表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/21

15.

(かね)の受け渡し的な場面を見てしまった。

しかも、カジノへ行く前に。

そんな感じの、いまの黒田縫李(くろだぬい)は。

彼の視線の先で。


その視線の先に見えている空の陰りとか、暗さを彼が見出すのに。

「金の受け渡し的な場面」が影響しなかった、とは表現が適さないかもしれない。


(わり)のいいアカウント」?

少なくとも、数登珊牙(すとうさんが)(たずさ)わるという「ユーオロテとかいうアイドルの死」とは、それとは。

何か別の話ではあろう。


今の場合、主な話になるはずだったのは、「数登珊牙がクラニークのどの辺りの位置に()るのか」。

クラニークホテルの、(とう)の話になるはずだった。

にも関わらず、その話の代わりに、ニッカトール・ダウナー周辺で話題が(ひろ)がったのか。少し危うかったのか。

エラニーとあの、厳しい視線を送って来たホテルのボーイとの間で。


それで棟がどこ、とかいう話は今も吹っ飛んでいる。

一向に、数登が戻ってくる様子もなく。


「タクシー、あるんですよね」


と縫李は言った。

通路を通って、先に続くカジノに向かう途中である。


エラニー。


「ええ。停めたままですよ。あなたも見ていたでしょう」


動揺に緊迫が重なった。

先程の気分を表現するなら、そんな感じだ。


一触即発? を、なんとなく切り抜けた状態?

縫李は直接関わったわけではないが、心理的には落ち着かない。

あとここから先は、カジノだ。

(けた)違いの(かね)関係の話にまた、近くなるわけで。

更に落ち着けないだろう。







中庭。

クラニークホテルの中庭だ。

内観でも、抽象的なオブジェがあった。

中庭には自然が多くある。


駐車場のヤシのところで見た、植物と同系統。

敷地丸ごとクラニークと、ソフトリーアズが関わる。

と考えると、ここもまた自然による抽象表現を取っている、と言えるのかもしれない。

桁違いの金の何かから、頭を()らすための抽象。


金と死、か。


()(こん)

コントラスト的には、そんな感じである。

いまの通路の配色を平たく、伸ばした生地のように表現するのであれば。


中庭からの、今の通路。

通路もまたしかり。

頭を逸らすための抽象の、度合に凝るのだろう。


内観にあったオブジェよりも、色彩には気を配っているのかもしれない。

通路の内部が、照明と。

その照り返しで黄。

一方(いっぽう)、夜を(たた)えた外が紺。

そんな感じに見えるように。

視界には。


縫李。


「カジノへ行ったら、シーグレイがいるんですよね」


「恐らく」


「終わったら、どうします?」


「終わったら?」


と言ってまたエラニーは。

縫李にとっての、分かりやすい表情になった。


数登よりも表情が分かりやすい。

と縫李は個人的に思っていて。


「帰る、んですよね」


と縫李はおずおず。


「数登さん戻って来ないのは」


「彼の戻るのを待ちましょう」


と言って、エラニーは表情を緩めている。


縫李は(うなず)いてみる。







良からぬ言葉の一つに、情報流出というのも気になる。

件のウェス・シーグレイとトリー・エーカは、今も話したりすることはあるだろう。

トリーは、ニッカトール・ダウナーのアカウント持ちでもある。


アカウント持ちという状況は直接、仮想通貨と繋がるような何かではない。

ただ、仮想通貨はそれに関わるメンバー全体に、関わってくる話である。

情報流出というのは、そういう点でも気になった。

良からぬ話。


なんかたぶん。

今の流れからして、シーグレイを警戒しておくのは、まあ。

しかし、縫李にとっては初対面である。

エラニーは、そうではないかもしれない。


良からぬ話に携わる氏と初対面というのは、疲れるのだろう。

エラニーは、そういう点で慣れている、のかもしれない。







通路内部は、煌々(こうこう)と黄色かった。

それが、いきなり真っ暗になる。


手で押し開けて、今度はネオンが眼に焼き付くよう。

内部へ入った。カジノだ。

カジノらしさが弥益(いやます)ほどだ。


どことない汗と埃と、(かね)の匂いというか。

香り?

誰彼の手で触られたであろう、その名残(なごり)の雰囲気。

トランプ一枚一枚が空を切る時の、籠ったような(にお)い。


それらが積み重なった上に、ネオンの明かりで構成されている。

空間。


出たのは、正面ではなかった。

提携するホテルの通路から来た。

それ専用の入口ということになろう。

扉を押し開けて、すぐの両脇へ。

屈強な二名。


さっき、エラニーとボーイと、その近くに居た屈強な二名。

クラニークホテルで。

その二名と違うのは、縫李にも分かった。

暗い照明にネオンが重なる。

ので肌の色まで、よく識別することが出来ない。

そして煙。

白い煙の放つ匂いと人々の、熱気。


天井では黒く見える、巨大なファンが回っている。







今度はボーイではなく、支配人か?

何かやりあう感じになるのか。とか。

いまのネックは十九(じゅうく)ということ。


縫李とエラニーの眼の前。

ソフトリーアズというカジノの目玉である、ゲームへの賭け。

正確に言えば、ゲームアカウントへの賭けである。


その他のテーブルと同じく。

賭場主任がついている。

その丸みを帯びた緑のテーブルではなく、先に眼へ飛び込んでくるのは大きなスクリーン。


基本のプレイ人数は一人対一人。

それぞれに二席。

縫李は十九だから、そこの大画面が見える位置まで行くのに。

少々工夫がいった。

十九というのがまずネックになる。







トランプを切っていく音。

(くう)を切る時の出る雰囲気。

匂い。指と指先の温度。

その階で少しだけ音を添えている、縫李の居る位置の問題もあるが。

どこかポップなスロットの音。

カラカラという音。

そういう音を背景に、縫李は十九というのを何とかしなければならなかった。


ソフトリーアズでは、仮想通貨利用も可、その(ほか)身分証は電子でが定石。

縫李は零乃(れの)のパスポート持参。

零乃は、いくつか所有していたので一つ、「借りた」のである。

いまは自宅を不在の、零乃の。

その部屋より一つ。


そういう点、零乃については予備も多く持っていた。

実際は、縫李は冷や汗。







あとは入ってしまえば、そこはカジノ。

支配人とは、何事も起きなかった。

そして眼へ飛び込んでくる、大画面の方向へそのまま向かって行く。


席は一つと一つ。

仕切りがあり、賭けた連中とプレイヤーを少々区切るためか。


今日の日は席がある。

人間がプレイする日のようだ。

実際プレイ中であり、席には中央の大画面以外のプレイヤー用モニター。


基本的にゲーム内では武器は使わない仕様だ。

だからか。

画面固定でハンドガン所持の手、という演出よりも。

視界の(ひら)けたプレイヤー視点。

それが画面へ表現されていて。


暗いぶん煌々と光るモニターと、照明のネオン。

賭けた連中か、時おり叫びをあげている。


七分間。

いまは何分後なのだろう?

ゲーム開始より。何分後か?

席に着いているプレイヤーの、手元で激しい動き。

それから大画面の動きだ。

(てき)同士の把握というのはプレイヤー各々、既に終わっているようだった。

あと何分だろうか?







叫んでいる方から見てプレイヤー同士の姿。

カジノ内の暗さと、その煌々としたピンクなり青なりのネオンで。

より見えにくいものになっていた。

それに頑丈な、ネオン(つき)のチェア。ゲーミング用だ。

全てはゲーム。ゲームの世界のネオンで、カジノ内。


大画面で争うキャラクターの顔の作りは非常に、似通っている。

そのゲーム世界の、動きの激しさが弥益ほど。


「写真というかパスポートだとまあ、あまり疑われないというか」


と縫李は言った。


ただちょっと、歓声なんだか、落胆なんだか。

分からないような中での会話だから、声は張り上がる。


「似ているんでしょうね」


「先程の?」


とエラニー。


零乃(れの)のパスポートのことだ。


「そうです」


「今ここにいる面々も実年齢がどうというのはむしろ、カジノ側が正確に把握するのを避けてきているかもしれない」


言ってエラニーは苦笑した。


「賭けに参加しているというだけではない。実際にはチームだという場合もありますからね」


「チームって」


縫李は、改めてプレイヤー外の面々を見つつ。


「チーム、ですか?」


「そう。実際プレイヤーが一人というより、チームで参加するほうが賭けや利益についても安心感があるでしょう」


仮想通貨のことを云われているような気がして、縫李は肩をすくめた。


「安心感ですか」


「そう」


「でも分かりませんね。賭ける(やつ)同士でチームを作るんですか?」


「一見単独で。しかし実際にはアカウント売買だ。情報についても売買に関する多くを知っているほうが、実際の賭けやゲームを行う以外にも有利になります」


なんか、やっぱりこのエラニーはいろいろ把握している様子。

あるいは、ギデオン。


「じゃあ……」


と縫李。


(いま)ゲームをプレイしている奴と、賭けてて叫んでいる連中の中にはチーム同士が居る、っていうことですか?」


チーム、と言って。

やっぱり自分のことを、云われているような気がした縫李だった。


「賭け額を上げたり下げたりっていうのも、その(ほか)利益面とかの考慮みたいなのも。単独プレイの奴だけで決めていることだけじゃなくて」


「居ました」


縫李の視線はエラニーに制された。

手の先というか、指先の向こう。

辺りが暗いので、分かりづらい。


今ゲーム観戦の連中と、その他カジノに居る「客」とは。

その(あいだ)に仕切りが入っているために、仕切り向こうのエラニーと縫李は、聴衆として立っているわけではない。

だから行き来は割と自由だった。


とはいっても、ニッカトール・ダウナーだ。

賭けない連中の中にも、野次馬は居たりする。

そういう奴らを、避けつつ二人が向かった先。


チームだろうがなんだろうが。

賭けに勝つためにゲームに、参加するのはゲーマーである。

その道のプロというのは身体のケアにも気を遣う。

例えば、腕、腰、姿勢。

聴覚や視覚面に関しては、酷使をより(まぬが)れないであろうが。


その身体の腕の部分は、特にコントロールで酷使する部分だ。

ゲーマーにとっては必要不可欠の部分の、腕。

手から肱の辺りまでの筋肉。それから肩へと繋がる辺りの(すじ)だ。

腱鞘(けんしょう)の辺りは特に。


専用のマッサージブース。

今のカジノに、それはあって。

そこだけは、ネオンではなく。

ガラス()りの四角い小さいブースだ。

施術師と今まさに施術を受けているプレイヤーの、その姿が見えた。


そのブース近く。

ゲームの大画面を監督(ぜん)として見つめている、ウェス・シーグレイ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ