表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

第14話 新たな幕が上がるとき

 俺達の仲が完全に戻ってから約1週間。校内は文化祭の話で持ち切りだった。もちろんそれは俺達も例に漏れず、昼休みにいつもの3人と青崎さんを交え、空き教室で飯を食べながら駄弁っていた。


「まさか私達のクラスで演劇やるなんてね」


「全くだよ。しかも題材が『初恋リプレイ』って」


『初恋リプレイ』。それは、一昨年から映画化され話題になっていた恋愛小説だ。


 あらすじは、主人公である咲良(さくら)が突然の引越しで、初恋相手である春翔(はると)と離れ離れになってしまう。だが、数年後に高校の入学式で偶然2人は再会し、高校でもう1度あの頃の初恋を追いかける。そんな内容の小説だ。


 昨年、どこかの高校の文化祭で、初恋リプレイの演劇をやったらしく、その動画が大バズり。それで今年、うちのクラスでもやりたいとなったらしい。


「へぇ〜、そうなんだ。てことはもう役は決まってんの?」


 弁当のおかずを口に含みながら、黒澤はそう聞いてくる。お行儀よろしくないぞ。


「それを次の時間使って決めるんだよ」


 光輝の言う通り、先の時間では配役までは決まっていない。


 というのも、文化祭の内容を決めたのは、四時限目の最後の方だったので、前の時間は配役までは決められなかった。ただ、次の時間が丁度LHR(ロングホームルーム)なので、その時間で色々詳しくまとめる事になっている。


「そういう黒澤のクラスは何になったの?」


「ふふーん、聞きたいか? 私達のクラスの出し物! ……仕方ない、そこまで赤城っちが気になるなら教えてしんぜよう……!」


「いや、そこまででもないからいいや」


「なんでよっ! そこは聞いてよっ!」


 黒澤はぷくーっと頬を膨らませ、目を細めてにらんでくる。


「あまり意地悪してやるなー、康太。後々めんどいからな」


 ケラケラ笑いながら光輝はそう言ってくる。まあ確かに、黒澤に拗ねられたら、機嫌戻すのに色々買わされそうだ。


「それもそうだな。悪い悪い、黒澤」


 ぶっきらぼうに黒澤に謝ると、黒澤はキッと睨んできた。え、怖い。そんな顔する人でしたっけ?


「せめてもっと感情込めて言いなさいよ、ぶっ飛ばすわよ」


 黒澤さーん、お口悪いですよー。キャラ崩壊してますよー。


「緋鞠ちゃん、私は気になるわ。緋鞠ちゃんのクラスでどんな出し物するのか」


 黒澤は青崎さんの言葉に救われたようにキラキラ目を輝かせている。


「〜〜っ!! やっぱ陽菜ちゃんだけだよ〜! 私の話をまともに聞いてくれるのは〜!! ……そうだね、陽菜ちゃんに免じて教えてあげるから、陽菜ちゃんに感謝しろよアンタら」


 なんなんだこの高圧的な態度は。文化祭が楽しみすぎてキャラが変わってんのか?


「私達のクラスは、メイド喫茶やる事になったんだよ。もう計画段階から楽しみすぎて仕方ないんだよね〜」


 黒澤のクラスはメイド喫茶か〜。黒澤のメイド姿……少し見てみたい。美少女だし、絶対似合う。


「なんだ〜康太? 黒澤のメイド姿想像してたのか?」


 光輝がからかってくる。でも図星だから悔しい。


「なっ……! わ、悪いかよ」


「……ふーん、康太くんは緋鞠ちゃんのメイド姿を想像したんだ……」


 あの……青崎さん、ナチュラルに引くのやめてもらっていいですか? あの、机を僕から遠ざけるのもやめてもらっていいですか?


「そ、そっか……赤城っちが、私のメイド姿を……」


 黒澤は耳まで真っ赤にして照れてる。なんかそんな姿見せられたら、別に意識してなかったのに恥ずかしくなってくる。


「2人して耳まで真っ赤にしちゃって……もう……」


 青崎さんは何とも言えない複雑そうな顔でどこかを見ている。


「青崎さん。もしかして、康太に嫉妬してる?」


「そんな事……ないわよ」


 うわ、何気傷付く。別に恋愛的な意味で好きではないけれど、こう……なんかくる物があるなぁ。


「……」


 いや、なんで質問した光輝が寂しそうな顔してんだよ。




 ()れない(こい)()らない彼女(きみ)


 第14話 新たな幕が上がるとき




 昼休みも終わり、LHRが始まる。そして、俺たちのクラスではさっそく演劇の配役決めが始まった。


「じゃあまずは、主役の春翔役と咲良役を決めたいと思います!」


 前に立つのは、文化祭実行委員の女子、坂本(さかもと) 春名(はるな)。ノリと勢いでいつもクラスをまとめてくれる、いわゆるお調子者タイプだ。


「立候補でもいいし、推薦でもいいよー。もし決まらなかったらジャンケンでいくからねー」


 ざわざわと教室がざわつき始める。主役は誰だ、あいつ演技うまそう、いや目立ちたがりのあいつでしょ、などと勝手に名前が飛び交う中。


「春翔役、緑川くんにやってもらいたいです!」


 誰かの声が教室に響く。お調子者の男子だった。教室が一瞬静まり返り、それから「たしかに!」「光輝くんならいける!」と数人が同意の声を上げた。


「え? 俺? いや、ちょっと待ってくれって……!」


 光輝は戸惑いながら手を振るも、すでにノリと勢いで決まりかけている。


「緑川くんイケメンだし、雰囲気も合ってるし、セリフ覚えるの得意そうだし! それに────」


「それに?」


「初恋リプレイ、去年も男子が全力で演じてバズったんだよ? これはワンチャンあるって!」


 なにそのバズり基準。けど、こういう時のクラスの空気って、本当に一瞬で流れが決まる。


 結果。


「じゃあ、春翔役は緑川くんに決定でーす!」


 担任の先生も苦笑しながら頷き、春翔役が光輝に決まった。


「……で、ヒロインの咲良役は?」


 再び教室がざわつく。誰がやる? あの子? いやいや、と囁き合う中。


「……青崎さん、どう?」


 またしても誰かが投げかけたその言葉に、空気が一気に止まる。


「えっ、わ、私……?」


 教室中の視線が青崎さんに集中する。戸惑ったように両手を胸元で握りしめ、小さく縮こまる彼女。


「たしかに雰囲気あるかも……」


「見てみたいかも……」


「美男美女だからお似合いよね……」


 そんな声が後ろからも、横からも聞こえてくる。


「ちょ、ちょっと待って! わたし、そんな大役……無理だよ」


 青崎さんが慌てて首を振るも、もう流れは止められない。隣で光輝が小さく「まじか……」と呟いたのが聞こえた。


「大丈夫、青崎さんなら出来るよ。それに、緑川くんの隣には青崎さんがピッタリだと思うの。無理強いは出来ないから、嫌なら違う人に任せるけれど……」


 こういう、断りずらい空気が俺は嫌いだ。表向きではそう言っているが、きっと断ったら凍った空気になるだろう。


「……ごめんなさい、やっぱり私には厳しいと思います」


 周りが沈黙する。やっぱり、こうなるよな。心が痛い。そんな中、青崎さんは言葉を続ける。


「でも……康太くんが、そばにいてくれるなら……」


 ……は?


 青崎さんの言葉に、教室が再びざわついた。


「赤城くんって、青崎さんとどんな関係なの……」


「そういえば青崎さんと最近2人でいる事多かったよな……」


「もしかして、付き合ってるの……」


 案の定、色々な憶測が飛び交っている。……こりゃ、めんどくさい事になりそうだなぁ……


「じゃあ赤城くん、裏方で青崎さんの練習サポートとかしてあげてよ!」


 なんでそうなる!? 俺、ただの観客だったはずなんだけど!?


「それいい! 赤城くんならできる!」


「それに、青崎さんもそれがやりやすいみたいだし!」


「赤城くん、ファイトー!」


 周りがノリノリで乗っかってきやがる。……マジかよ。でも、ここで俺が断ったら、青崎さんがまた困るだけだしな。


「そ、それじゃあ……咲良役、私で……が、頑張ります……っ!」


 その後、他の配役もトントン拍子で決まっていき、1時間で大まかな内容が整った。


 結果、咲良=青崎陽菜、春翔=緑川光輝という配役が決定してしまった。


 そして、なぜか俺は青崎さんの演技指導を手伝うことになり────


 これが、思いもよらぬ"新たな事件"の始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ