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エピローグ「それぞれ、贈り物を身に着けて」


 完成したセーターを渡しに行っただけなのにとんでもないことに巻き込まれた私だが、結局はそれが大きな勢いとなって、春を迎える季節には結婚という流れになっていた。

 それには私とクレイ、二人の熱い想いと行動力だけでなく、強くて逞しくて、そして少しばかり敏感な右腕の“おかげ”か、このお腹に宿った新しい命の影響も多大にあるだろう。

 思い返すと苦笑が混じる程度には自分も反省はしているのだが、どうにも彼を『そういう意味でイジメる』というのが楽しくなってしまったのが一番の問題だった。だってあんなに“大きい”んやもん。もちろん変異した腕のことやで。当たり前やんえっち。

「結婚式は出産の後だな。それにしてもそのセーター、いつになったら完成するんだ?」

 二人で軽い昼食をとりながら、クレイが式場のパンフレットをパラパラとめくりながら聞いてきた。

 あの日、自らの企みが露見したことを悟ったモリスは、そそくさとその企みを妻に明かして謝罪した。頭の回る実に彼らしい行動力には、私もクレイも開いた口が塞がらなかったが、長年彼の妻をしているエレアナ先生は違った。

『謝るなら、あたしにじゃなくて二人にやろ!? 罰としてモリスの負担で結婚式やね。あ、もちろん式場は中央でな』と大笑いし、違う意味でモリスのことを――あのモリスのことを絶句させたのだった。

 ちなみに後日、私と二人きりの時にエレアナに尋ねたところ、やはり何か企んではいると勘づいてはいたらしい。だが、まさかそんな大事だとは思っていなかったらしく、彼女の方からも謝罪されてしまった。

 私としてはこんなことがあっても、二人とは今まで通り仲良くしていきたいというのが本音だった。そして大人な二人は、それを了承してくれた。

 夫婦間で、きっと話し合いがあったことだろう。そして、夫婦はこれまで通り、仲良し夫婦として診療所をこの地で営むのだ。嫌々かどうかは知らないが、モリスもその後『あれからマルスから捨て台詞を言われたよ。先輩もイントネーション、大概おかしくなってますよって。だから、諦めた』と笑って言っていた。

 そういう経緯があり、私達は魔術師達を許した。起こってしまった過去をいくら言っても変えられないことを、私達は知っているから。

 私の指に光るオレンジ色の光を眩しそうに見詰めて、モリスは約束してくれた。『僕も、リグちゃん達と同じように、生まれ変わった気持ちで考えを改めるよ』と。

 彼は私の指輪のことを知っていたようだ。さすがはモリス先生っ! とひとしきり騒いで、水に流すのだと気持ちを伝えた。その行為にモリスはもう一度深々と頭を下げた。

「これなぁ……日にちが経てば経つ程お腹周りが広がるんやけど、どの日基準で作れば良いか迷ってもて、気が付いたら春物の時期になってもてん……」

 何度も何度も編み直し、この前なんて毛糸の種類まで変えた。季節が暖かくなる時期に、冬物は暑すぎてとても着れないだろうから。

「せっかく俺は、嫁さんとお揃いのセーターを着るのを楽しみにしているのにな」

「もう! あんたのは超特急で仕上げたんやから許してやー」

 そんな甘い甘い夫婦の時間を過ごしながら、今私達は診療所の隣に小さな家を建てて暮らしているのだ。



 END


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