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17.

流出で得た情報を外部に漏らす、というわけでもなく?

そんなニュアンス。

ウェス・シーグレイの口から出る。


エラニーは、シーグレイとの会話を淡々と。

進めるつもりの様子。

黒田縫李(くろだぬい)が見た感じ。


情報として持っていること。

淡々からそれ以上に踏み込むか(いな)かは、シーグレイの言動行動。

それ如何(いかん)で決まることなのだろうか。


アカウント売買というのは単純に、貪欲に。

「ニッカトール・ダウナー」において、「(のぼ)り詰めたい」と思う者にとって。

都合のいいシステムである。


一般には問題視されることでも、それがカジノという、()けの場においてはまかり通る。


大なり小なり、個人情報もそこで流出する、というシステムか。







シーグレイは、断言は決してしない。

断言をすれば、ゲーム自体の非を認めることになるからだ。

そして、シーグレイ自身の非を認めることにもなる。


縫李(ぬい)は会話のニュアンスから、アカウント売買だけではなく。

それによって流れる個人情報によって、「ニッカトール・ダウナー」における賭けの勝率が、左右される場合があるということを。

なんとなく、理解した。


賭けるためには、いずれにしろ。

勝つ場合はおろか負ける場合でも、穴埋めのための(かね)()る。

ただ単にプロのゲーマーがカジノへ集まっていて、高額を賭けたり、すったりしている。

というわけではなさそうで。







いまは場所が違って、カウンターだ。

三人で腰掛けているが、エラニーは真ん中だ。

その(はし)と端にシーグレイ、縫李である。

ネオンや煙や埃っぽさから一転した、照明のあるバー。

カジノ内での移動にて。


透明なグラスの沢山。

そして大量に逆さに、天井近くへ()けられている。

そんな辺りのカウンターである。







金が要るという部分だけはシーグレイは、流れからしては認めている。

賭けのための金を。

流れる個人情報のためのゲームか、というエラニーの質問に対して。

シーグレイは否定を重ねる。


金のやりとりは、今は、エラニーとシーグレイの間では起こっていない。

起こりそうもない。

縫李が見たのは、クラニークホテルでのボーイと、エラニーとの金のやりとりのみ。

あのボーイは、今はエラニー側なのだろうか。

淡々としているエラニー、あくまでも淡々だ。


今の会話は、いずれは戻って来るであろう?

数登へ渡すための会話、ということになるのだろうか。







「先に捕まったのが私でよかったな」


と、シーグレイ。


「レナルドだったら。あんたみたいなのには、黙っていないだろうよ」


自分の非は認めない、スタイル。

賭けには金が入用(いりよう)で、そのための勝ちに、個人の情報も一役買う。

当然プレイヤーの情報である。


その情報を売買以外で、得るような手法を用いていたか?


「例えばマルウェアや、侵入等」


とエラニー。


「私なら。そんな方法は取らないがね」


とシーグレイ。


「同意の上でだ。いいか? ゲームはプレイヤーが望んで(みずか)(おこな)うと決めて、選択し、購入に至ってプレイする。あくまでも。ニッカトールの場合はある意味、というか一般的に見ればそれは。アカウント売買も非難の対象にはなる。しかしだ。それも、同意の上なんだよ。あくまで売買をする者として、アカウントや情報をどう扱うかも、同意の上だ」


誰も手を汚さない、か。

今の場合なら、それがシーグレイの言いたいこと。

なのかもしれない。


アカウント売買をあくまでも、全面に押し出しているゲームを行うプレイヤーの。

同意の元での、流出が起こったとしても。

責任はない。

そういうことだ。


「更に言うなら賭けとなれば、前提は(かね)の上に立つ。勝たねばならないとなったら、ある程度。いかがわしい手を使うプレイヤーも出るだろうな。だがゲーム開発側が、推奨しているわけでもなければ。私らがそれに、手を貸しているわけでもない」


「しかし」


とエラニー。


「流出したプレイヤーの情報は、利益をもたらすとも。あなたは()っているように、お見受けしますがね。それは開発側にも同様、と」


悪用している?

と縫李もエラニーに続いて言いたくなった。

だが遮られる。


「ここでしたか」


と言ったのは、数登珊牙(すとうさんが)だ。

遮ったのも数登である。


彼は手でカウンターを、分かつようにしていた。

丁度エラニーとシーグレイの間へ腕を、伸ばしてカウンターに触れつつ。

割り込みたいのは、明らかで。


「ところで、レナルドと(おっしゃ)いました」


と数登。


「今日は彼女がこちらへ?」


数登は、シーグレイへ向かって微笑してみせた。

シーグレイは明らかに気分を害している表情で。

グラスを取り上げ、何も言わずに口へ流しこむ。


数登は何も言わず、手をカウンターから離して縫李の横へ回る。

腰掛けた。


「今は、どのようなお話に」


「いや、どうもこうも」


と縫李は言っていた。


「あなたこそ、どこへ行っていたんですか。俺ら待ったんですよ。少なくとも俺とそれから」


「よく分かりましたね」


と言ったのはエラニー。


「そのまま車の方へ行ったかもしれない。と思いましたが。ええ。ここでしたよ。どうでした」


「一応ですが僕としては一通(ひととお)り見て、来たつもりですね」


「何か目ぼしい発見はありましたか。例の彼女の」


「多少はね」


数登は、飲み物を受け取りながら言う。


割り込み。


「あんたこそ。今レナルドに会って、来たような口ぶりだがね」


とシーグレイ。


「お前らは何を探っているつもりだ」


「いえ、今は。そのレナルドという人物に関しては。関知はしていません」


と数登。


「探っている、というのは?」


「探っているというか……悪用?」


縫李は改めて言ってみる。

だが、タイミングじゃなかった。

シーグレイは今にも食ってかかる表情。


一方で数登。


「悪用ですか」


縫李。


「いや、たぶん話の流れとか、分かんないと思うけれど」


「ええ。分かってはいませんがただ、探っているつもりはありません。《探っている》とあなたの。(おっしゃ)るような行動ではなく。こちらはこちらで別のことを。ソフトリーアズの舞台で亡くなった女性のあることは、御存知ですね」


このカジノにある。

カジノ側とすれば。

シーグレイ寄りで、権限があるとすれば。

それはまた、縫李たちの居るバーも同じ。


縫李たちが腰掛ける、その前から人払(ひとばら)いはきちんと済ませてある様子。

飲み物を出す以外にバーテンダーは、奥の仕切り向こうへ引っ込んでいるので。


閉じた空間。

いまのバーを、閉じたものとしているのは。

特に、今の場合はシーグレイの権限となるのだろう。

だがそこへ、数登は割り込んだ。


そのこと自体、シーグレイには面白くない出来事。

加えて。


「カジノの舞台です」


数登は眼を据える。

シーグレイへ向けて。


「失礼ですが、あなたのお名前を伺っていませんでした」


淡々と、なるか?

数登が来たことで話の流れが巻き戻るような感じが、縫李にはしたものの。

エラニーのしたように、流れは淡々となるのだろうか。

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