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コモドの帰還  作者: Lance
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コモドの帰還70

 逃げはできるが隠れはできない。ウルスラグナ平原は広大だった。かつて国境だったここでクルー王国は内応者のために正面から戦うことなくインバルコ帝国に敗北している。コモドはその後、解放軍として実際にインバルコ帝国と剣を交えたが、そこまで兵は鍛えられ戦に強いとは思わなかった。カツヨリや一番少ない兵を率いたフラマンタスもそう言った。

 フリード王子が総大将となり、コモドの大きな役目は終わった。後は一武将として民兵と共に戦いに身を投じるのみだ。

 これから始まる戦は文字通り、力と力のぶつかりあいだろう。

 だが、総大将フリード王子は陣に集まったコモドら諸将に向かって言った。

「国境には金山がある。それを言い分としてインバルコは戦争を仕掛けて来た。戦争など起こらない方が良いに越したことはない。金山を差し出す旨を帝国側に伝えようと思う。どなたか軍使として赴いては貰えないか?」

 即座に手を上げたのがソルド兵士長だった。

「私が行きましょう」

 その言葉にコモドは反論した。

「もしもの時があったらいけない。戦に勝っても王子の信任厚いソルド兵士長がいなければ国の基盤が成り立たない。それに佞臣っていうんだっけ、そういう奴らが蔓延るかもしれない。だから、俺が行きます」

「コモド殿、だが」

 カツヨリが口を開き閉じた。もう分かっているのだ。総大将の座を譲り渡した時からコモドは辛うじて武将の末席に加えられている村人でしかない。コモド自身もそれを理解していた。命は等しいものだと言うが、人々の未来を考えればこの場で失われても損失が少ない命の持ち主はこのコモドでしかない。

「行ってくれるか、コモド殿」

「仰せのままに。お任せください」

 コモドはそう言い頭を下げた。



 2



 フリード王子の書状を手に、コモドはシグマとイシュタルを連れて、平原を東へ疾走した。

 身を隠せぬ野原にインバルコの兵が見えたのは一時間も後のことだった。

「何者だ!?」

 帝国の兵らが目敏く気付き、コモド達の周りを槍で囲んだ。

「クルー王国、王子、フリード様の軍使として書状を携えて来た。そちらの総大将にお目にかかりたい!」

 コモドが馬上で言うと部将らしき者が現れた。

「やはりフリードめは生きていたか。書状をよこせ、どうせつまらない内容だろう」

 部将が手を出すとコモドはかぶりを振った。

「総大将宛ての手紙です。直接御拝謁賜りたい」

「生意気な。来い、案内してやる」

 部将は兵から馬を取り先に発って進み始めた。



 3



 インバルコ兵もまた全てが騎兵というわけではなかった。騎兵の突撃は大きな被害をもたらすだろう。兵力も同等の様に見受けられる。士気はまずまずあるようだが、コモドは見破っていた。武器の扱い方がしろうとだ。これは徴兵された者達だろう。天秤がどちらに傾くか分からない戦になるだろうか。

 物珍しい様に素朴な目を向ける兵達の間を進み、部将が声を上げた。

「陛下、敵の軍使です。陛下に書状を携えて来たと言っております」

「会おう」

 まるでうんざりしたような声がし、部将に倣って馬から下りて、他のインバルコの武将達の居並ぶ中をコモド達は進んだ。

 インバルコの皇帝は王冠を抱き、鎧は黄金色だった。真紅のマントに身を包んだその姿は煌びやかで神々しくも見えるだろうが、纏っているのは老人だった。

 だが、皺の奥深くに隠れた眼は鋭い光りを放っていた。

 左右に居並ぶ武将らも格好だけはひとまず立派だった。先の戦いでは内応無しでは勝てない戦だったとすると、彼らもまた大したことはないのかもしれない。

 コモドは緊張もせずに進み出し、帽子を取り片膝をついて書状を差し出した。

 それを側近が受け取り、言った。

「そこの者、頭が高いぞ!」

 シグマは立ったままだった。

「シグマさん」

 イシュタルが注意し、促したがシグマは気にも止めない様子だった。

「まぁ、良い。そのぐらいの非礼は見逃してやろう」

 皇帝はそう言うと書状を自ら短剣で開封した。大振りの豪華な装飾の短剣だった。

 インバルコの皇帝は身を飾ることが大好きらしい。だが、それらが仮初めの威厳を感じさせるのも確かだった。金山の件を見ても引かないだろう。この皇帝は大陸全てを金で染め上げるのを野望としているようにも思える。

「クルーの子倅は生きていたか」

 皇帝は書状を下ろしてぼやいた。

「良く聞け」

 皇帝はコモドらに向かって言った。

「余はこの大陸の覇者だ。人も物も全てが余のものだ。その覇者に向かって愚かにも弓引くドブネズミどもが、余と対等に交渉できるなどと、思いよるとはまことに不愉快極まりない。金山をくれてやるだと? あれもまた余の物だ」

 馬上の皇帝は手紙を隣にある篝火に突き入れた。

 コモドは怒りを感じた。この瞬間にコモドらはドブネズミ、それ以下と同等に扱われたことが決定的となった。

「こ奴らを捕らえよ。大して価値は無いが、その首を返事とする」

 皇帝の命令に、コモドとイシュタルは立ち上がった。

 左右の武将らが剣を抜いてジリジリ迫って来る。

「そうかい、お返事承った」

 コモドはそう言うと帽子をかぶりクサナギノツルギを抜いた。

 シグマも抜剣し、イシュタルも戟を頭上で旋回させ唸らせていた。

「何をしている! 捕らえよ!」

 皇帝が声を上げると武将らが斬りかかって来た。

「二人ともほどほどにね。脱出するのが目的だから。そのついでに王子の元に集ったのは精鋭ばかりだと思い知らせてやろう」

 コモドはそう言うと向かってきた一人の刃を剣で叩き割った。そして瞠目する相手に向かって微笑んだ。

 イシュタルは戟で数人を薙ぎ払い、シグマは二刀流で圧倒し敵将を蹴倒していた。

 まだこちらから血を見させてはいけない。自分達は代表なのだ。ケチな戦いで殺戮劇を披露するつもりはない。それこそフリード王子の顔に泥を塗るだろう。

「であえ、であえ! このようなドブネズミになんたる様か! 絶対生きて返すな!」

 役に立たぬ武将らを見て恐れを感じたのか皇帝が慌てた様子で声を上げた。

 武将らと打ち合いつつコモドらは後退する。

 殺到してきた兵士らをイシュタルの戟が鼻先を掠めると、敵兵は動揺し攻めあぐねていた。

 コモドらは馬に跨った。そしてインバルコ帝国の陣営を風の如く駆け抜け自陣を目指して帰ったのであった。

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