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コモドの帰還  作者: Lance
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コモドの帰還53

「志願兵求」

 城下の各所に立てられた看板の前ではそれぞれ人々が集い、熱心に眺めては話し合っていた。

「俺は聖人コモドと行くぞ! インバルコに三等市民にされた人達を助けるんだ!」

 一人が声を上げるとたちまちでんばし、人々は仕掛け人の町人に化けたヤトの忍びの言葉のまま声を揃えた。

「えいえいおー!」

 王宮の外回廊に傭兵シグマを従えて居たコモドはヤトの忍びを使ってまで人々の心をまとめる必要も無かったのではと思ったが、考え直す。それだと俺っち自身が聖人コモドの名声に甘んじていることになる。別にどうでも良いことだが、自分で自分の名声を認めるのは恥ずかしかった。

 聖人コモドと一行は王宮に滞在していた。あの戦争の中、クルーの王家の生き残りがいたのかは分からないが、玉座は空いたままだ。カツヨリが再三コモドに座る様に勧めてきたが、コモドは断った。自分になれるのはせめてグロウストーンの村長までだろう。とても王など恐れ多い。

 しかし、カツヨリは食い下がった。

「もしもクルーの王家の生き残りがいたらどうする? 我らは盆暗クルー王家に力を貸したのではない。勇者コモドにして聖人コモド殿に力添えをしたかったからこそ、共に行こうと決めたのだ」

 クルー王家の生き残りなんかいるのだろうか。だが、カツヨリの意見も一理ある。盆暗王族に人々は任せておけない。ならばどうする? 豪華絢爛だったはずの客間はインバルコの略奪にあったらしくベッドと掛布団しか無かった。コモドはベッドに横になり眼を閉じた。

 二日後、ロベルトとパパスが喜び勇んでやって来た。

 コモドは中庭で流星鎚を振るい身体の調整をしていた。

「聴けコモド、志願兵は一万人に達したぞ」

 ロベルトがまず口火を開く。

「こいつらを鍛えるのに三週間は欲しい。陣形の組み方と武器の扱い方ぐらいは教えないとな」

 パパスが言った。喜んでいる様に見える。二人とも武器は扱えたが、ただの村民。陣形などには詳しくは無かったはずだ。ヤトの武者と教会戦士団の力を借りることになるだろう。

 しかし、三週間。これは時間が掛かり過ぎでは無いだろうか。インバルコはこの状況を掴んでいるのかは分からないが、各町村にはまばらに兵が配置されているはずだ。この状況を知らないなら今のうちに電撃的に次々落として行くべきではないだろうか。

 会議室でコモドがそう言うと、カツヨリは尤もだと頷いた。

「だが、ただの民を最低限の兵に仕上げるには日数はそれなりに掛かるだろう。コモド殿、貴公はどこまで戦線を伸ばすつもりだ?」

 大きなエプシス大陸の地図を広げ、横に長い大陸の真ん中にコモドは駒を置いた。

「ウルスラグナ平原か」

 ウルフが言った。彼にも知恵を借りるために出席してもらったのだ。

 元々の国境線だった。そしてここで最初の戦は行われた。コモドらはただ最初から逃げに徹した少々後味の悪い出来事であった。

「金鉱はインバルコにくれてやるつもり。少しは溜飲を下げるかもしれない」

「それは良いが、当然、我らの動きも敵も察することになるだろう。コモド殿が元の国境以上動かないのなら、ウルスラグナ平原で大きな一戦が起きることは必然だ。今度はインバルコに噛みつこうなどという甘い考えではいかん、併呑するつもりで戦わねばな」

 カツヨリが言った。

 結局、ロベルトとパパスに民兵の鍛錬は任せ、その間に各地を落とし、ウルスラグナ平原で旗を広げて待つということになった。

「そうそう、非常時だけどこの連合軍の国旗が出来たんだ。さっき仕立て屋さんが持ってきてくれた」

 コモドは片側をフラマンタスに持ってもらい、軍旗を広げた。

 白地に金の縁取りで囲まれ、真ん中に緑色の広葉樹の葉が一枚描かれその上に赤いトカゲが記されていた。上を向き火を吹いている。

「どうかな?」

 コモドが言うと、コウサカが応じた。

「この大陸のトカゲは赤いのですかな? ヤトにはトカゲに似た水生生物のイモリがおりますが」

「それは今度見て見たいな。これはね、精霊だよ。サラマンダーっていう火の精霊。俺達の気運を現してるつもりなんだ。みんな、今、燃えてるでしょう?」

 コモドが問うと一同は頷いた。

 カツヨリが拍手を送り残る一同も続いた。この部屋にはコモド、カツヨリ、フラマンタス、ロベルト、パパス、ウルフ、ヌイ、コウサカがいる。シグマも扉の隣に立っているが拍手はくれなかった。興味が無いという顔だった。

 話し合いは続いた。道は何も一本だけではない。間道を通った先にある人里の様子も気になる。

 ここに来て三千になる連合の正規兵隊を分散させることになった。敵の備えが万全なら戻り、そうじゃないなら攻め落とすということになった。大将は三人。カツヨリ、フラマンタス、そしてコモドだ。

 カツヨリは千五百のうち千を率い、五百をヌイと共にコモドに従わせると言った。コモドはウルフを副官にグロウストーンらの民兵とヤトの武者を率いることになった。フラマンタスは手勢は六百にも満たないが、建国戦を経験した古強者も多く、隙も無い厚い重装備のため刃にも矢じりにも屈しないことを理由に我が手勢は千の働きをすると豪語した。カツヨリが笑って讃えていた。

 コモドは中央を行き北東をフラマンタスが、南東をカツヨリが行く。

 それぞれの隊の編成のため主だった者達が部屋を後にした。ロベルトとパパスはアメリア老師と共に練兵の打ち合わせに去った。残ったのはウルフとヌイ、シグマに、呼ぼうと思っていたところに現れたイシュタルだった。コモドが頼りにする者達だった。そこに扉が叩かれた。

「御ヌイ様、コモド殿、それがし、マサツネと申します」

 シグマが渋々扉を開ける役を買って出て開くと、若いが口髭を蓄えた赤い甲冑武者が立っていた。

「マサツネ、あなたが共に来てくれるのですね」

 ヌイが嬉しそうに言い、マサツネは頭を下げた。

「ヤトの侍衆を指揮させていただきます。若輩ですが何卒よしなに」

 コモドよりも確かに若いが、身体は鍛えこまれているようだった。

「こちらこそ、御助力ありがとうございます。どうぞ、よろしく」

 コモドはマサツネと握手を交わした。

 こうして連合軍の侍衆五百と民兵三百を合わせたコモド大隊の顔となる者達が此処に集ったのであった。

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