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コモドの帰還  作者: Lance
66/73

コモドの帰還66

 備えはしていたようだが、敵兵は不意を打たれた格好になった。

 コモドと、シグマ、従う者達が次々敵を斬り殺す。

 しかし、それも一瞬のことだ。数で優る敵は新手が続々と穴から現れ、数で不利なコモド達は次第に膠着状態から不利な方へと追いやられた。

 ウルフもヌイも来ない。状況は向こうも同じだということだ。

「モグラどもめ」

 シグマが低い声で唸り、篝火に照らされた正面の敵に向かって突撃する。我武者羅に二刀流を操っている様に見えるが、シグマにはシグマの我流奥義というものがあるようにも見える。

 シグマが散らした敵をコモドらは慌てて相手取り上手くいけば片付ける。しかし、追いつかない。幾ら斃しても斃しても敵は湧いてくる。

 ヤトの侍も民兵らも死力を尽くして戦っている。

 このままじゃ、全滅だ。

 コモドは脳裏を過ぎる不吉な言葉が現実味を帯びて来るのを感じていた。

 そこへ鬨の声が上がった。

 町の中からだ。

「コモド殿をお助けしろ!」

 騎馬が四騎駆けて来る。その後を大きな地鳴りが続いた。

 馳せ参じたのはグリーザだった。部下の三騎と他には武装した町の者達だった。

 五千程いる敵は四方、四手に分散している。そのため、一手、一手は千ほどの人数だろう。それが限られた穴を潜って来る。人数が揃うには時間が掛かる。そう見れば俄かに数を増したこちらの方が有利だ。練度はともかく、人数では追いつける。

 グリーザが馬から下り、コモドに並んだ。

「グリーザ殿、助かりました」

「いえ。ここを片付けウルフ殿やソルドを助けましょう」

 その言葉にコモドは力強く頷いた。

「インバルコのネズミどもを我らが町より駆逐せよ!」

 グリーザが剣を掲げ咆哮を上げる。

 兵が民が声を揃えて応じた。

 コモドは思った。グリーザには王の気質と資質がある。彼になら王座を任せられる。

 新たな戦いが起こる中、コモドも勇躍し、クサナギノツルギを振るった。



 2



 頭上で回転する戦鎚が唸りを上げる。

 ヤトの武者と民兵が弾かれ飛んで呻きを上げる。

 穴から現れたのは身の丈二メートル程の大男で篝火が照らすのは厳めしい髭面だった。

「我が名はジオウ! インバルコ帝国の威光に平伏せ、ドブネズミども!」

 フラちゃんよりは小さいけど、大きいね。

 戦友の巨体を思い浮かべれば目の前の敵などに恐れは抱かないコモドであったが、それは彼だけだ。民衆は元より、民兵やヤトの侍まで近付けぬ有様である。

 仕方が無い。コモドが踏み出そうとした時だった。

「我が名はグリーザ、クルーの騎士として多くの同胞の仇を討たせてもらおう!」

 グリーザが長剣を引っ提げ進み出た。

「グリーザ様、無茶です! まずは我々が!」

 精兵三騎が声を揃えて飛び出そうとするが、グリーザは振り返らず手を伸ばして制した。

「ほほう、クルーの騎士か。だが、若造が、温室育ちの俄か剣法でこのジオウをやれると思うなよ!」

「温室育ちの剣法か、その命で確かめるのだな! タアッ!」

 グリーザが挑みかかった。

 剣と戦鎚がぶつかり合い火花を散らした。

「ここは頼むよ」

 コモドは三騎士に向かって言った。

「承知しました、コモド殿」

 三騎士は固唾を飲んで主の戦いを見守っていた。

 その間に、コモドは僅かの間に増えすぎたアナグマ退治に移った。

 シグマは離れたところで孤軍奮闘していた。彼の猛獣顔負けの唸り声や咆哮が届いていた。狂人シグマに戻ったようにも思わせる。

 ヤトの侍が先陣を切り、再び戦いが始まった。

 クサナギノツルギが籠手ごと腕を落とし、胸甲を割る。

 民兵の槍が敵兵を刺し貫き、ヤトの侍の豪剣が兜を粉砕する。民衆は多勢で気勢を上げて敵を押し包んでいる。

 嵐の如く刃が動き煌めき次々敵の命を絶つ。亡骸は踏み拉かれ、新たな死者が折り重なる。

「みんな、怯むな! 圧し潰せ!」

 月も星も覆い隠された夜空の下、倒れて散らばった篝火に照らされ、コモドは声を上げ続けた。

 穴からは未だに敵は這い出て来るが、怒り狂った民衆に鈍器でボコボコに殴られ打たれ、穴の中でうずくまり、悲鳴を上げて、それ以上、進まなかった。

「ええい! 何をしておるか!」

 ジオウが自軍の様子を見て叱咤する。

「隙あり!」

 グリーザが長剣を突き出す。ジオウは危ういところで戦鎚で受け止めたが、まるで力に目覚めたかと思わんばかりのグリーザの常軌を逸した猛連撃に武器を合わせるのがやっとだった。一方的な火花が散る。そしてグリーザの気合いの一撃が戦鎚を圧し折った。

「ぬうっ!?」

 するとグリーザはジオウに剣を向け声を上げた。

「捕縛せよ!」

 三騎士が駆け付け尻もちをついたジオウを取り囲み、掴みかかった。ジオウは暴れ、もがいたが、三騎士は歯を食い縛り、懸命に敵将を押さえつけてその手に縄を通した。

「放せ! 放さんか!」

 敵将ジオウが尚も暴れ叫ぶがその鼻先にグリーザが剣を突き付けると大人しくなった。相手は切っ先から辿り、グリーザを見ていた。

「愚か者、我が剣が温室育ちの俄か剣術で無いことがこれで分かったか。次に暴れたらその首は胴から離れると思え」

 グリーザが敵将を見下ろし厳かな声で言った。三騎士がいそいそとジオウを縛り上げている。そしてグリーザはコモドを振り返った。

「コモド殿!」

「グリーザ殿、お見事です!」

 コモドは賞賛した。

 場も盛り返し収まって来た。

「ここはあなたにお任せします! 俺達は他を、まずはヌイさんとソルド兵士長の方を!」

「分かりました。御油断なく!」

 グリーザの言葉にコモドは頷き、合流した返り血だらけの凄まじい姿のシグマと、半数の兵を率いて他方の救援に向かった。

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