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第13話 ただいま、いつもの放課後

「てことで、俺達仲直りできたよ」


 放課後、涼しい風の通る空き教室で、青崎さんにそう報告していた。光輝と、黒澤を連れて。


「え〜、私、赤城っちと仲直りしたつもりないけどなぁ〜」


 黒澤はニヤニヤしながらそう言ってくる。これは、黒澤何か悪いこと企んでるな?


「そうだなぁ〜……じゃあ、毎日私達にジュース1本奢りで許してあげようかなぁ〜?」


「ハハッ、勘弁してやれ黒澤。康太の財布が泣いちゃうぞ」


 財布どころか俺も泣いちゃう。黒澤は「ちぇ〜」と言いながら口を尖らせている。


 けれど、どこかその顔は嬉しそうだ。きっと、こういうやりとりが懐かしくて楽しいのだろう。光輝と仲直りした直後の俺と同じように。


「……ふふっ、よかったわ。康太くんが嬉しそうで」


 そう青崎さんが微笑ましそうにしている。俺達は、そんな青崎さんのお陰でまた仲を元に戻せたんだ。青崎さんにはちゃんとお礼を言わなきゃ。


「これも全て、青崎さんのおかげだよ。青崎さんが背中を押してくれなきゃ、こんな風にまた笑い合うことなんて出来なかったと思う。本当にありがとう」


 俺がそう感謝を述べると、青崎さんは少し目を見開いて、それから照れたように視線を逸らす。長い前髪の端を指先でくるくる弄りながら、控えめに笑った。


「……そんな、全然大したことしてないわよ。私は、ただ……康太くんがまた笑ってくれたらいいなって思っただけだから」


 その表情は、どこか子どもみたいで、けれどとても綺麗だった。




 ()れない(こい)()らない彼女(きみ)


 第13話 ただいま、いつもの放課後





 ふと、俺の隣から視線を感じる。振り返ると、案の定、黒澤がじとーっとした目でこっちを見ていた。


「な〜んかさぁ〜……今の会話、まるでラブコメのワンシーン見せられてる気分なんだけど?」


「……やっぱり何か言うと思った」


「いや、言うでしょこれは。なんか"あたしの入る余地なんてありません"みたいな空気出てたよ?」


 腕を組み、むぅっとした顔で黒澤は俺と青崎さんの間に割って入る。まるで縄張りを主張する猫みたいに。


「黒澤〜、また拗ねてんのか?」


 からかい気味に言うと、黒澤は「拗ねてないもんっ!」と反射的に返してきた。だけどその顔は、赤くなっていて。


「まったく……赤城っちのくせに、変なとこだけ格好つけるんだから」


 そう小さく呟く黒澤は置いといて、光輝は青崎さんの方に振り向いた。


「でもまあ……青崎さんが言ってくれたおかげで、俺達の仲が戻れたのは確かだから。俺からも、お礼言わせてくれ。ありがとう」


「いえいえ。私はほとんど何もやってないので、感謝を言うのは康太くんにしてあげて下さい」


 青崎さんは、ふわっと微笑んで言った。二人の間に、なんとなくお互いを認め合うような空気が流れる。


「……あ、そうだ。せっかく仲直りできたんだし、今度の放課後みんなでどっか行かないか?」


 光輝がそんな提案をする。たぶん、気を遣ってくれてるんだろう。いや、こいつは元からこういう場を明るくするのが得意なタイプだ。


「いいなそれ。カラオケとか久々だなぁ〜」


カラオケなんて、こいつらともあまり行かないから久しぶりだ。高一のクリスマス以来か?


「じゃあ、あたし陽菜ちゃんとデュエットする〜! ねっ、いいでしょ?」


「えっ!? で、でも私、あまり歌とか得意じゃ……」


「大丈夫だって〜! あたしめっちゃ音程外すから安心して!」


 ─────ああ、なんかやっぱり。


 いつもの日常が戻ってきた。誰も欠けることなく、また同じように笑い合える日々が。


 俺はその光景を、ゆっくりと噛み締めながら、思った。


 この時間を絶対に、当たり前だと思っちゃいけないってことを。

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