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9. 瞼が重くなる程飲んでしまったら

おはようございます。


ついに後半突入です。

ラストにむけて緊張しながら書いてます。


宜しくお願いします。

こちらに来てから2ヶ月が経った。

彬は概ね楽しく過ごしていた。かるたプロデュースに加えて、日常の何気ない仕事に日本での経験を活かしながら手伝っているが、家事はないし、四六時中気にかけねばならない子供がいない。子供がどうしているか寂しくなるが、元の時間に戻れることが分かっているから、心配いらない。


そして何よりエステが楽しすぎる!人海戦術でマッサージをされて、寝落ちし、気づくと終わっているが最高だ。なんて贅沢なのだろう。


小悪魔青年の仕業で彬争奪戦が第二段階になり、毎日と言っていい程外出するが、このエステのお陰で体の疲れは簡単に癒える。


デートから帰ると報告がてら、リュートルク達四人で飲んだ。昼間は伯爵として忙しくしているリュートルクも必ず顔を出す。そしてアレックス以外の誰かは酔っ払い、それが合図でお開きになる。毎夜アレックスが彬を部屋まで送ってくれた。三人はデート相手の品評とアドバイスをしてくれる。リュートルクは面白がって茶々をいれるだけだが、リーゼロッテは経験踏まえての即使えそうなアドバイスをしてくれる。アレックスは…、割りと苦い顔をすることが多い。デートの話でない時は優しい顔をして聞いてくれるが、年齢詐欺にあっている同世代を気の毒に思っているようだった。


今夜も若干苦い顔をして聞いていたアレックスは彬を送り、結構酔っていた彬を見かねて飲みすぎに聞く薬草水を持ってくると言って、一度部屋を離れた。


彬は珍しく眠気と戦っていた。

肌が若返っても中身は43歳だ。昔のように長く元気ではない。シャツの第二ボタンまで外し、袖口も緩め、ソファに足を投げ出す。眠ってしまうと翌日二日酔いになる彬は、完全に酔いを醒ましてから眠らなければならないのに、今夜はどうにも眠い。瞼が重く、アレックスが戻ることを待てそうにない。いつの間にか眠気が勝ち、体から力が抜けた。




体がふわふわする。頭が気持ちいい、なんだ?…なでられてる…?そんなこと、何年もないから夢だなと考え、自分に何度もいい聞かせるうちに、彬の意識は徐々に戻ってくる。


頭はなでられてるらしい。頬もなんだかくすぐったい。でも、気持ちいい、優しい感触だ。知らず知らずのうちに、その感触にすり寄ってしまう。


少しずつ、目が覚めていく。


ぼんやりとだが、誰かが傍にいるのがわかった。つい子供達かと思い、いないはずの子供の名前を呼んでしまった。影がびくりと揺れたのがわかり、だんだんはっきりするその影の大きさから子供達ではないことはわかった。


眉を寄せて、息苦しそうな顔をするアレックスがそこにいた。


「アレ…ックス…、ごめん、寝ちゃってた?起こしてくれればいいのに」

「…ゆうりって…」

「あぁ。長男の名前だよ。ごめんね、寝ぼけてて見えてなかったの。」

「…そうか。下の子の名前は?」

「ひかる。」


子供の名前なんてどうしたのだろうか、間違われて不快に思ったか、あるいはホームシックを心配させたか?と彬は当たりをつける。


「…二人に謝っておく。母上を戻さないことを。」

「え…?どういう…?なにいって────」


苦しそうな顔を泣きそうな顔にかえて、謝るアレックスへ問いかけようとしたが、喋らせて貰えなかった。大きな手で彬の口が塞がれた。


「…知らないよな、俺があきらのこと、気にしてたの。…黙っておくつもりだったから。…いっそのこと、早く帰ってほししいぐらいだ。」


アレックスがリュートルクの代わりに、心を砕いて自分のサポートや手配をしてくれて、細やかに気にしてくれていたことは知っていたし、有り難く思っていた。


かるたのプロデュースや、書類の揃え方や様々な屋敷の業務へのアドバイス、毎晩の飲み会と、仲良くやれていると思っていたので、早く帰ってほしいと言われるほど嫌われていたとはちっとも気づいていなかった。


「…ボタン…外したりして、わざと?無防備に見せて、俺を煽ってるの?」

「いや、これは暑くて眠くて…あー、ごめん。酔ってて頭廻ってなかった。…煽ったって言われても、仕方ないね、ごめん。」


こちらで肌の露出は日本と違い、ドレスなら良しとされる露出も、何故かボタンを外しての露出は過剰とされる…。チラリズムが駄目なのか?


「そうやってあきらはすぐ引き下がる…。何も、あきらは悪くないだろう。…そういうとこ、見てるの、つらい。」


どうやら心配をかけ過ぎてたようだ、歳が離れてるから、しょうがない奴だって思って流してもらえると思ってたが、そうはいかなかったようだ。これは完全に甘え過ぎていた。アレックスがよく周りを見て気にかけるタイプなのが分かっていたのに…私が悪かったな。


彬はソファに預けていた体を起こし、身嗜みを整え改めて謝ろうとした。だがボタンに手をかけたところで、ガシッとアレックスに手首を捕まれ、それを阻止された。


「だから、それが悪いって…わかんないかな…。」


もっと脱ぐとか思われてんの?なんなの?わからんわ…と突っ込むつもりで、アレックスの手を凝視していたのをやめ、溜め息をついて顔をあげたら目の前が暗くなった。正確には口を塞がれていた、アレックスのキスによって。


「んんっ?!」

アレックスはそのまま、キスし続ける。角度を変えて何度もキスをしてきた。


彬は驚いたもののされるがまま、アレックスの状態を考える。どういうつもりなのか、酔った勢いで怒りにまかせているのか、恋情があるのか、ヤりたいだけなのか、あー…できれば気持ちがある方がいいなぁ、と思いながら、年上らしく落ち着いて、しれっとしてアレックスの肩を叩く。のそっと、覆い被さっていたアレックスの体が離れた。


「えーと、アレックス?酔ってついしたくなった?それとも怒ってる?…ないと思うけど、うっかり?…私のこと、好き?」

「なんだよ、その選択肢。…ないと思うけど、って、あったらだめなのか?」


一番ないなと思った答えが正解で、さすがの彬も思わず目を剥き、うそでしょ?!と言ってしまう。彬の酔いも一気に覚めた。さっきまで泣きそうな顔をしていたはずなのに、今はムッとした顔のアレックスを彬はまじまじと見てしまう。


「…酔った勢いだよ…。言うつもりなかったし。…あきらのこと、好きなんだ。」


直球キターーーっ!!そんなわけあるか!







お読みいただき、ありがとうございました。


次も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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