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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

俺を乱したもの。

作者: ぷるぷる

俺にはふたりの幼なじみがいる。ひとりは階こそ違うが同じマンションに住んでる女の子の彩葉(いろは)、もうひとりは親同士が仲良くて、ほぼ家族みたいに一緒に過ごしてきた男の子の琉唯(るい)。俺にとってはふたりとも欠かせない親友で、一生一緒に過ごすものだと思ってた。過去形なのは、俺が死んでしまったからだ。いつも通り彩葉とマンションを出て、琉唯と合流するために琉唯の家に向かってる途中の横断歩道で、車が俺らに突っ込んできたらしい。あまり覚えてないがな。なんで知ってるかって?俺は死んだはずなのに、いま現世にいるんだよ。俺を轢いたやつは「子供が飛び出してきて止まれなかったんだ」って警察に言ってるけど、よくも俺の命を奪っておいて嘘つけるなって。まあ、いわゆる成仏できずに浮遊霊ってやつ?なんとなく心当たりはあるんだけどよ。俺は彩葉が恋愛的に好きで、琉唯にはときどき相談してたんだけど、想いを伝えられずに死んじまったからかなー。それで成仏できないんだと思う。俺が死んでから1ヶ月経っちまったし、ふたりはもう普通に授業受けてるし、なんか生きてる感覚あるから、騒ぎたいけど罪悪感あるし。なんかなー、叫んでみようかな。「誰かー!」




え?

今、琉唯びくってしなかったか?こいつ授業寝るようなやつじゃないし、寝ててびくついたわけでもないよな。え、待ってこいつ俺の声聞こえる?どうしよ、もう1回叫ぶか。なんならこいつの耳元で。「ぼーん!」

ビクッ。

「え、なあ琉唯。もしかしてお前、俺の声聞こえてる?聞こえてたら反応してくれよ。」

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

僕がひとりで喋りだしたらみんなにキモがられちゃうよ

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

俺は感動しかなかった。俺を認知してくれる人がいる。ほんとに嬉しい。いや待て、こいつ結構冷静だよな。もしかしてずっと俺のときどき言ってた独り言聞こえてたのか?

「琉唯、お前もしかしてずっと俺が幽霊なの知ってたのか、?」

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

うん、ごめん。気づいてたんだけど、状況整理できなくて、それで言い出す勇気出なくて。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

そっか、俺は楽観的だし、今のこの状況を楽しめてる変人だけど、いつも大人しくて、賢い琉唯は今の状況を理解するためにずっと考えてたんだな。浅はかな俺を許してくれ。


そこから俺は琉唯と会話した。会話って言っても、俺が喋りかけて琉唯が伝えたいこと書くって感じだったけど。琉唯は俺が葬式のときに自分の棺桶の上であぐらかいてたのも見えてたらしい。結構はずい。あと、俺が今どういう状況で多分未練があって成仏できないのかも話した。

「てことは、その未練を解決しないと一生このままってこと?」

学校が終わって、家で電話するフリしながら琉唯は話す。こいつやっぱ頭いい。

「俺が今頭に浮かぶ未練は、やっぱ彩葉に想いを伝えれなかったことなんだよな。どうすればいいと思う?」

俺はそう琉唯に尋ねる。琉唯の気持ちなんて何も考えずに。

「そっか、じゃあ僕が手伝ってあげるよ」


その言葉をきっかけに俺らの長い夏が始まる。



「まず作戦会議からだよな!」

「小学生が好きそうな言葉だね。」

作戦会議と言っても俺に考えることはできないから、琉唯が考えたものを言ってくだけ。彩葉に信じてもらえなくても、琉唯を経由して俺の言葉を伝える。とか、琉唯に俺が言ったことを手紙に書いてもらってそれを渡すとか。色々考えたけど、俺のわがままとしては直接気持ちを伝えたくて。どうにかして伝える方法はないかと琉唯と考える。こいつと友達に慣れてよかったなぁ。なんて感傷に浸り、別に俺は死んでるから家に帰る必要もないから時間に縛られることもなく話す。まあでも琉唯は生きてるからご飯を食べに行くんだけど。俺も生きてる間に琉唯のお母さんのご飯食べたかったなーなんて思いながら、見たらもっとその欲が強まると思って琉唯の部屋で待つことにした。

「すげーなぁ。」

中学に上がってから琉唯の家にくることがなかったから、久しぶりの琉唯の部屋を見ると、俺の部屋よりめっちゃ整理されてるなって思う。

「あ、これ懐かしい。」

ふと口に出た懐かしいと言う言葉。保育園のころ、みんなでBBQしたときの写真。あんま覚えてないけど、このときくらいかな、彩葉を気になるようになったのは。もっと生きて、もっと一緒にいろいろやりたかったなぁ。水族館行ったり、カラオケ行ったり、高校別々になってもときどき会ったり。

「生きたかっなぁ。」

後ろで物音がした。振り向けば、涙を流しながらこっちを見てる琉唯と目が合った。

「お、おい大丈夫かよ琉唯。どうした?」

俺は急いで琉唯の元に駆け寄る。

「いや、なんでもないよ。なんでもないんだ。」

泣き虫なとこは変わらないけど、琉唯も強くなってるんだなって、今更ながらに思った。


どうせ家に帰ってもしんみりしてるし、琉唯の家に実質的なお泊まりをすることにした。

「懐かしいね。」

琉唯はすごく嬉しそうにそう呟く。

「そうだな、小学生ぶりか?」

「多分、そんくらい」

琉唯はさっきまで泣いてたのを感じさせないくらいに笑顔だ。なんかこっちも嬉しくなってくる。俺は別に睡眠欲もないし、寝なくても生活に支障がないから、浮きながら琉唯が布団にくるまってるのを眺める。

「寝ないの?」

琉唯はそう俺に聞いてくる。

「この状態だと眠くならないんだよなー。ま、俺は学校行く必要もないしな。」

そう言うと琉唯はなぜかもじもじしてる。

どうしたのかと聞けば、なんともかわいらしい答えが返ってくる。

「どうせならさ、一緒に寝ない?久しぶりだし」

中学生にもなって一緒に寝るなんて、と思ったけど、琉唯には感謝してるし、別に嫌でもなかったからそうすることにした。

「小さいころと違って今だと狭いな」

すぐ目の前に琉唯の顔がある。琉唯は結構かわいいよりの顔で、よく女子に囲まれては髪を結ばれたりしてたっけな。

「おやすみ」

そう呟いた琉唯は、そっと目を閉じて眠りについた。


気づけば俺も寝ていて、幽霊の姿でも寝れることに驚いてた。

「おはよう」

琉唯の声が聞こえる。もう出かける準備はできてるみたいだ。

今日は土曜日、彩葉に会いに行く日だ。昨日した作戦会議を実行しに行く。作戦はこうだ、琉唯に取り憑いてみる。昨日試した結果割と行けそうだった。元々長く過ごしてきたおかげなのかはわからないが、波長がぴったりっぽいのだ。

「それじゃあ、行ってくるね。」

琉唯は彩葉を迎えにいった。公園とかでやろうかとも思ったけど、傍から見れば変すぎるから、琉唯が彩葉を連れてきて、琉唯の部屋でやるという作戦だ。



自分が思ってるよりも時間は遅く進んでるだろう。そんな気がする。

「おじゃましまーす。」

彩葉の声が聞こえた。あるはずない心臓が速く鼓動してるのを感じる。幽霊になったからか、はたまた全くの理由か。音がよく聞こえる。

ギシギシ……ガチャ。

琉唯と一緒に入ってきた彩葉と目が合った。

気がしただけだった。




琉唯君が私の家にひとりで来たのは初めてかもしれない。あいつが死んでから私たちふたりは一緒にいる機会は減った。しょうがないと言えばしょうがない。ふたりで遊ぶことなんてなかったし、あいつがいなければ私と琉唯君を繋ぐものはない。私は琉唯君だけでいいのに。いつも私たちの邪魔をしやがって。

限界に達した私は、あいつを苦しめてやろうと思った。多少行き過ぎた行動しても、こいつは私のことを女として見てるから許されるだろう。そんな私の考えなんて知らずに呑気に歩くこいつを私はほんとにアホだなと思った。

私はいつもの琉唯君までの道のりとは違う道を歩くことを提案した。「少しふたりで話したいことがあって。」なんて言えばこいつは勝手にテンションが上がる。私が他の道を提案したのにはわけがある。少し遠回りであるこの道は、私たちが小学生のころからよく「歩行者と車の接触事故が起こる。」って言われてきてた道で、通らないようにしてたとこだ。まあ、みんな軽い怪我程度だし、重くても骨折。私はこいつがどっかにいなくさせるにはどうすればいいか考えて、病院送りにしてしまえばいいんだと思った。車がくるタイミングがちょうどくるかわかんないけど、琉唯君とふたりになれるなら。


「その、話したいことなんだけどさ。彼女ほしいって、思う?」

わざと下を見ながら、でも車がくるか注意しながら私は聞く。

「か、彼女かぁ。まあ、彼女というか、好きな人と付き合えたらなーとは思う、けど?」

「え!好きな人いたんだ!」

まあ、どうせ私でしょ。なんて思いながら知らないふりを……え、私って前世どんな徳を積んだの?向こうから車がくるじゃない。しかも結構なスピード、急いでるのかな。え、どうしようなんとかしてこいつを轢かせないと。

「実は私も好きな人がいてね。ずっと言いたかったんだけど言えなくて。」

さあ、こい。私に意識が向いてるうちに。

「あのね、私。」

さあ、さあ!

「あなたのことが好きなの!」

そういって抱きつこうとこいつに体を勢いよく寄せる。明らかに動揺して後ろに下がった。道路に体が出てしまう。多分こいつは聞こえてない。見えてない。すぐ、真横に車があることを。


そこからは簡単だ。突き放してこいつだけ轢かれさせて、私は悲鳴をあげるだけ。朝って言うのもあって歩行者なんていない。近くの家から私の悲鳴を聞いた人たちが出てきて、警察に通報する人、救急車を呼ぶ人、あいつに近寄って声をかける人。みんな、私の思い通りに動いてくれる。世界が、私を中心に回ってくれる。いやちがう、私も世界の一部に過ぎない。琉唯君が世界の中心だから。


まさか死ぬとは思わなかったけど、おかげで病院送りより私たちがふたりになれる状況ができた。やっと、やっと私たちだけ。そう思ってたのに、琉唯君から「僕、姿も声も、本当は生きてるんじゃないかってくらい見えるし、聞こえるの。」って聞かされて、言いたいことがあるらしいって言われて、私は琉唯君の家にきてる。ほんとに邪魔しかしないんだね。

「あのね、彩葉ちゃん。彩葉ちゃんには見えてないだろうけど、僕には見えてて、今から身体を貸して言いたいこと、言ってもらうね。」

はあ、琉唯君の身体乗っ取るとか、死んでも頭沸いてんじゃん。

ガチャ。

扉が開く音が聞こえた。振り向いた先にいたのは警察。え、警察?

「彩葉ちゃん。君を警察署に連れていかなきゃいけないんだ。」




僕の部屋に突然現れた警察の人は、彩葉ちゃんを連れていこうとする。

「ま、待って。どういうことなんですか?彼女はなんで警察署に行かないといけないんですか。」

警察の人にしがみついて抵抗する。今連れていかれちゃだめなんだ。僕の身体を借りて、彩葉ちゃんに言葉を伝えないといけない人がいるんだ。そうじゃなきゃ僕はどうやって心の整理をつけたらいいの?

「まだちゃんとわかってないから、君に伝えることはできないんだ。」

「ちゃんとわかってないなら、わかってから連れていけばいいじゃないですか。だめです、連れて行かないでください。」

「もういいよ琉唯くん。おまわりさん、もしかして運転手の人ってドライブレコーダーつけてた?」

彩葉ちゃんは笑ってそう尋ねる。そして警察の人は頷く。「そっかぁ」と笑う彩葉ちゃんは、とても怖かった。

「ねえ、琉唯君。まだそこにいるの?」

彩葉ちゃんは虚空に指を向ける。僕にとっては虚空ではないから、頷く。それを見た彩葉ちゃんは、ただいつもみたいに話をするように

「あのさぁ、あんたを殺したの、私だから。」

って、僕の部屋に毒を吐いた。

僕は理解が追いつかなかった、なにも考えれない。どういうこと?そう困惑してるとき、彩葉ちゃんは警察を振りほどいて、僕の机からはさみを取って自分の首に突きつけた。

「彩葉ちゃん、待ってよちゃんと説明してよ。殺したって、どういうこと、なんで。」

彩葉ちゃんは淡々と語り出した。僕のことが好きなこと、ふたりでいたいのに邪魔してくるのが鬱陶しかったこと、怪我させるつもりだったけど殺しちゃったこと、全てを話した。

「 嘘、だろ。」

「ねえ、どんな気持ちで、彩葉ちゃんを好きだったのか、考えたこと、ある?」

「ないよ、そんなのあるわけないじゃん。私に関係ないし、なんなら邪魔。」

「 俺は、彩葉に殺されたのか…?あの運転手じゃなくて…?」

「僕が、どんな気持ちで。相談に乗って、応援したくもないのに応援してたか、わかる?」

「え、待って。私と琉唯君って両思いだったの?わざわざ恋のキューピットに徹しようとしてくれてたの?そんなのいらなかったのに!私たちだけが繋がるだけで全て解決したのに!」

「黙れよ。」

気づけば僕は、彼女の喉にはさみを刺していた。きっと、本当のことを話してるときに警察に邪魔されるのが嫌で、脅しのつもりでやっていたのだろう。僕はそれを押し込んであげて、殺した。僕の部屋に、初めて赤が彩られる。

「 彩葉、お前。浮いて……る。」

そんな声が聞こえてきた。僕には見えてないけど、幽霊同士なら見えてるのかな。そんな場違いなことを考えてるうちに僕は警察の人に取り押さえられた。階段を上がる音が聴こえる。多分、お母さんかな。すごい物音したもんね。人が倒れる音、走る音。また人が床に押し倒される音。僕は殺したこと後悔してないよ、お母さん。僕を救ってくれて、僕に生きる意味を与えてくれた人を殺す不純物は、この世にいらないから。



俺ら、私ら、僕らを壊してしまったのは今そこで見てる君らにはわかるよね。俺を乱してしまうのは、どうせ愛なんだよ。


この物語は君らがどれだけ読んだって、過程も結末も何も変わらない。君らはなにか変わるかな。

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