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コモドの帰還  作者: Lance
54/73

コモドの帰還54

 明朝、八時に三つの軍勢は市民の熱烈な激励と共に出立した。

 コモド隊を先頭にカツヨリ、フラマンタスが続き街道を歩んで行く。

 最初の村は突如として現れた軍勢に驚いた。こちらは村を半包囲し、逃げ出す者は忍び衆が背後に回り命を絶った。

 インバルコの兵、二百は降伏勧告に応じ速やかに門を開いたのであった。

 カツヨリ隊からのヤトの侍大将を守将として補給線を任せた。

「さて、これより三方に分かれるわけだ」

 カツヨリが言った。

「そうなりますね」

 コモドが応じフラマンタスが頷いた。

 インバルコの締め付けにより解放された村は大歓迎で一同を出迎えた。村長宅を借り話し合いは終わった。

「では、ウルスラグナ平原で会おうぞ」

 カツヨリが立ち上がり言い、手を差し出す。

「必ず」

 フラマンタスが手を握り締める。

「みんな、無事でね」

 コモドが手を重ねる。

 こうして軍勢は再び動きだす。

 カツヨリ隊とフラマンタス隊を見送り、コモド隊も前進する。

 コモドもこの方面に明るいわけでは無い。実際はただの田舎者だ。案内には地理に明るい民兵を先頭にさせた。その後を甲冑を鳴らしヤトのマサツネ率いる侍衆が歩む。民兵隊は装備はまばらで、皮やコモドのように厚く折った布地を鎧として着込み、矢筒と長弓を背負い、腰には剣か斧があり、手には長槍を持つ者もいた。特に長槍を持つ彼らは勇気と胆力を買われた矢面に立つことを望んでいる者達であった。これはエプシスのコモド達の、いや、コモドの問題なのだ。それなのに他国の兵力ばかりを犠牲にするわけにもいかず、コモドは悩んだ末の、彼の激励に応じた者達であった。

 行軍はヤトの兵達は晴れやかな朱の甲冑を鳴らすだけで無言で、民兵達は先の戦での連勝続きに浮かれている様子であった。

 ウルフは先頭にいる。コモドは馬に乗り民兵隊の最後尾に居り、隣にシグマが無言で馬に乗っていた。ヌイはヤトの中核にいた。

 行軍が停止した。

 民兵が駆け付けて来た。

 コモドも地図を見てそろそろだと思った。この先に町がある。城下ほどではないがそれなりに大きい。

「コモドさん、ウルフさんより報告だ、物見が見たところ町は静かなものだそうだ」

 偵察にはイシュタルと地理に明るい民兵が三人、馬で向かった。ちなみに馬に乗っているのは、コモド、シグマの他、ヌイ、イシュタル、マサツネ、斥候役の三人だ。馬が間に合わなかったのだ。ちなみにヌイはペケに乗っている。ロッシはおそらくロベルト村長が合流時に乗って来るだろう。

「ヌイさん、マサツネ殿」

 コモドが呼ぶと、二人が列から抜け出て来た、イシュタルが戻って来た。

「門は空いているわ。だけど、静かすぎるの。遠目だけど、外に人の気配も無かったわ」

 その報告に無関心そうなシグマ以外主要な一同は眉をひそめる。

「罠でしょうか」

 ヌイが言う。コモドもそう思った。だが、これまで忍び衆が厳格に逃れる者の口を封じて来た。コモドの出立も、クルー城にサラマンダーの旗が上がったことも知らないはずだ。

「姫様の言うように罠であるとしても、迂回するわけにもいきませんな。敵兵は町の中に身を潜め後方から襲って来る可能性があります」

 マサツネが言った。

「インバルコには……」

 シグマが空を見上げて口を開いた。

「狐という傭兵集団がいる」

「それがどうかしたの? 強いの?」

 コモドが問うとシグマはそのまま応じた。

「隠密的な動きが得意だ」

「ど、どうして前もっておっしゃって下さらなかったのです!? カツヨリお兄様も、フラマンタス殿も、その狐のことすら知らないんですよ!」

 ヌイが詰め寄った。

「何を言う。訊かれなかったからだ」

 シグマはヌイを見詰めて言った。

「姫御安堵召され。ヤトにはチヨの忍び集団がおります。フラマンタス殿達も建国戦を勝ち抜いてきた猛者、知勇もござろう。問題は一番軍勢として脆い我らです。コモド殿、罠とは知りつつ兵を進めるしかなそうですな」

 マサツネが髭の整った若い顔をしかめて言った。

「そのことですが」

 ウルフが進み出た。



 2



 コモドらは町を迂回した。

 イシュタルの言う通り、遠目だが、町は静寂に包まれ、まるで飛び込んで来いとでもいうように門口は怪しい誘いをかけてきているようにも見えた。

 甲冑武者が広がり粛々と行く姿が敵には見えるだろう。

 コモドは大将として、いや、この戦争の責任者としてヤトの兵と共にいた。

 背中にジリジリと汗が流れるのを感じる。

 隣にはマサツネとシグマがいる。

 両脇は緑色に染まった草藪と林木が続いていた。

「ウワアアアアッ!」

 かつてのシグマにも負けずとも劣らずの歓声を上げて背後から敵兵が駆けて来た。

「コモド殿、皆、今だ!」

 マサツネの声ともにコモドらは徒歩のヤト衆と共に左右に分かれて林木の中へと姿を消した。そして敵の前方に現れたのは。

「撃てえいっ!」

 ウルフが指揮する民兵隊だった。特にグロウストーン村とグミ村の者達は狩りを行うので長弓の扱いに長けていた。弓弦が次々鳴り響き、矢が嵐のように敵兵へ降り注いだ。

「待ち伏せだ!」

 敵が動揺する中、左右に散ったコモドらはここぞとばかりに少し深い草藪の中を駆け、混乱する敵の側面に着いた。

「かかれー!」

 マサツネが左側で声を上げる。

「こっちもだ! かかれ!」

 コモドも号令を張り上げる。

 ヤトの甲冑武者達が鎧を鳴らし、刀を振り、気勢を上げて、左右から敵の部隊へと斬りかかった。

「何をしている! 隊を立て直せ!」

 一人軍馬に乗った敵将が声を上げる。

「敵将と見ました! 我が名はヤトのヌイ! お命貰い受けます!」

 ヌイが戦場の間を抜けペケを疾走させる。

「ぬうっ!? 異国の戦士どもが!」

 薙刀と槍が交錯する。

 コモドはシグマと共にヌイの様子を眺めていた。

「このぉっ!」

 敵将が馬を寄せて体当たりをした。

 だが、ペケは動じない。

「おさらば!」

 ヌイが薙刀を薙ぐが、敵将は辛うじて受け止め、肘鉄でヌイの頬を打った。

「あっ!」

 ヌイが落馬する。

「ヌイさ――」

 コモドが言う前に一陣の風が吹き荒れ、シグマが股で鞍を挟み両手に剣を掲げて突入した。

「シグマさん!」

 ヌイが見上げて傭兵の名を口にした。

「新手か! 死ねえっ!」

「貴様が死ね」

 シグマは力強い太刀筋で左手一本で敵の槍を遮ると、右手の剣で喉を掻き切った。

「うぐっ!? ごぼっ!?」

 敵将が落馬し、悶え苦しんでいるが、少しすると止まった。死んだのだ。

「敵将は討ち取った! お前らはまだ戦を続けるか!?」

 マサツネが咆哮を上げると壊乱し、傷だらけの敵兵達は顔を見合わせ、武器を捨てた。

「ヌイさん、大丈夫!?」

 コモドが駆け付けると、ヌイは頷いた。そして窮地を救った傭兵へ顔を向けた。

「シグマ殿、助かりました」

「弱いくせに出しゃばるな」

 シグマはそう呟くように言うと背を向けた。

 ヌイが唇を噛み締め震えていているのをコモドは見ていた。

「ええいっ!」

 ヌイは苛立ったように地面に薙刀を突き刺した。

「ヌイさん、ごめんね。あいつ不愛想だから」

 コモドは驚いて宥めるように言った。

「……良いのです、コモドさん。御見苦しいところを見せてしまいました。私はまだまだです」

 ヌイがそう言うと、背を向けていたシグマがフンと鼻を鳴らした。

 こうして、コモドらはさしたる負傷者も出さず一方的な勝利を収め、おそらく虐げられていていたであろう人々に安全と解放を伝えるためにサラマンダーの連合旗を掲げ町へと戻ったのであった。

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