第2話 初デート?
「そんで、なんで俺はこんなとこに来てるんだ......?」
休日、青崎さんにデートと言われて来た所がショッピングモールだった。
「くっそ、微妙にあちぃ......おかしいだろ、もう秋だぞ、秋。もう少し遅く来るべきだったか......?」
この日、東京ではもう秋だというのに日中の最高気温が26℃を超えていた。そんな中、俺は妙に張り切ってしまい、集合時間の30分前に集合場所に着いていた。
「おまたせ、赤城くん。」
もう体が溶ける寸前だったその時、青崎さんらしき人から声をかけられ、後ろを振り向き驚愕した。
「お、おお......全然待ってないから大丈夫だぞ......」
そこに現れた美少女......青崎さんは、普段と違い髪をしばっており、少し丈の短い半袖ニットと足首が隠れるくらいのロングスカートという格好で俺の前へと近づいてきた。
「なに、どうしたの? ......もしかして、私のこの姿に見惚れてた?」
違うわ。とも言い切れないのがとても悔しい。実際この姿の青崎さんを見てからドキッとしてしまったから。ここは正直に認めよう。
「ああ......少し、見惚れてた。似合ってるよ、青崎さん」
そう言うと、「そ、そう......?」とほんのり顔を紅く染めながら髪を手で梳かし始めた。照れてる青崎さんも可愛い。
(......って!いかんいかん、俺は一体何を考えてるんだ......)
確かに可愛いし性格も完璧なのは事実だが、彼女を好きになる程接点が無い。きっと、暑さで頭がやられてしまっているんだ。
「それじゃ、早速行こうか。……ところで、今日何するの?」
「今日は委員会で使う備品を買いに来たのよ。康太くんはその荷物持ち」
……だよな、うん。そんな気はしてたよ。
「はぁ……」
半ば期待していた俺はため息をつき、先に歩く青崎さんの後をついて行くのだった。
枯れない恋を知らない彼女に
第2話 初デート?
「それにしても……このモール、やたら広くないか?」
「まあね。品揃えは良いけど、目的の場所が分かりづらいのが難点よね」
館内マップを覗き込みながら歩く青崎さんの後ろ姿。
その姿はどこかいつもより"普通の女子高生"らしくて、なんとなく新鮮だった。
(……いつもクールで、なんでもできそうな青崎さんだけど。こういう一面もあるんだな)
「えーっと……文具売り場は、三階ね。エスカレーターで行こっか」
「了解。あ、荷物は俺が持つから。最初に言われたし」
「ふふ、言ったからには責任もってね。たくさん買う予定だから」
「お、お手柔らかにお願いします……」
二人で並んでエスカレーターに乗る。
何気ない距離感。けれど、それが妙に落ち着かなくて、足元ばかり見てしまう。
「ねえ、康太くん」
「ん?」
青崎さんが何気なく話しかけてくる。その横顔に釘付けになってしまう。
「今日、ちょっと楽しみにしてたんだよね」
「え……?」
「こうして一緒に出かけるの。ちゃんと服も選んだし、髪も巻いたの。……気づいた?」
「えっと……髪、いつもよりふんわりしてるな、とは思った」
改めて見ると、いつもの雰囲気とかなり変わっていて意識してしまい、思わず目を逸らしてしまう。
「……そっか。ちゃんと見てくれてるんだね」
青崎さんは、口元にうっすらと微笑を浮かべていた。
いつもの無表情な顔と違って、ほんの少しだけ柔らかい。
青崎さんはこういう所が、モテるんだろうなぁ。
エスカレーターを降りると、目の前には文具や事務用品のコーナー。
青崎さんはすぐに備品リストを取り出し、きびきびと必要なものを集め始めた。
「これと……これと、これ。……康太くん、それ持って」
「はいはい、荷物係の出番ですね」
途中、マスキングテープの柄に悩んで10分ほど固まったり、ペンの試し書きに集中しすぎて動かなくなったり────
そんな青崎さんの姿に、つい笑いそうになる。
「……なに? 笑ってる?」
「いや、なんか意外だなって。青崎さんって、文具にこんなこだわりあるんだなって」
「こだわるでしょ、当然。これ、委員会で使うんだよ? どうせなら可愛くてテンション上がるやつ選びたいじゃない」
ふんすと得意気に鼻を鳴らす青崎さんは、可愛らしいクマの書かれたペンや、花柄のマスキングテープなどを握っていた。
「そっか。……そういうの、ちょっと可愛いと思った」
「なっ……急にそういうこと言うの、反則じゃない?」
青崎さんは頬を赤らめて、ぺしっと俺の腕を軽く叩いた。
でもその仕草もどこか照れているようで────なんだか、ほんの少しだけ距離が近づいた気がした。
「次はどこ行くの?」
「そうね……一旦、お昼ご飯食べましょうか」
委員会で使う備品選びで時間がかかってしまい、気づけばすっかり時間は昼時を過ぎていた。
「げっ、もうとっくに昼過ぎてるってのに、全然座るところねぇな……」
フードコートは、休日というのもあってか、全く席が空いていない。
「困ったわね……どこか開かないかしら。……あっ、あそこ開きそう! 康太くん、あそこ行きましょ!」
「お、おう」
青崎さんに手を引かれその席の元まで行く。そこには子連れの夫婦が座っていた様だったが、もう離れる準備をしている。
そして、夫婦はこちらを見るなり、ニコニコした様子でそそくさと荷物をまとめ出した。あ、これ勘違いされてるやつだ。
「私達はもう退きますので、ぜひどうぞ!」
二人の女性の方が、快く青崎さんに話しかける。
「ありがとうごさいます!」
青崎さんは元気よく礼を言い、頭を下げる。それに合わせ、俺も一緒に軽く頭を下げた。
そして、それを見た向こうの夫婦は、まるで初々しいカップルを見るような目でこちらを見てくる。やっぱり勘違いしてるな。まあいいけど。
「いやぁ〜、にしてもラッキーだったわね。あそこがタイミング良く開かなかったらどうしようかと思ってたわ」
「ね。危うく餓死するところだった」
お昼ご飯を食べ終えた俺達は、そんな軽口を叩きながら次の場所へと向かっていた。
「ん?青崎さん、手提げから何か出てるよ────えっ?」
青崎さんの手提げバッグから覗く"それ"に、腰が抜ける程驚く。
なにせ"それ"の正体は、雪色メモリーズ……通称『雪メモ』のクリアファイルだった。




