後ろの席の男は、いつも私に紙飛行機を飛ばしてくる
もうこれで何回目、何個目の紙飛行機だろう。
「一体私になんの恨みがあって、こんなことするわけ?!」
授業を進める先生に気づかれないように、後ろの席の男に詰め寄る。
「別に、何も恨みなんかないけど」
男は飄々としながらも、また新しく紙飛行機を折っているではないか。
なんて憎たらしいんだろう。
私は窓際の後ろから二番目の席、男は一番後ろの席。
席替えがあったのは、約ひと月前のことだ。
狙っていた窓際の席でラッキーだと思っていたのに、なんでこんなやつの前の席になってしまったんだろう。
席替えをしてからというもの、この男は毎日のように私に紙飛行機を飛ばしてくる。
窓際の後ろの席ということで、他の生徒や先生たちは、みんなこの地味な嫌がらせに気がつかない。
腹が立つことにコントロールはいつも抜群で、紙飛行機はきれいな軌道で私の机上に着陸する。
私は今しがた飛んできた紙飛行機を、丸めて机のはじに置いた。後でまとめて捨てなくては。
けれどそうしている間にも、また次の紙飛行機が飛んでくる。
「もうっ……!」
ああしかも、ちょうどルーズリーフがなくなってしまった。
まだ板書が終わっていないというのに。
――仕方ない、これでいいや。
私は着陸したばかりの紙飛行機を開いて、板書の続きを書こうとした。
けれど紙飛行機を開いてみると、その真っ白な紙の真ん中に、既に何やら書かれている。
"好きだ"
――私は驚きのままに、無防備にも後ろを振り返る。
「お前、気づくの遅すぎ」
後ろの席の男はいつも通りに飄々と、私に憎まれ口を叩く。
けれどその頬は、いつも以上に紅潮していた。
明日からは、私が紙飛行機を飛ばさなくては。