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コモドの帰還  作者: Lance
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コモドの帰還69

 ロベルトとパパス率いる民兵一万は二日後に到着した。

 朝日が上る中、民兵らは急行してきた。

 見張りからの報告を受け、コモドはロベルトらに戦が終わったことを知らせるのを忘れていたことを思い出した。

「おいおい、俺達はお前らが窮地だっていうから朝も昼も晩も駆けて来たんだぜ!」

 謝罪したコモドにパパスが息を荒げた。ざっと見たところ民兵は五百に満たない。

「三週間だ。たったそれだけではそう上出来にはならんさ。落伍した者も後から来る」

 ロベルトが言った。

 約一万の兵士が全て揃ったのは、その日の夕暮れだった。誰もかれも息も絶え絶えで、これでは救援に来たところで無駄に命を散らしたかもしれない。だが、夕日に輝く一万の兵士は櫓から眺めて壮観だった。

 これは心強い。

 もう一日休んでからウルスラグナ平原へ行くことに決まった。



 2



 総勢一万一千の軍勢が出立した。

 ウルスラグナ平原へは平和な行軍だった。

 その間にコモドは馬上で悩んでいた。

 フラマンタスは良しとしよう。だがカツヨリがクルー王国の後継者フリード王子存命のことを知れば何と言うだろうか。ヒャクシキの腰に縛り付けてある大きな箱を見ながらその心配は募るのであった。

 二日が過ぎ、昼頃、だだっ広い平原に着くと、そこには既に北と南にサラマンダーの旌旗が掲げられていた。

「どうやら、我々が最後のようですね」

 グリーザが隣で言った。

「グリーザ殿、少しの間だったけど、あなたは抜群の功を立てた。命も恐れず民のためによく頑張ったと思う」

 コモドが言うとグリーザがこちらを凝視していた。

「来て欲しい。協力してくれたヤトの国の国主カツヨリ殿と、教会戦士団のフラマンタス副団長に会わせたい。そこであなたは決意表明をするのです」

 コモドが言うとグリーザはバイザーを上げた。

 琥珀色の瞳が強い輝きを見せていた。

「よろしくお願いいたします」

 若き王子はそう述べた。



 3



「おう、コモド殿、遅かったな」

 真紅のヤトの甲冑に身を包んだ大将、カツヨリがそう言って一同を迎え入れた。

「しかし、貴殿の選んだ道が一番険しかった。それをよくぞ、踏破してくれた。さすがという他にあるまい」

 カツヨリは上機嫌だった。

 フラマンタスは頷いてコモドに微笑んだ。

 居並ぶ将達の前でコモドは覚悟を決めた。彼の隣に立つグリーザだってそうだろう。そのために連れて来た。

「カツヨリ殿、みんな、聴いて欲しい」

「ん?」

 コモドの生真面目な顔にカツヨリの表情が訝しむように変わる。

「クルー王国の後継者は生きていました」

「そうか」

 カツヨリは短くそう答えた。もっと驚くものだとばかり思っていた。コウサカとマサツネ、ヌイ、ウルフ、ロベルトとパパスが驚いていた。

「その隣に立つ御人だな?」

「ええ」

 するとグリーザは兜を脱いだ。

 銀色の長い髪が揺らめいた。

「カツヨリ殿、方々、我が名はフリード。クルー王国王子です」

「まずは御無事で何より。それで貴方は、クルー王国を再興なさるつもりか?」

 カツヨリが問う。

「そのつもりです。もう、長く続いた愚かしい国風には終止符を打ち、ここから民を守る国へと変わりたいと思っております」

「ふむ」

「カツヨリ殿、フラマンタス殿、方々、どうか、クルー王国再興のために手を貸してください」

 フリード王子が言うと、カツヨリが待ったをかけた。

「コモド殿、貴殿はそれで良いのか? この連合の総大将は貴殿だ」

 コモドは頷いた。

「フリード王子は短い間に自ら陣頭に立ち、抜群の功を上げました。民を思わなければできぬ無茶もなさいました。俺は、フリード王子に王者の風格を見ました」

 コモドが言うとカツヨリはコモドを注視した目を王子へ向けた。

「コモド殿がそこまで肩入れするのなら我らにいうことは無い。フラマンタス殿はどう思われる?」

「コモドがクルー王国の再興のために戦いたいと言うなら手を貸すまでです。カツヨリ殿が手を引かれると言っても我々はコモドが有る限りフリード王子と共に歩むでしょう」

 フラマンタスは冷静な声でそう言った。

「分かった。フリード王子。貴方に手を貸そう。これより、連合の総大将はフリード王子、貴方だ。よろしいか?」

 カツヨリが強い口調で言うとフリード王子は応じた。

「分かりました。総大将として皆様、全ての兵の命を預かります」

 フリード王子が決然として言う。

 カツヨリは破顔した。

「よろしい。ならば、インバルコが揃うまで日数もあろう。前祝いとゆこうでは無いか」

「あ、待って、その前に」

 コモドは慌てて飛び出し抱えていた大きな箱を開いた。

「何だ、コモド殿、それは?」

 カツヨリが問う。

「これはですね。フラちゃん手伝って」

 コモドは布の端をフラマンタスに渡し、折り畳まれたそれをゆっくりと引っ張った。

 それを見たフリード王子とソルド兵士長が驚きの声を上げる。

 国旗だった。彼らには懐かしいものだろう。白地の真ん中に兜とそれを照らすように太陽の紋章が描かれていた。

 クルー王国の国旗だった。

「コモド殿!」

 フリード王子が声を上げた。

「仕立て屋に頼んでました。気に入って頂けたら嬉しいですが」

「まさかこの国旗を掲げて再び戦場に挑めるとは思わなかった」

「これからは連合軍の軍旗はサラマンダーから兜と太陽の旗に変わります。さぁ、さっそく旗を立てましょう」

 コモドが言うと王子は深く頷いた。

「ありがとう、コモド殿」

 二人は固い握手を交わしたのであった。

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