぬいぐるみにはかすりもせずに終了。


「うわ、マジかよ!? ここのアーム弱すぎる!」


 光輝はがっかりした表情でクレーンゲームを見つめる。


「アームのせいにすんなよ」


「じゃあ康太、やってみろって!」


 その流れで俺も参戦。……が、見事に同じように空振り。


「……ほらね、アームのせいだって」


「……ぐぬぬ」


 いや、これはアームが弱すぎるな、うん。俺悪くない。


「じゃあ私が赤城っちの仇取ってあげる」


 黒澤が静かに百円を入れると、アームを無駄のない動きで操作し────


「……あ、取れた」


「「えっ」」


 綺麗に持ち上がり、コロンと落ちたシロクマが黒澤の手に収まる。


「やった~、可愛い~!……へへ、赤城っちの仇は取ってやったぜ」


 無邪気に喜ぶ黒澤。その姿に、俺も光輝もただ口をぽかんと開けて見つめるばかり。


「え……なにこれ、もしかして今日って黒澤デー?」


 光輝は驚き半分悔しさ半分って感じの表情で嘆いている。


「絶対、チートしただろお前」


「むふふ、日頃の行いがいいからね!」


 そんな調子で、3人でレースゲームやら音ゲーやらをひと通り遊び、ふと気づけば空はすっかり夕焼け色になっていた。


「いや〜、遊び倒したな……腹減った」


 光輝は自分のお腹をさすりながら、そんな事を言う。けれど、それは俺も同じだった。


「ファーストフードでも寄る?」


 俺がそう提案すると、黒澤が「いいね。私ポテト食べたい!」とノリノリで返事をする。こうして俺達はショッピングモールへと向かうのだった。






 小さなショッピングモールのフードコートで、それぞれ簡単な食事を買ってテーブルを囲む。


 自然な空気。気兼ねのない笑い声。


 こんな放課後が、ずっと続くような気さえしていた。


「なあ康太」


 黒澤が追加でポテトを買いに行く為に席を離れた時、光輝が話しかけてきた。


「ん?」


「……お前さ、最近ちょっと変わったよな」


 光輝はいつものトーンで、でも目は真剣な様子でそう言ってくる。


「またかよ。なんだよ、どういう意味だよ」


 あまりに最近言ってくるので、ぶっきらぼうに光輝に聞く。最近の光輝はたまに様子がおかしくなる。なにかあったのだろうか。


「なんつーか、表情が柔らかくなった。……青崎さんと話すようになってから、特に」


 光輝の視線が、少しだけ遠くを見ているようだった。


「……あんま変わった自覚はねぇけど、もしそうなら、悪くはないかな」


 もし俺が前と変わっていたとして、青崎さんが影響しているとしたら、それは絶対良い方向で変わっているという意味だ。それなら、俺は変わったと言われても悪い気はしない。


「ふーん……ま、俺は別に、今の康太も嫌いじゃねーよ」


「んだよ、気持ち悪いな。告白か?」


「死ね」


 光輝がそっぽ向いて、こっちに向けて中指を立ててくる。けれど、その横顔はなんだか少しだけ微笑んでいる気がした。


「ちょっと男子〜、くだらないことで喧嘩しないの!」


 ポテトを買って戻ってきた黒澤が苦笑しながら割り込んでくる。


「……でも、私もちょっと思ってた。康太、前より明るくなった気がする。……それに、ちょっとかっこよくなったかも?」


 黒澤は少し顔を赤らめながらそう言う。なんか、言われ慣れてないからか凄い恥ずかしい。


「お、おい黒澤、それ言うの反則……!」


「えー、なんで? 本当のこと言っただけなのに~」


 からかうように笑う黒澤。


 黒澤が楽しげに笑う。その隣で、光輝は小さく目を伏せる。


 その顔は、俺がもう知らない感情を映しているような気がした。


 




 小腹を満たした俺達は、帰路についていた。


「じゃ、私こっちだから! また明日ね!」


 黒澤が元気に手を振って帰っていく。


 残された俺と光輝。夕焼けに照らされながら、無言で並んで歩く。


「……なあ、康太」


「ん?」


「……いや。なんでもねーや」


 光輝はそれだけ言って、少し前を歩き出した。


 その背中を見ながら、俺は思った。


(……やっぱ、気のせいじゃない。今日の光輝、どこか様子が変だった)


 まあ、その事はまた後で機会があったら聞けばいい。学生のうちはいくらでも時間はあるのだから─────

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