1. 願い事は口に出すとよい
初めまして&こんにちは。
昨日久々に逆お気に入り登録を確認したら、たくさん増えていて嬉しくなったので、一番説明が詳しく載っている作品をついに改稿することを決めました。
シリーズ最初の作品なので、たくさんの人に楽しんで頂けたら嬉しいです。宜しくお願いします。
彬は疲れていた。
家族に無関心の旦那に加え、サ◯エさんのカツオのような、埼玉県在住のし○ちゃんをあわせたような子供達を毎日怒鳴って宥めて学校へ送り出す毎日だ。
魔が差した、とはこういうことだろう。
つい、言葉として発してしまった。
「年下のイケメンから溺愛されて、毎日イキイキと暮らしたい」
「じゃあ一緒に連れてってあげるよ」
後ろから若い男性の声がしたが、聞かれるほど近くにいたことに気づかなかったらしい。つい思わず、え?と振り返ろうとした瞬間、世界が揺れて、眩しい光とともに何も見えなくなった…。
死んだと思ったら、生きていた。
目を覚ました彬は手当てされた状態で寝かされていた。しかし、見慣れた病院の様子とは違って、困惑する。清潔な白メインの部屋でカーテンに囲まれたベッドにいたわけでもなく、やたらと大きなソファに寝かされている。しかもそのソファは木彫の木枠で、古き善き時代の布を思わせる、高そうな布地のソファである。
部屋を見渡すと、これまた政治家が使いそうな重厚な木彫デスクや本棚が置かれている。書類も結構な量が重ねて何山も連なっていて、部屋の主は多忙なことが伺える。しかし不思議なのは、本棚の背表紙に一つも見慣れた日本語がないことだ。
彬はソファから起き上がり、本棚に近づき、よく見ることにした。
やはり一つも日本語がない。彬は外国語に疎いが、蔵書に読める言語がないことに疑念を抱けるぐらいの知識はあったので、不安に襲われた。
一体、誰が助けてくれたのか。ここはどこなのか。もしや大病院の院長の部屋かとも思ったが、それならかえってこの執務室風の部屋にいることがありえない。
何やら今後の展開が読めず、恐ろしい気もするが、自分には待つ以外の選択はないと考えたところで、コンコンと扉をノックする音がした。
はいと返事をしながら、ソファへと戻る。ノブを廻して扉を開けたのは外国人の女性で、その後ろには同じく外国人の男性が一緒だった。
彬は咄嗟に、(英語?!お礼って、Thank You?!軽くない?!丁寧なお礼って何?!)と頭の中が忙しくなった。しかし、くすくす、という笑い声とともに日本語が聞こえてきた。
「大丈夫ですよ、言葉は判るはずです。」
その言葉に安心し、二人の男女に目線を合わせる。
「あの、この度は倒れたところを助けていただき、ありがとうございました。宮野彬と申します。」
心底誠意が伝わるよう、最敬礼の角度でお辞儀をした。彬はお礼もそうだが、保険証が通じず、多額の医療費を請求されるのが怖かったので心象を良くしたかった…。
「どこか体の不調はありませんか?お怪我などは…。」
女性の自分を気遣う問いかけにほっとし、問題ないことを伝える。あとは、現状確認のために質問させて貰おうとすると、それまで横で控えていた男性が話しだした。
「みやのあきらさん、で発音はあっているでしょうか。」
低く優しい感じの声だ。
そちらに顔を向けると、そこには落ち着いた黒髪に、夜明け間近の空の色のような紺碧の瞳を持つ端正な顔立ちの男性がいた。彬はいまようやく彼がかなりの美形であることに気付き、慌てて女性を見返し、こちらもまた類い稀なる華やかな美人であることに気づいた。
先程までの緊張とはうってかわり、今度は極度の美形と対する緊張に彬は包まれる。男性は話を続けた。
「今後のあなたの生活ですが、こちらのリーゼロッテ様の補佐をして頂きながら、こちらの生活に馴染んでください。おいおい、みやのさんの事が知れ、パートナーをお選び頂けるようになるでしょう。衣食住はこの屋敷にてお過ごし頂けるように、準備させて頂きました。……あの、何か気に障る様なことを申し上げましたでしょうか。」
書類に目を通しながら説明していた男性は、ようやく彬の顔を見て、思った反応ではないことに気づいた。
「あの…、私は帰れないんでしょうか…。パートナーとは…。助けて頂いたお礼に、滞在して仕事をしなければならないのですか?え?そして…屋敷?」
彬の反応に、美形二人は一瞬目を大きくしたものの、それぞれ額に手をやったり、眉間を揉んだりと、二人も困っていることが判る反応を示した。二人の様子を見て、更に混乱する彬を尻目に、美人が溜め息をついた。
「…どうやら弟が説明不足のようで、ごめんなさい。みやのさんはどこまで話を聞いてるのかしら?」
彬は益々困惑した。
「弟さん…とはどなたでしょうか、やはり外国の方ですよね?…私、面識がないと思います。」
とはっきりと伝えた。すると美人のお姉さんは口許を引きつらせ、端正なイケメンは青筋をたてて笑顔のまま舌打ちした。彬は自分が弟を知らないと発言したことがよほど失言だったかと内心慌てるも、43才の年長者(二人は二十代後半から三十代前半と思えた)として、まずは先程の断言を謝罪し、確認するまでは本当に面識がないかはっきりしないのでとやんわりフォローし、まずは弟との対面を望んだ。
「…………一先ず、お茶でも淹れましょう。」
大きく溜め息をついた黒髪イケメンの言葉に、リーゼロッテという美人と彬は大きく頷いた。
さて、リーゼロッテの弟が現れたのは、黒髪イケメンが淹れた紅茶を飲み始めた頃だった。
「おつかれー。あのお姉さんは目を覚ましてる~?」
若く明るい張りのある声の持ち主、弟ことリュートルクはストロベリーブロンドにカラメル色の瞳を持つ、ザ・王子様という完璧な美しい顔立ちの男性だった。鼻血がでるかもしれない、と人生初の興奮に、彬は念の為鼻を押さえながら…年甲斐もなく叫んだ。
「絶対にお会いしたこと、ありません!こんなカッコいい人!!」
それほどの完璧な容姿であった彼は、聞き慣れているのか、綺麗に笑った。
「どうもありがとう。でも俺はいつもあなたを観てたけど。」
そして彼は意味深な発言をし、彬の顔を真っ赤に染め上げた。
ようやくここで、姉のリーゼロッテが、リュートルクを嗜めた。それもなかなかの負のオーラを発しながら…。
リュートルクがリーゼロッテに一通り注意され、ようやく説明を聞けることになった。
「彬さん、あなたは日本でいう異世界に来ました。ここはラテックルスという都市で、俺はここのそこそこ偉い貴族です。あなたが『年下のイケメンに溺愛されて毎日イキイキと暮らしたい』と仰ってたので、ぴったりだと思いお連れしました。魔法で移動したので、交通費はいりませんよ。」
彬は絶句した。
あんな言葉を一字一句間違えずに言われたことが恥ずかしい上に、とんでもない美形に聞かれていたことに、貧血になって倒れる思いだった。穴に入りたいとはこの事だと人生初めて思った。
さらに追い討ちをかけるように、リーゼロッテに
「いけめん、とは何かしら?」
と聞かれた端正な顔立ちのイケメンが
「あちらの言葉で、見目麗しい紳士的な男性のことらしいですよ」
と答えていたのが聞こえ、更に心臓が締め付けられた。本日二度目の死亡を意識した瞬間であった。
お読みいただき、ありがとうございました。
次も楽しみにしていただけると嬉しいです。
皆様の、いいね!ボタン、ブックマーク、優しい感想でテンション上がります。いつもありがとうございます。
どうぞ宜しくお願いします。