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コモドの帰還  作者: Lance
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コモドの帰還65

 住民らを宥めて協力を取り付けたが、ものの数分で櫓上から声が上がった。

「敵勢の影が見えます!」

 程なくして馬蹄が地を鳴らした。

 コモドは正面近くの櫓に上った。

 総勢五千。海のように広がり一匹の生き物の蠢いている。三階建ての建物程の防壁を越す櫓の上から眺めてコモドは緊張を覚えた。

「住民に告ぐ! 再び帝国に寝返れば普通の市民としての身分を保証する!」

 大音声で敵勢の真ん中辺りから声が轟いた。

 住民らは黙ったままだ。

「貴様らのペテンに賢きクルーの民衆が騙されるものか! それ矢を放て!」

 隣の櫓でグリーザが声を上げた。

 幾十もの櫓から矢が撃たれ、敵勢が軽く動揺する。今はまだ射れば誰かに当たる状態だ。

 この町は入り口は一つで四方を壁に囲まれている。敵方を見れば攻城兵器も無い様子だ。時間をかけてロベルトら一万が来るまで粘って挟撃できれば勝てる戦だ。民衆は家屋へ避難し始めた。

「戦うだけ無駄だ! 引き返すが良い!」

 グリーザが言うと敵大将は声を上げた。

「矢を撃て! 彼奴を黙らせた者には褒美を取らす!」

 五千の兵が三段構えになり、次々矢が唸りを上げて飛んできた。

「グリーザ殿、下りて!」

「いいえ、退けません! ここで矢に貫かれれば私はそこまでの男だったということ。運は天にあり! 怯むな、撃て!」

 若者の咆哮が轟いた。

 矢の応酬が始まった。

「コモド殿、ここはグリーザ殿と私が引き受けます、さぁ、総大将は下りて、危険です!」

 マサツネが下で言い、コモドは梯子を下りた。

「これだけで済むでしょうか?」

「断言はできませんな。注意深く観察いたしましょう」

 そう答えてマサツネは梯子を上って行った。

 そのまま撃ち合いが始まり、暗くなっても敵は滅法に矢を撃って来た。

「攻撃を中止せよ!」

 グリーザが声を上げる。櫓は限られていてコモドらは下で様子を見ながら、敵の取りそうな手段を考えあぐねていた。

「マサツネ殿! 気付きましたか!?」

 グリーザが問う。

「いや、何かあったか!?」

 マサツネが尋ね返す。

 コモドやウルフもグリーザの言いたいことが分からず、矢が降って来る中、次の言葉を待った。

「射られる矢が目に見えて少なくなりました」

「そう言われれば」

 マサツネが唸った。戦の開始時のような嵐のような勢いも数も無く緩慢なものだった。コモドは思わず手近の櫓に駆け上がった。

 暗くて敵の様子が見えない。敵は篝火一つ焚いていなかった。

 嫌な緊張がコモドの背筋を撫でた。

「今になって撤退を始めたのか?」

 ウルフが問うが、誰も応えられなかった。

 敵勢が鬨の声を上げた。

「何だ!?」

 マサツネが弾かれたように前に向き直り、弓矢を構える。

 敵は大音声で歌を歌っている。だが、と、コモドには気付いた。五千で歌うには声が少なすぎる。音楽と耳には自信がある。この声の数、精々千ぐらいだろう。

「負け惜しみでしょうか?」

 ヌイが尋ねた。

「夜襲を掛けようにも敵がこの状態なら備えはあると見て良いだろう。むしろ、この歌、自信に漲っている様に思う」

 ソルド兵士長が言った。

「歌ってる人数は千ぐらいだね」

 コモドが下りて言うと、皆、篝火に緊張の面持ちを見せた。

「自信に漲った残りは何処へ?」

 ヌイが尋ねる。

 コモドらはただただ翻弄されるばかりであった。

 歌は止み、矢が射込まれる。そしてまた歌が続く。頑強な門扉を叩く音もした。コモドも誰もが冷静ではいられなかった。音が矢が歌が、不安を募らせて来る。この闇に紛れて敵勢の大半は何処へ姿を消したのだろうか。

「千程度なら蹴散らせないわけでも無いが」

 マサツネが言い淀む。その千とも互角の戦いをすることになるだろう。勝敗まで時間が掛かり過ぎる。

「この闇の中、確かに敵は何かを仕掛けてきているはずだ」

 ウルフが言い、腕組みする。外からは何十回目かのインバルコ帝国の歌が唱和された。

「む? いかんな、敵のペースに乗せられた。我らは正面から来るものと思い、こうして全員が集っている。他は壁は高けれど、櫓もない。無防備な状態だ」

 ウルフは言葉を続けた。

「これは陽動かもしれぬ! ならば虚を衝こうとするはずだ! コモド殿とシグマ殿は北へ、私とイシュタルさんは東へ、ヌイ殿とソルド兵士長は西へ! とりあえず、城壁越しに探って下さい! 今まで無駄な時間を過ごしてしまったかもしれない!」

 一同は頷いて散った。

 コモドはシグマと共に五十人の兵を連れて、全員が馬に跨り北へ走った。

 そして驚くべき光景を目の当たりにした。

 篝火が煌々と焚かれ、インバルコの兵が城壁の下から次々飛び出ていたのだ。地面にぽっかりと穴が幾つも開いている。敵はその中を潜ってきていた。今は二百名ほどだろうか。周囲を警戒している様子だ。

「穴を掘るなんて思わなかったよ」

 家屋は無い。身を隠すのは薄闇のみであった。その中でコモドは思わず感嘆し、各所へ急ぎ伝令を差し向けた。

「シグマ、行ける? 敵も数が揃うまで戦う様子はないみたいだけど」

「大将らしくしろ」

「あ、うん。そうだね。よし、全軍突撃!」

 コモドはシグマと四十名ほどの民兵と侍の混成部隊と共に敵へと襲い掛かった。

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