帰路
「もうきれいごというのはやめにしてよ」
「...え?」
僕は突然のことに目を見開くことしかできなかった。
「正直、君の自分語りにはうんざりなんだよ」
彼は遠い空をみながらはっきりと言った。
「え?ハハハ?」
引きつった笑顔を浮かべることで精一杯だった。
「俺は今後一切、お前のことを無視する。まあ、最近もそうしてたけど」
彼は一切、僕に顔を向けずに淡々と歩く。
「他のやつだってそうするだろう。だけど悪いのはお前が空気読めないからなんだぜ」
一瞬、馬鹿にするような笑みで僕を横目で見る。
ああ、彼の顔が人でないように見える。喋るし見るし歩く。だけどそこには何の感情もない人もどき。
そうじゃないならなんでこんなひどいことができるのだろう。
僕だってわかっていたさ。君の言ったことに必死に僕が答えても君は表情一つ変えない。
君には僕の言ったことが何も伝わっていない。だって僕は君のことなんてどうでもいいんだから。
君が笑ったって泣いたって僕のことじゃない。君と僕は違う人間だ。僕は君の言ったことを聞いているふりをして、僕は君に僕の思っていることを言うだけだ。
君がそれに嫌悪感を抱こうが違和感を抱こうが知ったこっちゃない。
僕は僕の思ったことを言えれば十分なんだ。
彼は何も言わず通学路を歩み続ける。
この現実のような夢、日差しの清々しさ、踏み込んだ足を跳ね返すアスファルト、横を走る車、どれも形だけのおもちゃに過ぎない。
彼の体を思いっきり押した。
タイミングよく大型トラックがこっちに来ているからね。
最後に僕を見た彼の眼はいつもの冷えたものだったが、口はあんぐりとした間抜けなものだった。
僕のことを無視するなんて腹立たしいね。