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夏の魔法

作者: ゆかり

ずっと何か物を描いてみたかったので

つらつらと書いてみようと思います。

 まだ梅雨も開けきらぬというのに、空は夏顔になってく。

 その表情は垢抜けない化粧をし始めたばかりのような、そんな感覚すらある。

 セミが鳴いてもおかしくないような、ジリジリと肌を焼くそんな日。

 出かけるために、慌てて電車に駆け込んだ。

 自宅から駅までは近いというのに、汗がじわりと額に滲む。

 暑い、それはもう溶けてしまいそうな程に。

 普通電車しか止まらない駅のため、座席はがらんとしておりゆっくりと腰かける。

 ふぅ、と深いため息を心の中で収めらずに、少しばかり息が自然と零れる。

 電車が動きだし、街並みが『驚きフェナキシスト・スコープ』のようにめまぐるしく動いていく。

 その奥に水平線に続く、海が輝く。

 水面が暑く照り付ける太陽をキラキラと反射する。

 この季節は苦手だが、景色を楽しむことが電車に乗った時の唯一楽しみだ。


 イヤホンを着けながら、お気に入りのプレイリストを再生する。

 スマートフォンで目的地までの時間を確認していると、もう次の駅に着いたようだ。

 ふと視線をあげると、部活から飛び出してきたような青年がドカッと座席に座った。

 手ぶらで、ユニフォームのまま、靴も競技用のまま。

 既にしっかりと日に焼けた青年は汗をかく事無く、すぐさまスマートフォンを触り始めた。

 時間にしても、微妙な時間であったため部活終わりにしても荷物がないし、体調不良という感じでもなく、不思議と興味をそそられた。

 話しかける勇気はもちろんないし、話しかける程でもないと思い余計な検索は辞めることにした。


 再び景色をぼんやりと眺めながら、イヤホンから流れる音楽を聞くことで自分の世界に入っていく。

 梅雨のどんよりした白い空に慣れてしまった目には刺激の強い空を眩しく思った。

 私にも学生時代には青年と同じように日に焼け毎日、部活に勤しんだことがあるが、今では日焼けしないよう細心の注意を払っている。そんな自分を滑稽に思ってしまう。

『あぁ、大人になってしまった』と。

 あの日々は、当時はこそ厳しい練習だったが嫌いではなかったので眩しい思い出のひとつではある。

 体を動かすことは好きなので、あの頃のように打ち込みたいと思う反面、ずいぶん体力が落ちた今はあの頃のような動きはできないし、翌日の仕事に支障が出ることは想像が容易である。

『あぁ、大人になってしまった』と。

 流れていく景色の中で青々と茂る草木が色濃ゆく、夏のような太陽がそれを更に強調させて目に焼き付けていく。

 強い日差しの太陽がじりじりと音を立てんばかりにアスファルトを照らしつけている。

 通り過ぎていく電車の車体がギラギラとした太陽でピカピカと目を細めてしまう。

 空はどこまでも続くことが当たり前のような夏特有の濃さで、よく泡立てた生クリームのような濃密な雲。

 いざ外に出ると太陽は空気さえも暑くする。


 全てが鮮やかで、

 全てがワクワクさせて

 全てが楽しみになって

 全てが待ち遠しく

 全てが眩しい。



 いくつかの駅をすぎ、まもなく降車する。

 どうやら青年も降りるのだろう、スマホとにらめっこしていたが今はただ真っ直ぐに次の駅を見ている。

 その凛とした、周りさえも眼中に無いと言わんばかりの勇ましさは夏のような勢いと心が浮つくような感覚を残して、立ち上がって颯爽と降りていった。

夏って何歳になったってワクワクしたり、ソワソワしたり見えるものがいつもより違って見えたり、日常の小さな気づきや感覚を大切にしていきたいと思います。


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