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2.

着いたのは夕方。

いろいろ(めぐ)ったから。

黒田縫李(くろだぬい)は思う。


家はトルマルだ。

だが、トリー・エーカの家はまた別。

自分としてはトリーの家の位置の方が、交通の便はいいと思う。

レンタカーや飛行機その他利用にも良い。

けれどサラソータとタンパに両方割と近いというのも、自分としては()いと思っている。

要するに。

トリーには一方的に自宅へ送ってもらったというだけで。

レンタカー。

手配出来る場所は多い。

シャーロットの穴場まではそれと飛行機。

最短一時間。

と車。


ちなみに。

縫李自身、車の運転は出来ないわけではない。

しかし時間が掛かった。

その車の免許を取るまでだ。

取るまでものすごく時間が掛かった。

そして左ハンドルということ。

その点、少し戦々恐々とするのもまたしかり。

トリーとのドライブはここ最近だ。

顔を合わせるようになったのは取引の話をしてから。

その話題を拡げるようになったためである。


自分の居る位置が右か左か。

通常時で左ハンドルなのだから、取るのがものすごく時間が()かったとはいえ。

運転しないわけにもいかない。

と縫李は思っている。

だが今日は運転しなかった。

トリーは戻った。







蟹。

それには熱を通す。

熱を通して保管する。

蟹には白葡萄酒が合う。とかなんとか。

とにかく保管しておけばいい。

たぶん白葡萄酒よりも添えるものを、先方は持ってくるはずだから。


今日ではない。

だが何せ人が来ることになっている。

そのため用の蟹である。

熱を通すならボイルで。

あとは()き身にして冷凍保存か?


家。

全体的に白い基調の外観。

内部もまあ白が多い。

あまり広くはない。

今一人であればスペースは広く取れる所もある。

横に長くダイニングキッチンがあって、あと居間とか。

枠に(はま)っている窓は大きめだ。

庭に面している。

芝は緑。定期的に刈るが最近サボりがち。

両隣も横並びで同じような建物が続いている。


零乃(れの)は今、違う別の場所に()る。

家ではないのだ。

通常なら二人で使っているこの家。

なんでも。

立った舞台で怪我をしたとからしく。

それが長引いている。

確か、日本ではお咎め。

零乃はそんな感じだ。













時差がある。

となると、何時頃になるのだろう。

時差かあ。

ああ、海。

海は懐かしいとしか、最近思えていない。

少なくとも九丁目のこの位置で。

この辺に建っている建物はみんな内陸部である。

大きい川はあったりするけれど、海との違いは?

違いはなんだろう。

例えば共通するのは水。

違うのは塩か淡水か。


そうだな川は。

あまり積極的には入らないけれど、海なら入る。

杵屋依杏(きねやいあ)は思う。

海なら衝動的にというか本能的に入りたくなる。

人体の水分というのも純粋な水分ではないし、いくらか塩分だってあるだろう。

だから海に入れば何かしら同化? みたいな感じになって、居心地が良いのかもしれない。


海で綺麗な所。

青く透明な海だ。

そこで水中眼鏡を掛ければ、どこまでも青い世界が(ひろ)がっていた。

依杏はあまり泳げない。

ので大抵行くとしても、浸かるにしても浅瀬で。

その水中眼鏡で海の中を覗くのだ。

足元の砂を。

海の中の砂浜から続く砂を見たり。

遠く続く青を。

眼前のその青を。


ただ痛い思いをしたこともある。

そこは海水。

そして塩を含んでいるという所以(ゆえん)

例えば身体(からだ)の一部を怪我して。

そこに塩を塗りこめば痛いのと、同じ。

海の中。

浅瀬で泳いでいて。

沖の方へ出て行って泳ぐ人もいるけれど。

浅瀬でも人は多い時がある。

そんな時。

突然ぶつかって来た海水浴客との衝撃で、依杏の(ひたい)は切れた。

赤。

あの時。

余計に痛い思いをしたものである。

とか。


川はあまり、透明度のあるイメージがない。

川の方がむしろ、海より奥が深いのかもしれない。

それは淡水だからか?

よく分からない。

淡水で透明度のあるところもある。

だが九丁目にそれはない。

九丁目には九十九(つくも)社がある。







海が多い、か。

と依杏は思った。

九十九社。

そして時差もあるだろうから。

そうなると向こうは今何時頃なのだろう。

とまた思考は逆戻る。


時間はよく憶えていない。

そうだが連絡があったというのは確かだ。

そのために数登珊牙(すとうさんが)は忙しくしていた。

八重嶌郁伽(やえしまいくか)と依杏。

それから次呂久寧唯(じろくねい)

九十九社での中。

今日はあまり忙しいという感じではなく。

忙しく動き回ったのは数登のみである。

社員の中では数登に適任となったようで。


「路面電車」


と寧唯が言う。


「なんでも、タンパだと路面電車が走っているとかみたい」


「路面電車かあ」


と郁伽。


寧唯。


「そうなんですよー」


「あんたが乗ったの?」


「いやいや、獅堅(しすえ)の知り合いの話ですから」


と寧唯は苦笑。


「なんかゲームセンターとかもでっかいみたいです」


「あたしあんまりゲームセンターは行かないな」


「先輩はそうでしょうけれど。でもね。そう。例えば六本木」


九丁目のここ。

春里(しゅんり)からだと大分(だいぶ)遠い。

たぶん三時間くらいは掛かる。

車で。


郁伽。


「例えば。で?」


寧唯。


「そうなんですよ。その六本木にもでっかい映画館とかあるでしょう」


「映画館ね」


「タンパのゲームセンターはそのくらいか、とにかく大きいらしいです」


「ふうん」


タンパはフロリダにあるという。

今まさに連絡があった件と結構かかわりがある。

ということで。

寧唯が今日。

九十九社へ来ているのは流れで。

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