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4.

「ソフトリーアズ」には舞台がある。

上演するのは実際の「舞台」。

ではない。

例えば演劇のような形にするのは、ごくごくまれなことで。


演劇ではないのだが。

演劇での舞台のように飾り立てられる。

多くの場合。

例えば音楽系のバンドの面々。

シンガーソングライターその他。

有名どころから、これからのインディーズを問わず。

装飾されたその舞台で、音楽を。


「ソフトリー」と名前をしているからか。

緩い部分はあるのかもしれない。

出演する面々についてである。

だが。

あくまでカジノはカジノ。


トリー・エーカもそう。

今はあまり有名な方ではない。

音楽方面ではあるのだ。

ただ州内でのインディーズという立場。

という認識はされているはず。

黒田縫李(くろだぬい)の知る範囲内で。


その(ほか)、ソフトリーへの舞台へ。

呼ばれたことのある人物。

その他には、U-Orothée(ユーオロテ)だ。

彼女は舞台では、アバターではない姿で出演した。







ドロテア・A・ローチャ。

ユーオロテの本名。

活動中で。

その名前が(おおやけ)になったということはない。

最初の拠点は日本。

というのは日本がそういった、仮想空間における「バーチャル」の名を冠したものに受け入れ態勢が豊富であった。

という理由。


受け入れ態勢としては、日本から徐々に海外へ。

例えばアジア圏だ。

温かい気候の周辺に位置する国々からの。

受け入れ態勢。

それが(ひろ)がりを見せていた。


ドロテアはバイリンガルだった。

仮想という空間は、時差を除けば地続きとも言える。

特に活動中で国名を明かす機会もなければ。

明かす必要もない。

自分から言うものでもない。

言う言わないにしろ。

仮想という空間での活動に支障は出ない。


特にアジア圏を始めとした、受け入れ態勢の波。

波はアジア圏から更に拡がりを見せた。

それには、eスポーツとバーチャルアイドルの相互関係も一役買った。

で。

エクセレは英語圏に事務所を構えるに至った。

その拡がりの波に乗った形だ。


ドロテアの「本体」としての拠点。

それはフロリダにあった。

活動拠点の拡がりが、仮想の場から流れてくる。

とすればインディーズ。

というので現実にも身を置きやすくなった。

のかもしれない。







いずれにしても。

Se-ATrec(シーアトレック)の身代わりが見つかったのに対して。

ドロテアのアバターであるユーオロテ。

その身代わりは見つからずにいる。

同じ舞台で、ということであった。

新聞記事。

杵屋依杏(きねやいあ)


「同じ舞台で」


電話での会話である。

応答しているのは数登珊牙(すとうさんが)だ。


「ええ。新聞記事にもそうあります」


「ソフトリーアズの」


「そう」


「そこで、亡くなった」


「亡くなった要因の一つになったのでは。と考えられている」


「その舞台がですか」


「ええ。前例を見て行けば。ということ」


「前例があるから、要因としては舞台だと?」


「ユーオロテと言う名前と。その舞台が結び付いているということ。それは否定出来ません」


「亡くなった原因が舞台かどうかは。分からないのでしょう」


「ですから。こうして今()るわけです」


と数登。


依杏。


「会合か何か、ということでしたっけ」


「そう。何せ《死にネタ》です」


死にネタか。

と依杏は思った。

言葉的には。

あまり、いい言葉とは言えない。

ただユーオロテが亡くなったというのは。

そういうことなのである。


日本で活動していたという、ユーオロテの活動範囲。

いつの間にか英語圏に(ひろ)がった。

アバターというその容姿で。

仮想空間上で活動していた。

それが、いつの間にか「中の人」の枠を越えてインディーズ。

アバターではない身体(からだ)で舞台へ立っていた。

その矢先だった。

ドロテア・A・ローチャは亡くなった。

ただこの本名というのは。

エクセレから九十九(つくも)社へ伝えられたものであって。

公になっているというわけではない。


ソフトリーアズはあくまでもカジノである。

ユーオロテに依頼した側でもある。

その舞台への出演を。

出演その(ほか)について。

そして出演に立っていたユーオロテが亡くなり。

以前では黒田零乃(くろだれの)が怪我人となった。

ということで。


「同じような感じですね」


と依杏。


数登。


「何がです」


「いや。珊牙(さんが)さん始め。九十九社で依頼される件が何と言うか。その」


「今回はエクセレからの依頼。ということもあります。葬儀社としての研修の意味も含まれる」


空港。

一応羽田だ。

依杏たちの居る現在の九十九社。

および九十九社のある位置。

春里(しゅんり)九丁目から羽田まで距離はある。

しかし飛行機となるとフロリダへは羽田から、ということに。


「同じような感じで」


と依杏は再度言う。


数登は苦笑する。


「記事にはこうあります。ユーオロテことドロテア・A・ローチャ」


「その名前というか本名。そっちは(おおやけ)になっていないのでしょう。書いていないでしょう」


「ええ。ですが記者およびこれを書いた人々にとっては。周知の事実ではないかと」


「そうかもしれませんが……」


そういうことは。

よくある。


数登。


「ドロテアは何回かゲストとして。ソフトリーアズのその舞台で出演する機会があった。とあります。亡くなった当日は午前十時から会場の設営があり、彼女はその少し前から。午前十時少し前、既に舞台およびソフトリーアズ内に居た。準備が素早いというのは。彼女にとってはいつものことだった。とあります。設営の際も特に違和感なく滑り込んだという印象。関係者の持った印象です。特に彼女自身に変わった点も見られない」


「は、はい」


「開場。カジノ内ライブの開場時間。午後三時より。しかしその一時間前には体調不良を訴えていたと。終了間近の午後五時に倒れ。そのまま亡くなった。ということです」


「やっぱり……」


「同じ点とすれば。その舞台がオカルト系ではないかと()いたい?」


オカルトまでは行かないものの。

ただ似たような前例のもの。

依頼や自主的に(おこな)った調査に関して。

何個か似たようなケースがあったように思う。

例えば慈満寺(じみつじ)の一件など。


依杏。


「ただ零乃さんの場合は怪我だった」


「そう。同じ舞台でね」


と数登。







ターミナル。

天井は白。

幾つか格子になっていて日中(にっちゅう)であれば。

その上からの白が下の方へ降りて来て。

というかターミナル全体。

空間全体で白を基調としている。


数登はといえば。

ATMに居た。

一応だがセキュリティチェックは済ませてある。

スタンガンは持ってはいない。

記者の釆原凰介(うねはらおうすけ)は、そういった(たぐい)のものを持っているという。

数登はあまり縁がない様子。


タンパまで行くか。サラソータか。

この辺りで意見は纏まるのに時間が掛かったものの。

サラソータ行きで羽田から乗る。

ということになった。


さて乗るのは?

となると経由が幾つかある。

当然、一番安いので。

ということで。

九十九社は規模が小さいから。

あまり費用もない。

顔パスで通るセキュリティチェックが可能なのは。

デルタ航空等らしい。

しかし。

それだと安い経由がなく。


ATMその他。

Wi-Fiもどうするのかと。

考える余地はまだある。

搭乗等発着口へ行くまでに時間はまだあった。

電波問題というのは。

現地に着いたら着いたで別問題ともなるだろう。

で。

数登はいまだにATMに居る。







ターミナルをさらにエスカレーターで上がる。

そこで食事にありつける。

様々食事処が並んでいる、街道のような空間。

数登もしばらくうろうろして。

それから日本料理店で食事を済ませていた。


午後。

時差。

サラソータであれタンパであれ。

今より一日前となる。

サンフランシスコ経由。


新聞記事。

ドロテアの顔写真はない。

彼女のアバター姿もなく、簡素である。

同じ舞台で、というのはそうだ。

ただ零乃(れの)の場合では亡くなってはいない。


ユーオロテの事務所はエクセレである。

亡くなったということについて。

現地の葬儀者および事務所の対応となる。

九十九社としては小さいながらも、前例で。

エクセレのバーチャルアイドルと間接的に関わっていた、という扱いをされた。

それがなければ。

九十九社が現地へ向かう機会はなかったのかもしれない。


つまりは一時的に提携し会合という形を()ね。

今回のようなケースの「死亡」に関するサンプルとしても。

葬儀社として貢献する。

あまり規模の大小は関係なく。

重視したのは直接的にでも間接的にでも。

そのアイドルその他と関わりがあったのか。

(いな)かについてだった。

今回の場合はユーオロテ。

更に言うなら零乃も含む。


依杏。


「ソフトリーアズで会合があるんでしょうか」


「集まるのはタンパ周辺と」


「それなら。でも航空券の行先(いきさき)違わなかったですか?」


「そう。サラソータ」


「なんでですか」


「安く泊めて下さると。黒田零乃の弟さんです」


数登は笑んで言った。













取引の話はしなかったが。

取引がなくなったというわけではない。

取引は縫李(ぬい)とトリーの間だけの話ではなく。

参加者は(ほか)にも居る。


それは取引に不正がないかどうかをお互いに。

と言ってもネットワーク上なわけだが。

そう。

ネットワーク上なので本名を知らない奴が一人いる。

トリーの他のメンバーとしては二人。

その他一名はルロイ・ウィンターという。

もう一人はオーカー。

そう名乗っている。


稼ぐ稼がないについて。

例えば半減期なども考慮に入れる必要がある。

あとは場所をどうするかってことになって来る。

ルロイはその点自由度が高い。







あまりこういう話をしたことはないのだけれど。

恐らく一番稼いでいてメンバーの中で、金持ちなのはルロイだ。

ルロイとトリーはステーキングで保有しているというのもある。

コインを。

俺とオーカーはそうではない。


ルロイの自由がきくというのに(あやか)って続けている。

それで半減期でも続けているのがマイニングだ。

州ごとの法によって、考え方は様々。異なる。

取引歓迎の所もあれば。

電気代を食うというので、規制だったり課税だったりという州もある。

アーカンソー、テキサス。

一部だとマイニングの稼ぎだけで。

月三千か三万ドル行ったという奴もいる。

それも十代でだ。


けれど俺のチームでやっているのは。

結構半減期の憂き目なんかにも遭ったし。

取引を始めた時期は振り返らないけれど、ルロイが拠点の別荘。

というかノードを置くための小屋だが。

そこを移した。

その場所ごと。

そのくらいしないと憂き目を越えられない。

チームではそういう考えに至った。

とか。


州で言えばフロリダは、仮想通貨歓迎タイプの州である。

だからマイニングの報酬で、得た仮想通貨を使える場所も多いのだ。

例えばカジノなど。

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