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コモドの帰還  作者: Lance
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コモドの帰還57

 虐げられた人々は解放軍を快く受け入れた。連戦連勝で民兵もヤトの兵も浮足立っている様に見える。コモドがやるべき役目だったが、気の緩みをヤトの若き大将マサツネが叱咤した。これだけでヤトの兵は平静を取り戻したが、民兵の気の緩みは著しかった。ここまで共に歩んで来た同志を叱ることにコモドは抵抗を覚えていた。

「コモド殿、リュウ将軍を覚えているか?」

 ウルフに言われた。覚えている。ウルフが何を言いたいのかが分かった。民兵達が英雄の如く傲慢になり力持たぬ人々を傷つける前に注意しなければならない。

 コモドは三百の民兵を町の外に集め、演説した。自分達が何を守るために戦っているか、今一度、思い出して欲しいと訴えた。民兵達は己の浮かれ具合を自省したようでコモドは安堵した。

 輜重隊の食料を民衆に配り、ここをマサツネに任せコモドは斥候に出ることにした。

 大将自ら出ると言うので兵も将も止めたが、コモドはたまには身軽になりたかったのだ。重責をマサツネに擦り付けるようで悪いが、コモドはシグマとウルフを連れて三人で偵察に出た。

 馬を走らせる。誰も待たず自分のペースで走れるのは心地良かった。シグマとウルフが左右に並走する。

 地図によれば村があるようだ。先の戦いのことも敵には知れ渡っているだろう。放棄するか、戦を望むならその兵力をつぶさに見る必要がある。

 と、その時、シグマがコモドに跳び付いた。

 コモドは馬から落ち、シグマと共に地面に転がって立ち上がった。そこへ短剣が幾つも正確に投擲される。

 シグマが押さねば、コモドは身体中を貫かれていただろう。

「何者だ!?」

 ウルフが馬上で声を上げた。彼は右手の森を見ていた。だが、敵が飛び出してきたのは左手の森からだった。

 ヤトの忍び衆の様に全身を黒装束で覆い、手には投げ付けようと短剣を振り上げていた。全部で三十人はいるだろうか。軽装なのに犬、いや、狐を模した鉄仮面をかぶっている。異様な集団だった。

「狐」

 シグマが呟くのが聴こえた。コモドは痛感していた。一番、浮足立ったいたのは自分だと。何がたまには自由になりたいだ。連戦連勝で気を良くし、迂闊を招いてしまった。

「うおおっ!」

 ウルフが手綱を操り狐へと突進する。

 狐らはアメリア老師よりも遥かに高々と跳躍しウルフの反対側に回るや彼を無視しこちらへ殺到してきた。

 こいつらは分かっているのだ。コモドが総大将だということを。シグマがコモドを庇い左右の手にそれぞれ剣を抜いて立ちふさがる。

 馬から下りたウルフが駆け付け狐達の背後から大剣で斬りつけたが、狐は再び跳躍し、コモドの背後に回った。

 と、コモドはシグマに押し倒された。頭上を短剣が通り過ぎて行った。

「こうなれば、シグマ殿! コモド殿だけでも逃がそう!」

「仕方あるまい」

 シグマはコモドから退いて狐に向かいながら応じた。

「コモド殿、早く馬に乗って!」

 ウルフが合流し急かした。だが、ここで二人を失うわけにはいかない。誰だってそうだ。仲間なら誰一人死んでほしくない。

「コモド殿!」

 ウルフが再度急き立てるが、コモドはクサナギノツルギを抜いた。

「ごめん、俺っちだけ逃げるわけにはいかない」

 コモドは二人に並んだ。

 シグマが溜息を吐き、ウルフは表情を歪めた。

 狐らが再び短剣を投擲しようと振り上げる。刃を指で挟むように持ちこちらへ投げ付けようとしていた。

「お前の覚悟は分かった」

 シグマはそれだけ言うと狐に突っ込んで行った。

 剣が二つの竜巻の如く荒々しい風切り音を上げて狐の中へ飛び込んだ。

 狐達は左右に散り、それでもコモド目掛けて短剣を投げ付けて来た。

「うおおおっ!」

 ウルフが吠え、大剣を振るい短剣を五つ叩き落とした。

 コモドは駆けた。狙いが俺ならもっと積極的に戦いを仕掛けてくるはずだ。乱戦に持ち込めば勝てない確率は減る。ウルフもシグマも乱戦ならば実力を発揮できる。

 コモドの狙い通り、狐達は小剣を抜いてコモドを迎え撃った。

 クサナギノツルギが敵の剣を圧し折る。そして素早く突きを入れ、一人の身体を貫いた。だが、驚いたことに胸を貫かれた狐はクサナギノツルギの刃を掴んで抵抗していた。

 コモドは剣から手を放し、短剣を抜いて襲い掛かって来た新手へと攻撃を切り替える。

 剣と剣がぶつかりあったと思った瞬間、狐は剣から手を放し跳躍して新たな短剣を突き出してコモドへ躍りかかって来た。

 すると、ウルフを踏み台にシグマが跳び、横合いから空中で敵の首を切り離した。血の雨が降り、重い頭と身体が地面に落ちた。

「コモド殿」

 クサナギノツルギを差し出しウルフが合流した。

「難しいかもしれないが、孤立せぬように、敵を散らそう」

 ウルフが提案し、三人は揃って突撃した。

 コモドが右へ、ウルフが左へと剣で牽制し敵を追う。

 狐達はバラバラになった。

 コモドは三人を相手取っていた。敵はもはや投擲など考えずに小剣を抜き、打ち合うつもりでいるようだ。クサナギノツルギに持ち替え、コモドは勇躍し敵の中へ飛び込んだ。

 剣を旋回させ、一人を斬り、残りは飛び込んで来た。

 慌てて刃を戻しつつ体勢を崩すコモドは後方に飛び退いて、狐の二連撃を避けた。そこへシグマが突っ込み、たちまちの内に血風を巻き起こし絶命させた。

「ありがとうシグマ」

「狐とやり合うには貴様では未熟すぎる」

 シグマはそう言った。

 背後ではウルフが気勢を上げて大剣を薙ぎ続け、狐を寄せ付けなかった。

 その時、街道の拠点の町方面から馬蹄が聴こえ始めた。

 六つの騎影が見えた。

 戟を片手にしたイシュタルを先頭にこちらへ向かって来る。

「コモド殿!」

 その声はソルド兵士長のものだった。

 援軍が合流し、コモドの前を固めると、狐らはまとまり森の中へと駆け去って行った。

「イシュタルさん、ソルド兵士長、援軍ありがとう」

 コモドが言うとイシュタルが応じた。

「全員無事?」

「ああ、心配かけたね、イシュタルさん」

 ウルフが応じた。

 コモドはソルド兵士長へ向き直った。

 兵士長は馬から下り、他の四人も馬から下りた。

「少々早い出立となりましたが、このソルド、四人の精兵と共にお約束通り合流しました」

 ソルドは口調こそ丁寧だが、頭は下げなかった。コモドもそれで良いと思った。ソルド兵士長とは対等でいたかった。言うなれば、ソルド兵士長は亡国の代表者だ。

「ソルド兵士長、皆さん、助かりました。本当によく来てくれました」

 コモドが心から言うと、イシュタルが溜息を吐き、厳かな目を向けて言った。

「コモドさん、今回は少々短慮すぎたわね。立場を自覚なさい。ウルフ、あなたもコモドさんの出撃を止めるべきだったわ」

「ごめんね、イシュタルさん」

「その通りだ、イシュタルさん、申し訳ない」

 二人が謝罪するとイシュタルは頷いた。

「このまま偵察に出るわよ」

「え? 戻らなくて良いの?」

 コモドが驚いて言うとソルドが応じた。

「この位置だと敵の制圧を受けている村へ近い。分かれるとなると帰り道にこの得体の知れない影の者どもがコモド殿を再び狙うとも限らん。ならば、このまま、まとまって偵察に出る方が安全性が高い」

 兵士長の言葉に率いられた精兵四騎が頷いた。

「そうだね、分かった。じゃあ、行こう」

 コモドはそう言い馬に跨った。

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