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コモドの帰還  作者: Lance
60/73

コモドの帰還60

 街道は兵で埋め尽くされた。

 左右から斬り進む伏していた兵達。勝機を見誤り命を落として行く敵兵達。聴こえるのは怒声のような威勢のある声と悲鳴と断末魔と馬の嘶きだった。

 コモドはその様子を眺め、肩で息をしていた。

「この様子なら勝ちは見えましたな」

 マサツネが声を掛けて来た。赤い鎧では返り血が分かり難かったが、コモドは一瞬、地獄の赤鬼が声を掛けて来たものと勘違いしそうになった。

「疲れた……」

「ええ。しかし、見届ける義務がありますぞ。シグマ殿ここをお頼み申す」

 マサツネはそう言うと、生き残った囮部隊を率いて伏兵に合流しに向かった。

 そうだ、俺は総大将だ。命を散らす人々の生き様を最後まで見守る責任がある。疲れている場合ではない。

 コモドは己を叱咤した。

 ウルフとイシュタルもいなかった。隣にシグマとソルド兵士長の精兵四騎がいるだけだった。

 精兵四騎をコモドはまじまじと眺めた。一人は兜のバイザーを下ろしていて見えないが、他の三人は全員若い。コモドより少し年下のように見えた。

 改めて戦場を見る。もう、一時の活気は失せていた。敵兵も味方の兵で遮られ姿は見えないが、戦い自体は続いているようだ。

 程なくして、民兵の伝令が駆け付けて来た。

「コモドさん、敵は壊滅して、残りは降伏した」

「分かった」

 コモドは安堵した。勝てたのだ。苦しい戦いだった。犠牲も出た。脳裏を幾本もの刃の突き立った兵の姿が過ぎった。見限ったヤトの兵だ。何人死んだだろうか。これで良かったのだろうか。

 罪悪感が今頃になって支配し始めた。勝鬨を上げる味方の姿を見ながらも彼の目は何も見ていなかった。



 2



 村に入ると、民衆はまずは警戒していた。そんな民達を懐柔するために自分達の素性を話す。いつもなら意気揚々とコモドが得意としたところだが、今日はウルフが代わりに説明していた。

 ヒャクシキを兵に預け、コモドら主要人物は精兵四騎に堅く守られた集会所の中にいた。

「勝てて良かった」

 ウルフが言った。

「その通りですな」

 マサツネが満足気に頷く。

 ヌイも何か言ったようだが、コモドには聴こえなかった。仲間達の声が遠くに聴こえる。気付けば目の前が暗転し、コモドは暗闇へと落ちていた。



 3



 コモドは自分が眠っていたことに気付いた。

 解放した村のどこかの家を借りたのだろう。暗かった。コモドは再び眠りに落ちた。

 目を覚ました時にはカーテンの隙間から灯りが漏れていた。それがちょうど目に掛かり、コモドは目覚めた。何か夢を見たかも知れないが思い出せなかった。

「コモドさん」

 優しい声を掛けられ、見るとヌイがイスに座り、枕元にいた。

「ヌイさん、俺っち、いつの間にか寝たみたいだね」

「気にせず、ゆっくり休んでください。お水をどうぞ」

 水差しを渡され、コモドは水を吸った。すっからかんの胃に水が落ちるのを感じた。

 コモドの脳裏をあのヤトの兵の姿が過ぎった。彼は死んでしまっただろう。

「ヌイさん、犠牲者は出た?」

 その言葉にヌイは顔を強張らせた。それで分かった。戦死者が出た。

「教えて」

 ヌイは迷いを見せた後に口を開いた。

「死者は十七名。重傷者はいませんが、軽傷の者が多数います」

「死んだ人はみんなヤトの人?」

「ええ」

「みんな囮部隊だった人?」

「……」

 黙していることが答えだが、ヌイは小さく頷いた。

「そっか……」

 コモドは不甲斐なさに身体が熱くなった。悔しかった。みんなで平和を噛み締めたかった。自分はそのように導けなかった。

 涙が溢れ出て来た。

「泣いている暇はありません」

 ヌイが声を震わせて言った。思わぬことにコモドは呆けて彼女を見た。

「戦争には死者はつきものです。今更、覚悟が足りなかったなどとは言わせません! あなたは人々のために立ち上がったのでしょう? ならば、平和を掴み取って下さい! 彼らの死に報いるためにも!」

 ヌイの言葉は鋭かった。コモドは心臓の鼓動が早くなるのを感じた。するとヌイは気付いたように、目を伏せた。

「すみません」

「良いんだよ、ヌイさん。今は俺は振り返らない。前に進むよ。さぁ、食事にしようか」

 コモドが言うとヌイはコモドを抱き締めた。彼女の起伏のある胸に顔を埋め、コモドは久しぶりに懐かしさを感じた。クレハが待ってる。

「立派な御覚悟です」

「獅子奮迅頑張るよ。死んでしまった仲間達のためにも」

「ええ」

 そうして二人は連れ立って外に出る。廊下にはシグマが壁に背を預け腕組みして立っていたが、こちらの様子見ると、気怠そうに身体を起こした。

「シグマ、迷惑かけたね」

「貴様は弱い」

 シグマの言葉にヌイが反論しようと身を乗り出したが、コモドが止めた。

「そうだね。その通りだよ。だから少しでも強くあろうと努力する」

「フン」

 三人は外に出た。精兵四人衆が見張りに就いていた。彼らは身を正し、敬礼した。だが、やはり一人だけバイザーを下ろしたままだった。別に構わない。俺は王様では無いのだから。

「御苦労様」

 それから外で炊き出しが行われ、コモドはヤトの握り飯を食べて元気を取り戻した。握ったのはヌイだった。食べられるものなら食べてみろと言うような大きな握り飯だった。塩が少々効いていて、米は甘い。

「お米って良いね。ここでも作れるかな?」

 コモドが問うとヌイは分からないと応じた。

「今度、ヌイさんにケーキ焼いて上げるからね。生クリームたっぷりのイチゴを盛り付けた、特性のデコレーションでね」

「それは楽しみです。クレハさんがコモドさんとケーキ屋さんを開くのが夢だと言ってました。ケーキがどういうものか分からないですが、楽しみにしてます」

 ヌイが微笑んだ。

 大根の漬物を食べ、海草を戻した味噌汁を啜る。身体中に力が漲る。

「よし、準備万端だ! ヌイさん、主要な人達を集めて。今後の戦略を練ろう!」

 コモドは叫ぶように言った。

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