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第11話 優しさと覚悟

 4時限目の国語の時間。


 授業の内容があまり面白くない分、今朝の光輝の言葉に意識が行ってしまい授業に集中できない。


 黒澤は俺のことが好き。


 ほんとに、黒澤が……? 頭がこんがらがる。


 でも、そう考えると、いつもの過剰に思えるスキンシップは俺のことが好きで───


「ああ、クソッ……!」


 気恥ずかしさと妙な納得と、信じ切れていない心が感情をグルグルとかき回す。


 だけど、俺は黒澤が好きなのか……?


 黒澤の気持ちにどう向き合えばいい……?


 第一、俺は黒澤のその気持ちを知らない振りしていればいいのか……?


「───城」


 ああくそ、考えれば考えるほどドツボにはまってる気がする。


「───城!」


 俺は一体、これからどうすれば───


「───赤城! ぼさっとするな! 授業に集中しろ!」


「あ、ああ、すみません!」


 先生の言葉で、一気に現実世界へと戻される。


「はぁ……考え事も良いがなぁ、そういうのは休み時間中だけにしろ。……そしたら赤城、気を取り直して、213ページの四行目から次の句点まで読め。」


「は、はい……」


 結局俺は、全く授業に集中できず、その時間だけで十数回と先生からありがたいお言葉を頂くのだった。




 ()れない(こい)()らない彼女(きみ)


 第11話 優しさと覚悟




「お前、絶対黒澤のこと考えてたろ」


 昼休み、いつもの空き教室で、光輝と昼食をとっていた。なんだか、しばらく光輝と昼食を共にしていなかったからか、少しワクワクしている自分がいる。


「うっせ。あんなこと言われたら誰でも意識するだろ」


 光輝は「ほーん」と言いながらニヤニヤしている。一回ぶっ飛ばしてやろうかな。


「でも、残念だったな。黒澤に逃げられちゃって」


「そりゃそうだろ。事故とはいえキスした相手と、その、す、好きな人がいるところで一緒に食べるのは居心地悪いだろうし」


「ましてや、その張本人達と3人だけの部屋で食べるわけだからな」


 光輝はハハハと笑ってるけど、結構厳しい状態だ。黒澤とはクラスが違うため、休み時間に訪問しても本人が教室にいない可能性もあるし、現状見る限り会いに行っても即座に逃げられるのが目に見える。


 それに、今日のを見る限り、登校時間も意図的にずらしている可能性も高い。こうなったら対話するタイミングがまるっきりなくなり、関係修復どころじゃなくなってしまうだろう。


「……まあでも、そんな焦らなくても大丈夫だと思うぜ。むしろ焦って黒澤に警戒心持たせちまったら、それこそ話し合いなんてできなくなっちまうかもしんねーし」


 光輝はそう言ってくれるけれど、そうもいかない。俺は、青崎さんと約束したんだ。必ず大事な友達を取り戻すって。


「もし、それでもっていうなら、そういうのに得意そうな誰かに相談するのもありだと思うぜ」


「相談、か……」


 一人だけ心当たりがある。確かアイツ、今日の放課後にウチ寄ってくらしいし、琴音に許可もらって相談聞いてもらうか。






「お兄ちゃん、ただいまー」


「おじゃましまーす」


「おう、入れ」


 妹の琴音と一緒に入ってきたこいつは、琴音の彼氏の白石(しらいし) 玲央(れお)。琴音と同じ中学で、俺達は小学生の頃からの付き合いだ。玲央はこれといって特出した所はないが、性格はめちゃくちゃいい。ノリがよく、気遣いのできる、優しい少年って感じだ。琴音が惚れたのも納得する。


「生憎麦茶しかないけど、いいか?」


「いえいえ、麦茶で大丈夫ですよ。お気遣い感謝します」


「ところでお義兄さん、僕に相談事って何ですか?」


 キッチンで三人分の麦茶を入れていると、リビングでくつろいでいる玲央が話しかけてきた。


「僕に相談するってことは、琴音ちゃんじゃダメなんですよね?」


「ああ、ちょっとな。恋愛事なら玲央のほうが詳しいだろ?」


 琴音が「どういう意味~?」とツッコんできたが、スルーして玲央に対面するように椅子に腰かける。


「まあ、たしかに琴音ちゃんよりは詳しい自信はありますが……僕とて、恋愛漫画の知識と琴音ちゃんとの実体験しかないですよ?」


「いや、いいんだ。経験がない俺よりかは明らかに詳しいだろうし……今までの経験とかからアドバイスが欲しい」


「わかりました。できるだけ尽力してみますが、的外れなこと言っちゃっても許してくださいね?」


「ああ、ありがとうな」


 玲央に事の経緯と、俺の女友達が───黒澤が、俺に好意を抱いていると友人から聞いたが、本人からは聞いていないからどう接すればいいかということ。そして、その黒澤に話しかけようとしたら逃げられてしまい、話し合うこともできないということ。いろいろ玲央に話した。


「───なるほど、大体わかりました。」



 麦茶をひとくち飲んで、玲央はテーブルにカップを置く。顔は穏やかだけど、その瞳は真剣そのものだった。


「まず、お義兄さんが"どうすればいいか分からない"って思ってるのは、相手の気持ちを大切にしたいからですよね?」


「まあ、そりゃそうだけど……」


「なら、それだけで十分、優しい人だと思います。……ただ、たぶん彼女は今、優しさじゃなくて"覚悟"を見たがってる」


「覚悟?」


「はい。彼女の好意に、応えるか、応えられないか。それを"きちんと本人の目を見て言ってくれるか"どうか。……それが、彼女にとってはすごく大事なんだと思います」


 玲央の言葉に、自然と息をのんだ。思い返せば、俺は──いや、俺たちは、いつも肝心な時にちゃんと話せてなかった。


「伝えるのって、怖いですよね。傷つけるかもしれないし、拒絶されるかもしれないし。でも……黙ってるほうがずっと、残酷ですから」


「……っ」


「好きじゃなくてもいい。けど、答えは欲しい。そう思って、逃げることしかできなくなってるのかもしれません」


 玲央は、まるで全部知ってるかのような声で言う。


「だから、お義兄さんが逃げなければ、きっと大丈夫です。……たとえ今すぐに答えが出せなくても、"向き合おうとしてる"って姿勢は、絶対に伝わりますから」


 その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。


「ありがとう、玲央」


「ふふ、どういたしまして。でも、僕がこうして恋愛のアドバイスができるのは琴音ちゃんのおかげなんで、そっちにも感謝してくださいね」


「なんかちょっと恥ずかしいよ、もう……でも、少しは役に立ったみたいで良かった」


 琴音が照れくさそうに笑って、麦茶を口にする。


「……明日、ちゃんと話すよ。逃げずに、向き合ってくる」


「頑張ってください、お義兄さん」


「……あ、もし、どうしても場所がわからなかったら」


 玲央が小声で続ける。


「僕、実は黒澤さんと仲良い知り合いがいるんですよね。明日の朝、動向だけ調べておきます?」


「マジか、神か?」


「さすが玲央くん……あ、でも! それってちょっとストーカーくさくない? 大丈夫?」


「ストーカーじゃないよ、琴音ちゃん。ただの支援だから、ね?」


 そう言って笑う玲央の表情に、心から救われるような気がした。


 ──もう逃げない。答えがすぐに出なくても、ちゃんと伝える。


「明日、ちゃんと話してくるよ。俺の気持ちも、全部」

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